音楽室
よく言われる音楽室での怪奇現象。
誰も居ない部屋からピアノの音が流れてきたり、飾られている音楽家の絵が動いたりと何処の学校でも定番の怖い話があるが、賢太と裕太の中学校でもそのような噂が立っていた。
今更誰も怖がらないだろうと思われがちだったが、二人が在学中にある女子生徒から学校中に広まった話があった。
その女子生徒が雨降る放課後に一人でピアノの練習をしていたときだった。
窓の上から人の顔が現れ教室の中を覗いたというのだ。
ここは一階、勿論外に柵もなく人が窓の外から覗けるはずもない、だが窓の隅から表れた男の顔が怒りに満ちた形相で女生徒を睨んでいた。
雨に濡れたその髪はべっとりと頬に張り付き歯をむき出していて、恐ろしくなった女生徒は金切り声を上げて逃げ出してきたという。
次の日からその女生徒は寝込んでしまい数日休んでしまったという。
放課後、賢太と裕太は二階の自分達の教室にいた時のことだった。
空はどんよりとしていて今にも雨が降りそうな天気で運動場にはどこの運動部も練習はしておらず、がらんとしていた。
「あぁあ、明日は金曜だぜ、終わったら何処かに遊びに行きてえな」
屋上の手すりにもたれ掛かり上を向いていた裕太が暇そうにしていた。
「何処に行くんだよ、もうすぐ音楽のテストあるんだろ、ちゃんと縦笛を吹けるようになったのか」
「別に笛吹けてもしようがないだろ、音楽の道にいかねえもん」
裕太が体の向きを変えようと手すりに乗りかかった時だった。
体重が前へと流れてしまい、屋上から体半分落ちてしまった。
「危ねえ!」
咄嗟に賢太が裕太の服を掴んで落下を止めたが、裕太の上半身が少しずつ落ち始める。
「うおおお」
必死に引っ張る賢太だったが流石は技術部、力が無かった。
そこに空からから雨も降り始めてずぶ濡れになり、裕太は音楽室の窓に掴まるが徐々に下へと落ちていくのを我慢していたときに音楽教室にいた女の子と目が合ってしまった。
女の子を怖がらせないようにと裕太が満面の笑顔を振りまくと、その女の子が逃げ出していき裕太も雨で滑ってしまい、下の茂みの中に落ちてしまった。
「いやぁあの時はびびったよ、二階だったけど草むらのおかげで怪我もしなかったしな、運が良かった」
裕太が気楽に言い放つ。
「全くだ、こっちも焦ったよ、もう少し考えろよな」
「悪ぃ悪ぃ、はははっ」
「知ってるか? 最近他のクラスでずっと休んでる奴が居るらしいぞ」
唐突に賢太が言ってきた。
「この学校は良い奴ばかりなのに不登校かよ、けしからんな……」
と、裕太が親父風を装って怒っていた。