表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

02 お世話係

 入学式を無事に終えた私は執事の運転するリムジンに乗って、天上院家の豪邸へと向かいます。ふかふかの広々とした座席は、転生前の自宅のソファが座布団に感じてしまうほどの上質な座り心地。車内には優雅なクラシックが流れ、座席の横の小型冷蔵庫にはおいしいジュースが何本も仕舞われています。ああ、いっそここに住んじゃいたい。海外を飛び回っているお父様とお母様は入学式に顔を出した後、すぐにフランスへ行ってしまわれたので、10人は軽く座れそうな車内には私一人だけ。私はこの後どうなるか何度も読み返した原作を頭の中で呼び起こしてみました。

 

 『宝玉』では、入試2位で入学した天上院櫻子は、1位合格の高橋薫に逆恨みして入学1週間後にあるリゾート地への新入生歓迎旅行の時に古いコテージの物置に薫を閉じ込める。そこで、ヒーロー三宮龍馬が薫を助け出したのをきっかけに二人は出会うはず。この後、密に龍馬を狙っていた櫻子が更に薫に嫌がらせをしていく……。我ながらとんだ悪役になっちゃったもんです。まあ、私は龍馬×薫ペア押しなので原作の櫻子みたいな事はしませんけど。


 いや、待てよ。私が嫌がらせをしたことが切っ掛けで二人が出会うのなら、ここで何もしないでいると龍馬は薫と結ばれなくなっちゃう!? それは困ります。なんとかして彼女たちをくっつけないと。


 そんな事を脳内で考えていると、いつの間にかリムジンは天上院家の敷地内に入っていました。敷地内とは言っても、ここから更に5分ほど車を走らせないと住居には着かないのだけど。家を出る時も思いましたが漫画だから仕方ないけど、漫画みたいな豪邸です。四季折々の花が咲く庭園を車で走ること数分、ようやくお家に着きました。さっきまで入学式をやっていた学園といい勝負が出来そうなほど大きな我が家。昨日転生したばかりなので、まだ家の間取りを把握し切れてません。早く覚えないと家族に怪しまれちゃうかもしれない。私は午後は自宅を探検して過ごすことにしました。


 天上院家には両親と私の他に十数人の使用人さんが暮らしています。私、櫻子には兄弟はおらず両親も多忙なので使用人さんが家族代わりだと確か原作では語られてました。名家である天上院家を絶やさないように、両親はエリート家系ばかり集まる宝玉学園に私を入れ、婿入り相手を探させるのが裏口入学の真相。庶民出身の私には理解できませんが、天上院の血を継ぐ相手にふさわしい血筋の者がいるらしいのです。その点、三宮大吾様の実家の三宮家は天上院家と並ぶ名家。ここは両親の為にも頑張りましょう。

 

 屋敷を巡り終えた私は、1週間後に控えた新入生歓迎旅行で2人を出会わせるための計画を練ることにしました。この旅行は1年生同士の親睦を深めるために行われるイベントで、三宮家が学園に寄贈した山奥の山荘に1泊2日する学園行事の1つ。基本的に1年生と引率の先生しか参加しませんが、生徒会長かつ山荘の管理者代表として三宮龍馬様も行事に参加します。龍馬がイベントに現れたのは原作では旅行開始の挨拶の時と、ディナーの時、そして薫を物置に閉じ込めた時の3ポイント。このいずれかのタイミングで薫と龍馬を引き合わせるのが今回の私のミッションです。


 物置に閉じ込めるのは最終手段として、ディナーの時が一番自然にターゲットを出会わせることが出来そう。夕食はバイキング形式の立食パーティ。薫と仲良くなって一緒にバイキングを回っていればチャンスはいくらでも作れそうね。そう考えた私は、旅行開始までの1週間で薫と知り合う事に決めました。



***

 翌日。リムジンで学園に乗り付けると私のクラス、1年薔薇組へと向かおうとする。原作通り、私と薫は同じクラスで大吾が隣の百合組。校門をくぐると、私の姿を見た他の生徒がさっと道を開けた。


 ……? なんで周りの生徒は私を避けるのかしら。


 顔に何かついているのかと思った私が、手で顔をごしごししていると数人の女生徒がハンカチをもって駆け寄ってきます。


 「櫻子様! よろしければこれをお使いになってくださいませ。」

 「あなたたちは?」

 「申し遅れました。私どもは本日から櫻子様の身の回りのお世話を従事させていただく雑用係にございます。ご用件がございましたらなんなりとお申しつけ下さいませ。」


 金魚の糞だ。原作でも櫻子の周りを常に離れなかった女生徒集団。この人たちの存在をすっかり忘れていました。天上院家の下請け企業の娘とかの寄せ集めで、櫻子のお世話係。3年間櫻子のお世話をする事だけを目的に入学してきたとんでも集団だ。


 「そう、こちらこそよろしくね。」


 とりあえず適当にあしらって、薫のところに向かう事にしました。私が歩くと集団がどこまでも後ろを付いてきます。切り離したいけど、この人たちも私の父に媚びを売る為に家族に頼まれてやっているはず。無理に拒んでしまってお世話係失格になってしまうと彼女たちの両親が路頭に迷う危険がある。天上院家の力はそれだけ大きいのです。


 薔薇組に着いた私は真っ先に薫の席に向かいました。すると、お世話係の人たちが私の前に立ち塞がります。


 「櫻子様、このような貧しい出の者と会話する事なんてありません。」

 「そうですわ、何かご用件がおありでしたら私どもが代わりにお伝えいたしますわ。」

 「いえ、私は直接彼女とお話しが……」


 お世話係ともめていると、薫が読んでいる本をぴしゃりと閉じて席を立ってしまいました。初対面なのに目の前で貧しい出の者とか侮辱されたら誰だって腹を立ててしまう。結局その日は、薫と話せなかったばかりか嫌われただけで終わってしまいました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ