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ミータンとムータンはかわゆい女の子


    ミータンとムータンがやって来た


真夜中の闖入者を事務所の椅子に縛りつけるかどうか悩んでいる時に、キーンコーンとチャイムが鳴りました。

「いらっしゃいませ。」

 ドアを見ると二人の若い女性が入って来ました。

「あたしさあ、もうやんなっちゃう。」

 カツンカツ、カツカツカツンと不規則な四つの靴の音。スナックの仕事を終えたミータンとムータンです。

「ねえねえ、ミータンの爪見せて、うわーいいな。このネイルエナメルはどこで買ったの、教えて。」

ミータンはムータンの手を掴んで熱心にムータンの爪を見ています。ムータンはミータンに手を掴まれて不自由な歩きで時々転びそうになります。二人とも泥酔状態のようです。

「広の奴、今日もつけをしたんだよ。同級生だったからといってさ、許せるものじゃないよ。」

ムータンは不機嫌のようです。

「この色はグリーンなの、紫なの。いい色だなあ。ねえ、どこの店で買ったの、教えて。」

ミータンはムータンのネイルエナメルに興味深々でムータンの話を聞いていません。

「広がつけをしたために、今日もママに叱られたんだから。終いにはさママはなんと言ったと思う。広のつけはあたしが責任取れってさ。ああ、もうやんなっちゃうよ。広の奴、近いうちにシメてやる。」

「だからさあ、ムータンのこのネイルエナメルはどこで買ったの。教えてよ。」

「ちょっとお、ミータンはあたしの話を聞いているの。」

「うん、聞いてる聞いてる。聞いてるからさ、このネイルエナメルを売っている店の名前を教えて。」


 ミータンとムータンは十八歳です。二人は近くのスナックで働いています。二人は幼友達で中学を卒業して直ぐにスナックの仕事をやるようになったようです。付けまつげに濃いアイライン、化粧を厚くしているので一見二十二、三才に見えます。


「おじさんおはよう。」

ムータンは私にいつもの挨拶をしました。ミータンもムータンに続いて、「おじさんおはよう。」

と言いました。私はふたりに、

「おはよう。」

と挨拶を返しました。

「おじさんの子供なの。」

ムータンは私の傍に立っている真夜中の闖入者に気づき、私に聞きました。

「いや、私の子供じゃない。二人はこの子の顔に見覚えはないかな。」

「あ、こいつ裸足だ。ファッショナブルだあ。」

ミータンは真夜中の闖入者が裸足であるのに気づいてはしゃぎました。ミータンは、

「おじさんの子供は馬鹿だねえ。裸足でコンビニに来るなんて馬鹿だよ。うん馬鹿だよ。」

と言って笑いました。どうやら、ミータンはムータンの「おじさんの子供なの。」という質問を、「おじさんの子供。」と聞き違いしたようです。

「私の子供ではないよ。君たちはこの顔に見覚えないかな。」

「ムータンムータン、見て見て。この子裸足だよ。アハハハハ。この子はおかしいよ。おじさんの子供、絶対におかしい。アハハハハハ。とーってもファッショナブルー。」

と笑いながらミータンは後ろに倒れそうになりました。カツンカツカツとミータンは後ずさりしました。

「二人ともこの子の顔をよく見てくれ。どうだ、見たことないか。最近じゃなくてもいい。昔でもいいからさ。」

ムータンは真夜中の闖入者の顔を凝視して、顔を横に振りました。

「ムータンは見たことないなあ。ミータンはどう。この子を見たことがあるかなあ。」

ミータンはムータンに言われて真夜中の闖入者の顔を見ました。

「ううん、見たことがあるようなないような。なんか変な顔だなあ。あんたいくつなの。」

ミータンは真夜中の闖入者の顔を見ながら詰め寄りました。

「ねえ、いくつなのよ。」

 真夜中の闖入者はミータンに詰め寄られて後ずさりしました。私や先程の若者が詰め寄ると、真夜中の闖入者は嫌がっているか恐がっているかどちらかの表情をしていましたが、ミータンやムータンに詰め寄られると気恥かしそうな表情になりました。真夜中の闖入者は男と女の判別はするようです。

「おじさん、この子はなんなの。」

「お金を持たずに買い物に来たんだよ。」

「お金を持たないで買い物に来たの。」

ムータンは「ふうん。」と言いながら真夜中の闖入者を顔から足まで観察を始めました。どうやらムータンは真夜中の闖入者が裸足であり、顔の表情もおかしいので真夜中の闖入者が普通の人間ではないことに気づいたようです。ところがミータンはまだ気づいていないようで、「お金を持たずに買い物に来たんだよ。」という私の話を真に受けて、

「ムータン、この子はあたしたちの中学生の時と同じことをやりに来たんだ。こら少年。万引きは駄目ですよ。犯罪ですよ。刑務所に入れられるんですよ。直ぐに止めなさい。」

と、真夜中の闖入者を説教しました。

「君、名前はなんと言うの。住所はどこなの。お父さんの名前とお母さんの名前を言いなさい。君のお父さんとお母さんは万引きは悪いことだと教えなかったのか。万引きは立派な窃盗罪だからね。犯罪なんですよ。分かりますか。」

ミータンの口振りは警官が説教しているようです。ミータンは自分が中学生の時に万引きで捕まって警官に説教されたことをそのまま真夜中の闖入者に話しているのだろう。すらすらと言えるのは一度や二度ではなく何度も警察に捕まり、同じことを何度も聞かされる内にすらすらと警官の口真似ができるようになったのだろう。ミータンとムータンは中学生の時、恐らく万引きの常習者だったのだろう。

「おじさん。この子はこれなの。」

と言って、ムータンは耳の傍で手でくるくるぱーをやりました。

「そうなんだ。お菓子を抱えて離さないんだ。無理に取ろうとしたら暴れるし困っているんだ。」

ムータンは真顔になりました。

「ミータン。この子は頭が変なんだってよ。」

「ミータンと同じくらい頭が変なの。」

「そういうことじゃないの。本当に頭が変だってことなの。おじさん、なんと言ったっけ、ほら、バカとかじゃなくて、脳膜炎、そう脳膜炎。いや、脳膜炎ではないな。ゲレンパーでもないし。なんと言ったっけな。最近は別の言葉だったな。なんて言ったかな、頭がパーな人間をちゃんとした言葉で。」

「知的障害者のことかい。」

「そうそう、その知的なんとか。この子は知的なんとかなの。」

「そうなんだ。話はできないし、お菓子は離さないし困っているよ。」

「わかった。あたしたちがお菓子を取ってあげる。万引きは悪いことだよね。子供を卒業して大人になって万引きは悪いことであることがムータンは分かってきた。万引きはやってはいけないことなのよねおじさん。」

ムータンは真夜中の闖入者が知的障害者であることをミータンに説明しましたが泥酔状態のミータンには理解できないようです。


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