美術室
とうに生徒の帰った時間、電気の消えた美術室……。
雑多に置かれた椅子や沢山のイーゼルとキャンパスや有名な彫刻のレプリカが所狭しと並んでいた。
白い彫刻は夕暮れの陽光を浴びて真っ赤に染まっている。
この部屋に美術部員の女生徒が忘れ物を取りに来た時だった。
教室のドアを開けて入るとその女生徒が教室に入った途端、背中にぞくっとした寒気というか違和感を感じて教室を見渡した。
特に変わった様子はなかったのに誰かに見られている視線がして身震いをする。
注意深く見回すと、視線の先には彫刻がいつもより一つ多いのに気づいた。
はっとした生徒が見ると、夕陽の影になった部屋の隅に見慣れぬ彫刻がこちらを見て笑っていたのだ。
「きゃあああ!」
薄暗く顔の輪郭がぼやけていたのに、口元だけははっきりと口角を上げて女生徒に向けられていた。
その冷たい笑みを見た女生徒は一気にパニックになり、教室を飛び出し大声で廊下を駆け下りていった。
その後、教員と女生徒が見に来たときには笑っていた彫刻の跡形はきれいになくなっていた……。
それから噂が飛び交い夕暮れの美術室には誰も近付く者はいなくなった。
「おまたぁ」
「遅えよ、直ぐ終わるって言ってたから待ってたのに何してたんだ?」
走ってきた裕太が軽い挨拶をしてきて、校庭で待っていた賢太が怒った。
「へへっ、補習逃げてきた」
あっけらかんと答えた裕太に、賢太は呆れていた。
「いいのかよ」
「先生に追っかけられたから隠れていたんだ、だってよどうせ補習しても分かんねえもんは無駄な努力だろ」
「少しは勉強しろよな」
「今日は無理無理、今から五平餅食いに行く約束だろ、早く行こうぜ」
二人が学校を出て行くと、裕太がふと振り返って校舎を見つめた。
「あの子に悪いことしちまったな、可愛かったから思わずにやけちまった……まぁいいか」
裕太はそう呟くと、ごっへーもちっと大声を上げて笑いながら帰っていった。