お昼は静かに食べましょう!
お昼に僕らの教室にやって来た二人、ひかりとつばさなのだが、迷惑なことに昼休みに入ってから五分も経ってからだった。
学食の席取りと本日のおススメランチをゲットするには昼休みに入って一分一秒を争うっていうのに遅過ぎる。
いつもは温厚な僕でさえ、さすがに文句の一つでも言ってやろうかと思ったが、つばさがいるから辛うじて抑えることが出来た。
ブン太と言えば、ひかりとの昼食ってだけで妄想の中にトリップ中だから、ここは邪魔しないでそのまま置いていこうとひかりが提案して、全会一致で採択された。
ブン太のトリップもひかりの学内での人気を考えると分からないでもない。
つぶらな瞳にショートカットの黒髪は顔立ちの良さを際立たせている。特にショートカットは顔立ちがハッキリ分かるから、ひかりの美少女度が秀でている証拠なのだ。だが、いかんせん僕も同じ顔なのだから、かなり微妙な気分ではある。
学食は三棟ある鉄筋コンクリートで出来た校舎のニ棟目の一階、しかもど真ん中にあって、そこから中庭のベンチに降りることが出来る。
そこだけは学校らしくない場所で、軒があり、その下のウッドデッキみたいなスペースが一番の人気スポットとなっている。
まっ、説明はしたものの、そこで食べた記憶はない。
僕らが学食にたどり着く寸前にブン太が妄想から脱却して、追いついてくると僕に対して小言ばかりブツブツと唱え始める。
『ひでぇ』だの『見損なった』だのの類で、ボキャブラリーが不足している。
ブン太のブツブツはいつものことだから、僕的には気にならないし、いつものように右から左へとスルーを決め込むが、意外にひかりにはカチンと来たらしい。
今日は長ったらしくて「えーい、鬱陶しい』と思った時に、丁度良いタイミングでひかりが言ってくれた。
「ブン太君、ひかるがかなり呼んだのに返事がないからひかるのせいではないわ。あなたがボーっとしてるから悪いんだわ」
とひかりは歯に絹を着せぬ物言いで、ブン太を黙らせたのだが、僕とつばさは笑いを堪えるのに必死の状態だ。
だって、呼んでもいないし、置いていこうと言ったのは、他でもないひかりなのだから……。
ここら辺はさすがはつばさだ。
ひかりの親友をずっと続けているのは伊達じゃ無いと思ってしまう。
本当によくひかりの事を分かってらっしゃる!
しかし、ブン太も哀れな奴だ。
「ごめん」と言って項垂れている。
学食にたどり着くと、やっぱり激戦区となっていた。
ひかりに席取りをお願いして、僕はひかりとつばさの昼食をカウンターで注文する。
カウンターまでは、人を押し退けながら進むのだが、意外に僕は簡単に辿り着ける。
その裏技は、学ランの上着を脱いで下に着たTシャツになれば、ひかりと間違われてみんなが譲ってくれるからなのだが、これって理性を破壊する時もある。
女子からも絶大な人気があるひかりだからこそなのだが、女子の中に混ざるとペタペタと触られるって行事が待っているのである。
短い時間だが、男の僕には堪らないのですよ!
触り返したいという本能からの欲求を鎮めて、カウンターで注文したのは、キツネうどんにオムライスとカツカレーの三品。
帰りは、カウンターを通り抜ける専用の通路があるから、安全に運ぶことができるようになっている。
この間のブン太は知らない。
たぶん、揉みくちゃになっていることだろう。
僕的にも見捨てるしかないのである。
通路を抜けると長髪の小柄な色白美少女が待っていた。僕より少しだけ背が低いのだが、この娘の人気も相当なものということを視線の数が物語っている。
「ごめんね。ひかる君」
「いや、つばささん。大丈夫だよ。待っててくれて、ありがと。んで、僕の片割れはどこ?」
「あっちだよ!」と指差しのはウッドデッキみたい。
おい、なんでそんなトコが取れるんだよ?
後から聞いた話によると、ひかりのファンの女子の彼氏に四限目から取らせていたらしい。
さすがはひかりだけのことはある。
……鬼畜過ぎる!
ニコやかに机の上で手を組んで、小さな顔を乗せながらの微笑みは、学食のみなさんには強烈過ぎる。
おねーたま。
何故そんなに目立つ格好をするんだ?
僕がいぢめられるかもしれないんだぞ!
そそくさと、ひかりの対面に座って、皆から顔を隠すのだが、ひかりは御構い無しに隣に座るようにとポンポンと右側の椅子を叩く、皆さんの視線が怖いから勘弁して欲しいのですけど……。
もちろん、ひかりの左側にはつばさが座り、僕の真正面という絶好の位置になるが、隣の方がお得なのだろか?
隣ならば、なんかのハプニングで手を触れたり出来るかもしれないんだけど……。
真正面の笑顔か?
はたまた偶然のハプニングか?
どちらが美味しいのだろうか?
「あたし、お水を取って来るね」と言う声でハッとなった。
「あっ、僕が行くよ」って咄嗟に言って立ち上がるが、Tシャツを引っ張られて腰掛けてしまう。
くそーっ、チャンスを逃がした。
左側のひかりを睨みつけると、微笑みながら僕の左腕に自分の右腕を絡ませて来やがる。
「はい、ぼく。あれ見なさい」
ひかりが指差した先には、階段の陰で告られているつばさが見えた。
……っと、お邪魔でしたね。
やっぱ、つばささんはモテるよな!
「ねーえ、弟くん。今日の学食はこれのためだったのよ。そして、つばさを見なさい。私らを指差してるでしょう。これで、お仕事完了ね」
というと、今日はつばささんの彼氏役になってる訳か⁈
いくらバイトと言えども、意中の人のダミー彼氏って酷いんですけど……。
その後、僕の食欲は戻る事なく、カツカレーをブン太に差し出す事になってしまった。
朝の会話って、僕の勘違いだったのか……。
僕の落ち込みようを見て、更に腕を絡ませて来る。
ひかりには僕がつばさを好きなことを知られているから、僕の気持ちが分かるのだろうが、それを新聞部と写真部、報道部にマスコミ部から邪魔された。
「はーい、弟くん。笑って笑って」って言われても笑えないに決まってる!
僕らの二人が載る冊子は他校にも売れるらしく、奴らも必死だが、今日だけはひかりがやんわりと断ってくれた。
「ねえ、みなさん。今日だけは許してあげてよ。
だって、私の大事な弟くんは体調が優れないから」
「えっ、そうなんですか?じゃあ、仕方ないですね。
しかし、ひかるくんのファンも多いので、その理由だけでも教えてください」
「んとね。ひかるは、女の子の日なのよ」
「えーっ、そ、それって、実はひかるくんじゃなくて、ひかるさんだったのですか?」
「まぁ、そういうことだわね」
「ええええーーーーっ!!」と一斉に叫ぶ周りの声を聞きつけて、生徒指導の先生が叫んだ者を全員生徒指導室に連れて行き、正座一時間の刑が待っていたとのことらしい。
しかし、さすがに僕とつばさは驚かなかった。
ひかりのフェイクには既に免疫が出来ている。
『…………また、おちゃらけやがった!』の一言だ。
しかし、連行された中には、ちゃんとブン太も含まれていたのは言うまでもない。
これって、勢いで書いてますけど……。
なんか、楽しい!
不定期だけど、まだまだ続けたいですね!