姉と弟
今、理不尽な事に耐えて、眠れない。
さっき、ひかりに叩き起こされたのだ。
そう、言葉どおり顔をペシペシと叩かれた。
何でかというと、お手洗いに行きたいそうだ。
まあ、夜の廊下が怖いからというのなら可愛い理由として仕方ないのだが、この姉に怖いものがある何て信じられない。
嫌がらせで、夜中の三時に起こすなよ。
頼むから、寝る前にお水をがぶ飲みするのは止めてくれ!
お前も女の端くれなら寝る間に飲み食いするんじゃない!
だがしかし、その程度なら僕は怒らないだろう。
いや、本当は怒れない。
……怖いからじゃないんだよ。
それは、誤解しないで貰いたい。
とても怖いから、……なんだ。
この姉を敵にするなら、相応の覚悟が必要となる。
今まで彼女が出来なかったのもそこにある。
告られた数は、両手両足の指の数では足りない程、結構あるのだが、ことごとく潰されたのはひかりの仕業だと確信しているのだが、つばさへの片想いだけは邪魔して欲しく無い。
これが初恋と思うと特にだ。
幼稚園からの密かな秘め事だから、粉砕した時の自分を想像出来ない。
さてさて、くどい様だが僕が怒っているのは、トイレに起こされた事ぐらいでは別に怒ることは無い。
ひかりも可愛い女の子だったと思うだけのことで、反対に頼られて嬉しく思うことかもしれない。
しかし、この現状だけは居た堪れない。
……ひかりちゃん、自分の部屋に戻ろうね。
いくら、僕の部屋がトイレから近いと言っても、僕達は、もう高校生だ。
一つのベッドにご一緒するなんて、非常識としか言い様がない。
ひかりの魅力には脱帽ですらあるのだから、あまりスキンシップを取って貰いたくはないんだけど……。
僕も男だから、我慢にも程がある。
そう、二つの意味で。
甘い髪の匂いが、これまた生地獄を形成しているのである。更に密着して来るひかりの魅力に耐える事は心臓への負担はかなりのものがある。
分当たり約六十程度の脈拍は、二百を既に超え、救急車が必要かな?と心配になって来たよ。
学園アイドルなひかりさん、ちゃんと自覚してちょうだいな。
もう堪らないとばかりに、僕はこっそりとリビングのソファーを目指して移動した。
その時間は、朝方の四時。
そこで悲劇は再び起こるのである。
ソファーに横になると、五分も経たずに、僕の上に覆い被さる奴がいた。しかもかなりお酒臭い。
これは母者だ!
今頃、朝帰りか?
今日は誰と飲んだのかは知らないが、丸い柔らかな物が僕の頬に当たっているぞ!
まあ、母親なのでひかりよりはマシなのだが、やっぱ年頃の男子のウブな心にはかなりキツイ出来事なのである。
この家の女共は、僕のことを考えてくれない。
男には男の事情というものがあるのだから、少しは気を利かせて欲しい。
こんな不毛な不満を抱きながら、母者をかわして僕はリビングの床に寝るパターンとなった。
当然の如く、寝不足だ。
翌日、というか夜が明けると学園に登校する時間になってしまう。
休みたい気持ちが沸き起こるのだが、つばさという心の中の原動力が僕に力を与えてくれた。
悲しいかな、これが週に一度はあるのだから、いちいち休むと、出席日数が足りなくなるのだよ。
眠い目を擦りながらも自席に座ると案の定というべきか、ブン太が「おはよう」と挨拶して来る。
「はやくないよ」といつものように不機嫌に返事をするが、ブン太は更に続けて話して来る。
……流石は空気読めないという噂が付き纏う奴だよ。
「お前、スゲェクマが出来てるじゃん。どうしたんだ? お兄さんに言ってみろよ。
まさか、ひかり様に悶悶として寝られなかったなんて不埒な事を考えていたのなら、俺が許さん!」
意気揚々に鼻息荒く、ブン太が言い放つのはいつものことだから、気にしない。
しかし、この後が厄介な事が起こるとは夢にも思わなかった。
「ひかる。いる?」
教室のドアが開いて、歓声と共に派手な出現をしたのはひかりだった。
むくりと起き上がろううかと思ったが、眠いから無視を決め込んだ。
いくら傍若無人なひかりとはいえ、学内では人の目があるため、多少は我慢せざるを得ない。
「あれっ、ひかる。寝てるの?」
まだまだ、無視だ。
ここは大人しく帰れよ!
「ひかる君、眠いんだ。残念だなー!」
……つばさちゃんの声みたいだが?
いやいや、そんな事はない。
「つばさ、ごめんね。ひかるは寝てるみたいだから私から言っとくよ」
……あっ、やっぱりつばさちゃんだ。
どうしょう?
今起きたらわざとらしいが、つばさの顔を見たいし、それに加えて話したい。
「ごめんね、つばさ。
昨日はひかるはたぶん寝不足なのよ」
「何で? ひかりちゃん」
「だって、ひかるのベッドに私がお邪魔しちゃったんだ。まあ、姉弟だからおかしくないよね。
こう、嫌がるひかるが可愛いのなんのって……」
「えっ、ずるい! ひかり、羨ましい」という声が聞こえた気がするのだが、ブン太から首を絞められる方が早くて、良くは聞こえなかった。
遅くなり、ごめんなさい。
面白かったかな?(笑)