二宮金次郎
今はもう無くなったが昔は校庭に二宮金次郎の銅像が飾られていた。
校長でさえいつ撤去したのかは記憶も記録もなく、だが確かにあったことだけは覚えていた。
そしていつからか語られる事になった、金治郎が閉まった後の校舎の廊下を走る姿を……。
気が付けばその姿は消え失せ、校舎には誰もおらず静まり返っていたと何人もの人が目撃していた。
それは賢太と裕太が卒業した後に広まっていったことだった、教師や宿直員が金治郎を見たとまことしやかに広がり、今では学校の七不思議に加えられたほどだった。
「中学が懐かしいな」
賢太が見慣れていない高校の校舎を見ながら呟いた。
「年は取るもんだろ、しようがねえ」
感慨もなく裕太が言う。
「お前に付き合わされた三年間だぜ、思えばお前よく帰りに忘れ物してたな、宿題もしないのに」
「はは、そうだったな、いつも校門閉まってたから乗り越えてた、懐かしいな鞄背負ってよく廊下走ってたしな、誰もいない校舎って何かわくわくするよな、人にたまに見られたこともあったけどさっと隠れたりして面白かったな」
はははっ、と裕太が笑っていた。
「校門で待ってたこっちの身にもなれよな」
「感謝してるよ、よしお礼に今日の帰りにソーセージ食わしてやるから喜べ」
裕太が胸を張って言った。
「極太ソーセージしか受け付けないからな」
二人は肩を組んで笑いながら下校していった。