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真夜中のコンビニエンスに奇妙な男が入ってきた。

午前三時に奇妙な少年がやって来た


私はコンビニエンスの深夜パートをやっている初老の男です。

午前0時から午前八時までが私のパートの時間帯です。人々が寝ている時間に仕事をやり、人々が仕事を始める頃に私はパートの仕事を終え、アパートに帰って就寝するのです。こうもりのような生活をするようになって二年が過ぎました。


深夜は客が少ない。多くの人は夜に寝るのですから深夜に客が少ないのは当たり

前のことです。しかし、深夜に客が少ないから深夜のパートは暇でのんびりと仕事をしているのかといえばそうではありません。深夜パートもそれなりの仕事があり、それなりにハードなのです。

深夜は道路を走る車が少ないです。ですから、スムーズに自動車は走れます。コンビニエンスに商品を配達する配送車は渋滞のない深夜に走れば定刻通りに配達ができます。ですからコンビニエンスのほとんどの商品は深夜に運ばれて来るのです。深夜パートの仕事の中心は客の応対よりも商品を陳列棚に並べることです。

私が働いているコンビニエンスの深夜パートは私一人です。深夜パートが二人なら仕事は楽なのですが、私一人で買い物に来た客の応対をしながら山のような商品を陳列棚に並べていくのです。仕事はけっこうハードなのです。

午前一、二時の頃はちょくちょく客が入って来ます。しかし、午前三時頃になるとぱったりと客は途絶えます。客がいないのは私にとって都合がいいことです。客が一人も居ない時が商品を陳列棚に集中的に並べるチャンスなのです。


あの夜も、BGMだけが聞こえる午前三時の誰も居ないコンビニエンスで、私はいつものように黙々と商品を陳列棚に並べていました。ポテトチップスの大袋を一番下の陳列棚に並べている時、


キーンコーン。


とドアのチャイムが鳴りました。私は、

「いらっしゃいませ。」

と言い、急いでポテトチップスを棚に入れてから立ち上がり、ドアの方を見ました。


客がドアからレジカウンターに向かっている時はタバコを買う客です。その時は私は急いでレジカウンターの方に行きます。そして、カウンター内にあるタバコを客に売ります。客が壁際の雑誌コーナーに歩いて行けば、雑誌の立ち読みをする客ですから、私は客が雑誌の立ち読みするのを見届けると、再び商品を陳列棚に並べる作業を続けます。雑誌コーナーの奥にトイレがあります。雑誌の立ち読みをしないでトイレに直行する客もいます、ソフトドリンクコーナーに行く客。インスタント食品のコーナーに行く客、ファースフードコーナーに急ぎ足で行く客、牛乳、健康飲料コーナーに行く客と、コンビニエンスに入って来る客の動きは色々です。私は客の動きを見ながら、商品を陳列棚に並べます。そして、客がレジカウンターに向かって歩いているのを見ると急いでレジカウンターの方へ走って行き、客を迎えるのです。

商品を陳列棚に並べるのに夢中になって、客がレジカウンターにやって来ても気づかない時は客に怒られます。しかし、客を意識し過ぎてレジカウンターに張り付いていては、商品を陳列棚に並べる作業が疎かになります。客が店内に居る時の深夜パートは客の動きを見ながら商品を陳列棚に並べるのです。

深夜パートは山のような商品を陳列棚に並べながら客の動きに気を配らなければならない、けっこう神経を使う仕事なのです。


ドアのチャイムが鳴ったので、私はコンビニエンスに入ってくる客がどのコーナーに行くのかを見定めるためにドアの方を見ました。ドアには少年が立っていました。

午前三時の深夜にコンビニエンスに来る少年は滅多にいません。私は不思議に思いながら少年を見ていました。

少年はドアに立ったまま店内をじろじろと見回しています。ドアで立ち止まる客というのはほとんどいません。コンビニエンスに入ってくる客は、お菓子、ソフトドリンク、ファーストフード、タバコなど、自分が買いたい商品はコンビニエンスに入る前に決めているのが普通です。ですから、コンビニエンスに入ってきた客は自分が買いたい商品を陳列しているコーナーに向かってさっさと歩いていきます。しかし、少年は他の客のようにすぐには店に入って来ません。私は、店の中に入って来ない少年を妙に思いながら、少年がどこに向かって歩き出すのかを見定めるために少年が店に入るのを待っていました。

少年は寝巻きの上に縞模様のちゃんちゃんこを着けていました。冬ですからちゃんちゃんこをつけてコンビニエンスに来るのは珍しくないのですが、しかし、少年の姿は何か変です。私は少年を注意深く見ました。

少年のちゃんちゃんこが大きく左側にずれています。少年はちゃんちゃんこがずれているのを知らない風で、ちゃんちゃんこを直そうとしません。ちゃんちゃんこが大きくずれれば普通の人間なら無意識に直します。しかし、ドアに立っている少年はちゃんちゃんこのずれを直しません。なんだか妙な感じです。それに少年の顔の様子もおかしい。顔は斜め気味であり、横を見たり下を見たりしていますが店の中を観察しているというより無意味に顔を動かしているようです。少年の顔の動きは普通の人間の動きに比べてぎこちない感じがします。

私は少年に異様なものを感じました。

少年が店内に入って来ました。よっぱらいのようによたよたとふらついた足取りです。少年はあぶっなかしい足取りで店内を歩き回り始めました。酒を飲んでいるのだろうか。私は少年の動きから目を離せなくなりました。

少年はラーメンを食い入るように見たかと思うと缶詰のコーナーに行って缶詰を食い入るように見てから、化粧品コーナー、洗剤コーナーでも同じことをしました。お菓子コーナーに来て、少年はお菓子を取ってしげしげと見つめています。


私は少年の足を見て驚きました。少年はなんと裸足なのです。少年はぺたぺたと裸足で店内を歩き回っていたのです。深夜に裸足でコンビニエンスに入って来たということは、少年は家からコンビニエンスまで裸足で歩いてきたということです。今の時代に裸足で道を歩くのは考えられないことです。しかも夜の道です。

少年の服装のバランスは崩れているし、顔の表情もおかしい、そして裸足で歩いています。普通ではありません。奇妙な少年です。

私はお菓子を物色している少年に近づいて、

「いらっしゃいませ。なにを探しているのかな。」

と声をかけました。しかし、少年は私の声に反応を示しませんでした。少年は私を無視したのです。

私は少年に、

「もしもし。」

と言いました。まるで私の声が聞こえないかのように少年は私の声に反応しません。耳が聞こえないのだろうか。どうも、そうではないような気がします。

・・・・この少年は普通の人間ではない。・・・・無反応な少年に私は気味悪さを感じました。私は恐る恐る少年の肩を軽く叩いて、

「もしもし。」

と言いました。しかし、少年は反応しません。肩を叩いても反応しないということは、私の声に反応しなかったのは耳が聞こえない性ではなかったようです。

呼びかけても肩を叩いても少年は反応しません。不気味です。できるならこんな気味の悪い少年には関わりたくありません。それが素直な私の気持ちでした。しかし、私はこのコンビニエンスの深夜パートです。コンビニエンスに入って来た奇妙な少年をそのまま放置するわけにはいきません。

肩を叩いても反応がないのなら肩をゆするしかありません。しかし、肩を掴んだ瞬間に少年が暴れないだろうか。私は少年の肩を掴むのに不気味な恐さがありました。もしかすると私が少年の肩を掴んだ瞬間に、少年がゾンビのような顔になって私の手に噛み付くかもしれないというイメージが私の脳裏に浮かんでいました。そんな恐怖を持ちながら私は恐る恐る少年の肩を掴んだのです。少年は反応しませんでした。私は少年の肩をゆすりました。そして、

「もしもし。」

と呼びかけました。しかし、少年は反応しません。私はもう一度少年の肩をゆすりました。

「もしもし。」

しかし、少年は反応しません。私は無反応な少年に困りました。

少年を探している親がやって来ないかと期待しながら私はドアの方を見ました。しかし、チャイムは鳴らないしドアも開きません。

私は少年を探している親がドアから入って来るのをあきらめて、ドアから少年に目を移しました。少年はポテトチップスの袋を開けようとしています。私は慌てて少年の手首を掴みました。

「袋を開けたら駄目だよ。」

と私は少年を叱りました。すると少年は、

「うう、うう。」

と喉の奥から這い出るような気味の悪い声を発しました。私は思わず気味の悪い声に怯んで少年から手を離しました。

少年は、「うう、うう。」とうなりました。少年は話すことができないのだろうか。そんなことはないだろうと思いながら私は再び少年の肩をつかんで肩を揺らしながら、

「もしもし。」

と言い、

「私の言葉が分かるか。」

と言いながら少年の顔を見ました。少年の顔は無表情で私の問いに反応しませんでした。・・・少年は言葉が分からないかもしれない・・・。もし、言葉が分からないのなら、店内をうろうろしないように注意しても少年は聞き入れそうにありません。

「家はどこなのか。」

本当に少年が言葉を分からないか、それを確かめるために私は質問をしました。しかし、少年は返事をしませんでした。

「家の電話番号を教えてくれないか。」

と言いながら少年の顔の表情が変化するかどうかを見ました。少年の顔は変化しませんでした。少年から電話番号を聞くことができれば少年の親に連絡することができますが残念ながらそれはできそうもありません。私は困りました。とにかく、少年をなんとかしないと商品を陳列棚に入れる仕事をすることができません。

午前三時過ぎ。深夜。客とは言えない少年が一人。途方にくれる深夜パートの初老の男が一人。


少年の「うう、うう。」とうなる声を聞いて私は首を傾げました。少年にしては声が太いのです。その声は少年の声ではない気がしました。少年と思っていたのは私の勘違いかもしれません。私は少年の顔をじっくりと見ました。よく見ると少年の顔ではありません。頬はこけて、顎は張り、顎ひげも生え、膚は乾いている。眉毛は異様に太く濃い。一見少年のように見えた真夜中の闖入者は近くでよく見ると二十歳を超えているのではないかと思える顔です。私はますます少年いや真夜中の闖入者に異様な恐さを感じました。


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