遊歩道
「なぁ賢太、怖い話聞きたいか?」
昼休みの屋上で突然、裕太が話を持ち出してきた。
「どんな話だ」
「おっ、やっぱり乗ってきたな」
怖い話は賢太も嫌いではなく、どんな話をしてくるのかと裕太が話し出すのをじっと待った。
「学校の周りに遊歩道があるだろ……」
「……ああ」
「実は少し前から俺……、晩飯の後に散歩でよくあの遊歩道を歩いてるんだよ、そこで起こった出来事なんだけどよ……」
裕太は少し間を空けると、ぐいっと賢太に顔を近づけてきた。
「見たんだよ……幽霊ってやつをよ……、それですっごい怖い思いをしちまったんだ」
「怖い話ってのはお前の体験談なのか?」
「ああ……まぁ聞いてくれ、あの遊歩道って夜になると殆ど人が通らないんだ、そりゃそうさ街灯もないし竹やぶもあって気持ち悪いもんな、でも俺は逆に気楽に食後の散歩出来ると思って歩いていたんだ」
「それで?」
少しづつ賢太の眼差しに緊張と興奮が宿ってくる。
「頭にライトを付けながら何時も通りに散歩をしていた時なんだ……、ふと竹やぶにライトの光が当たった時に女の人を見たんだ……、おれも最初びくっとしてさ何してんだろうとじっと見てたんだ、でもその女の人は下を向いてじっと突っ立ってるんだよ、本当にピクリともしないで赤い服を着てたのを今でもはっきり覚えてるよ」
「…………」
賢太は話の腰を折らないように無駄口を云わずに聞き入った。
「俺も其処にじっとしてるのも嫌だったし、さっさと通り過ぎて行こうと女の人を見ながら歩き出したんだ、そしたらさ、女の人の前を通り過ぎようとした時に、いきなり女の人が消えて俺の目の前に現れたんだ……、道の反対側に居たんだぜ、少なくとも5mは離れてたはずだ、それが一瞬にして眼の前だぜ」
ごくりと、賢太の喉が鳴った。
「いきなりで驚いてしまって、俺……反射的に女の人の鳩尾に拳を入れちまったんだ……、本当にそんな事する気もなかったんだ、つい手が出ちまったんだよ……、女の人は腰を曲げて崩れ落ちちまってよ、やべえやっちまった傷害を犯しちまったって思ったさ、でもライトで地面を照らすと女の人は何処にも居なかった……」
震えながら裕太は説明してきた。
「……それでどうなったんだ」
何か嫌な予感がしだした賢太が裕太に聞いてみた。
「ああ、俺すごく怖くなってさ走って帰ったんだ、それからあの道を何度か通ったけど女の人が倒れていたとか警察沙汰になったとかは一切聞かないしよ、それ以来女の人も見かけないし、もしかしてあれが幽霊だったのかって思っちゃったんだ、ただあの道を通る度に女の人のことを考えて、いつも思うことがあるんだよ」
「どんな事だ?」
「犯罪者にならなくてよかったなって……」
裕太がほっと胸をなでおろす仕草をしてきた。
「…………、俺が今度呪われるらしい場所に連れて行ってやるよ、一度呪われたほうが良い」
賢太が真顔で言った。