咨詢の盟約
「……あっ。」
自分らしくなく、考えに耽っていた為か。
俺が握っていた白球は見当違いの方向へすっぽぬけていった。
それほど遠くない所から義和の軽い罵声が聞こえてくるが、正直それが気にならない程に、今の俺は昨日の出来事に関心を向けていた。
いつも冷静な父が、あそこまでの焦燥を見せることは、未だ嘗てなかった。
子供の自分に見せまいとしていた父の一面だと言う事は理解しているものの、やはり気になる。
「おい。」
気が付くと、和義の顔が目の前にあった。
驚きの余り意図せずして半歩足を後ろに引いてしまう。
後退りと言うのは本当にあるらしい。
「悩み事か?まあお前のことだから、どうせ便秘で悩んでるだろうがな。食物繊維が大事だって言っただろ、セロリを食えセロリを。」
違う。
今悩んでるのはそれじゃあない。
確かに便秘ぎみなのは事実だが。
「まあ冗談は置いといて、実際何で悩んでるんだ?俺で良ければ聞いてやるぜ。」
その申し出はありがたい。
しかし、あのことを友人に話すのは抵抗が有る。
俺が何も言えずにいると、
「俺じゃ不満か?」
和義は真剣な面持ちで言った。
そんなことはない。
俺は意を決して口を開いた。
キーンコーンカーンコーン……
「ちっ鐘が鳴っちまったな。その話、後でちゃんと聞かせろよ。」
「ああ。放課後にでも話そう。」
俺たちは駆け足で教室に向かった。