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ショート・メルヘン

シマシマ猫裁判官

作者: 雪 よしの

理子ちゃんは、ご機嫌です。


「あさってから、春休みだ。やった~。宿題もないし、一日中、ゲームしよう」


本当は、ゲームは1時間と決められてましたが、

守る気は、さらさらないようです。


「ただいま~。はは。ママ、帰ってきてないのね。

ミーナ、ただいま」

理子ちゃんは、三毛猫のミーナの頭を撫でると、乱暴にランドセルを居間

のソファーに放り投げました。

ランドセルは、落ちて、中身が全部出てしまってます。


「あちゃ、まあいいや、まず、オヤツ食べて」


台所からオヤツのプリンをもってくると、不思議な事が怒ってます。

ランドセルを先頭に、ノート、教科書、筆箱から縄跳びの縄まで、

居間か出て階段を上ってます。


ランドセルは、フタをバサバサさせながら、鉛筆はピョンピョンとびはねて。

その中には三毛猫のミーナもいます。

ミーナは、理子ちゃんの部屋の戸を飛びついてあけました。

理子ちゃんは、慌ててプリンを持ったまま、ミーナとランドセルとノートなどの

文房具が、部屋に入っていくのを、見てました。


「おっかしい。どうして動けるんだろう?」

理子ちゃんは、一人(?)でノートがバサバサページをふるわせたり、鉛筆が

飛び跳ねたりなんて、見た事も聞いた事もなかったから。


理子ちゃんは、自分の部屋だけど、恐る恐る中を覗きました。

理子ちゃんの机の上に、オレンジのシマシマ猫が足を組んで座ってました。

横のベッドには、ランドセルの中身の文房具が、仲良く一列になってます。


「おっかしいの。それにあのネコ、出稼ぎ猫?あんなネコ、ここらへんで見た事ない」


部屋から声がかかりました。

「内野理子ちゃん、入りなさい。これから裁判を始めます。」

(へ?何それ?さいばんって)

ドアの後ろにいたら、ミーアが頭突きで理子ちゃんを、部屋の中に押し出しました。


「今日は、内野理子ちゃんが文房具たちに乱暴した件の裁判をします。

内野理子ちゃん、そこに座ってください。弁護猫はミーナちゃんでいいですね」

ミャーとミーアは普通に鳴いてます。


「どうして、猫なのにしゃべれるの?」

「それは裁判官だからです」

シマシマ猫は、ごく当然というふうに、得意げです。


裁判がはじまりました。シマシマ猫が、文具たちの文句を聞き取ってます。


「ふmふm。教科書を乱暴に扱う。雪の上でソリ替わりにされた事とかありますか?

ない。それじゃ、取り上げられないな。」

ランドセルは不満だったらしく、バサバサと蓋をふって抗議してるかのようです。


シマシマ猫裁判官は、ヘヘンというような顔で、あくびを一つ。

日のあたる机で、ウトウトしはじめました。

ケシゴムはすかさず、体当たりして裁判官猫を起こしましたが、またアクビをすると、

顔を洗ってます。


「まあ、そうあせるな」

そういうわりには、体の毛づくろいをおもむろに始めました。

終わると、ゆっくりした口調で

「理子ちゃんは、すぐ鉛筆の芯をおるって、それは、わざとじゃないよ。却下。」

立ち上がり、ファーっと背伸びをしました。


「で、ノートは、え?あまり使ってもらってないから悲しい?

こっちのノートは、そんな事ないって言ってるが」


文具たちはピョンピョンはねたり、バサバサしたりして、シマシマ猫裁判官に

自分たちの不幸を訴えました。

縄跳びの縄だけは、理子ちゃんが飛ぶ時のように、動きました。


「ふm、縄跳びは一生懸命、練習して二重飛びも何回も出来るようになった。

さて、どうしたもんか。」


そこで、ミーナが、何度かミャーミャー鳴きました。

裁判官猫は座りなおしました。前足をピンと伸ばす座り方です。


「よしわかった。内野理子ちゃん、判決を言い渡します。

ランドセルを乱暴に投げた件、厳重注意」

「げんじゅう?何それ」理子ちゃんは、まだ難しい言葉はわからないのです。


裁判官猫も、頭をかかえました。

そして理子ちゃんにわかるように言いなおしました。


「ランドセルを乱暴に投げたのは、よくありません。今度からしないように。

教科書に落書きをしないように。

鉛筆からの訴えは却下・・えっと、とりあげません。理子ちゃん、鉛筆は、

あまり力を入れるて書くと、芯が折れてしまうから今度から気をつけること。

ノートからの訴えは、国語のノートの訴えだけ、認めます。

理子ちゃん、先生に言われた回数の漢字の書き取りをしてませんでしたね。

それと、国語の宿題もよく忘れてるそうですね。有罪・・・よくありません。」


理子ちゃんは、猫が話すだけで不思議なのに、ノートや教科書の言葉がわかる

というのが、信じられなくて、これでもまだ理解できませんでした。


「よって、当法廷は、理子ちゃんに、3年生で習った全ての漢字の書き取りを

10回ずつすることを、命令します。

しないときは、弁護人のミーナに罰を与えます」


裁判官猫は、やりづらそうですが、なんとか判決をくだしました。


「え~~漢字、書き取りしないと、ミーナがバツをもらうの

そんな~ひどい」

ミーナは、悲しそうな目で理子ちゃんを見てます。

(え、ほんとうにそうなるの?)

たまに、担任の先生のいう事を聞かず、バツがあたる理子ちゃん。

ミーナをそんな目に合わせられない と思いました。


「これにて閉廷。理子ちゃん。忘れないように。漢字の書き取り、

ちゃんとしないと、弁護猫ミーナに変わりに罰があたります」


そういって、シマシマ猫は、自慢げにカギシッポを振り、

悠然と窓から出て行きました。

文房具たちは、何事もなかったようにランドセルの中に入っていきました。



それから理子ちゃんは、漢字のかきとりで一生懸命です。

(なんかよくわからないけど、ミーナに何かあったら大変だから)

ミーナは、そんな理子ちゃんのゾバで、ゴロゴロのどを鳴らしてます。


「ミーナ、ノートの上に上がらないで。書き取りできないから。

べんごにん っていうのでしょ?」

プリプリおこりながらも、その夜は、大分、頑張りました。


さあ、明日からは待ちに待った春休み。

教室には副担任の猫田先生がやってきました。細いシマシマの背広です。

(あ、シマシマの服だ・・・まさかね)


「はい、今度から、私が、このクラスの担任になります。

これは、算数のドリルと漢字の書き取りのプリント。春休みの宿題です。

勉強も頑張ってくださいね。」猫田先生は、ニッコリ笑いました。


”え~そんな~”って声があがっても、先生は、知らん顔です。


帰り際、先生は理子ちゃんに、声をかけました。

「漢字の書き取り、10回づつだからね」


理子ちゃんの春休みは、忙しくなりそうです。



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― 新着の感想 ―
[良い点]  猫裁判官。  発想がとても斬新でユニークでした。  理子ちゃんとミーナの交流も温かく描かれて、童話らしいなあと思いました。  オレンジのシマシマ猫は猫田先生なのか?  謎の余韻を残して物…
[良い点] 傑作です。アイデアがすばらしい。ストーリーがすばらしい。落ちがすばらしい。みごとな作品です。 [一言] すごいですね。真似できない。 誉め殺しかと思われるかもしれませんが、本当にそう思うの…
2018/05/29 15:04 退会済み
管理
[一言] シマシマ猫と、最後にに出てくる猫田先生がもしかして、同一人物? と思わせるラストがいいですね。 私も子供の時、文房具は乱暴に扱っておりましたね。 鉛筆噛みながら、考えるクセがあって、治すの大…
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