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記憶の淵のリュミエール  作者: 時雨
歯車が廻る時
10/32

魔物襲撃(2)


「これを!」


 受け渡されたものは、この場には似つかわしくないが、手作りの為か少し不格好な、だがよく見慣れた木刀だ。


「なんでこんなとこに」


 エリスはそれを何度か握り直し、手に馴染ませる様に振った。


「子供たちの遊び道具でしょう。術の発動までの時間稼ぎならこれで十分です。お願いいたしますね」


 イリスの言葉に、 エリスは頷くと魔物達に目を向ける。


「…ぜってー負けね!」


 エリスはそのまま走り出していた。


 直様イリスは口をつぐみ、目を瞑る。

 術の発動時には、術者の集中力をあげ、大気に感じる妖精達の声に、耳を貸さなければならないからだ。


 残った魔物は、狼の魔物・ウルフ二体、鳥の魔物ウィーバは三羽。


  今ここで危険があるのは鋭い牙を持つウルフである。

 ウルフはこの森に棲む魔物の中でも凶暴であり、人の肉を好む。

  かなり交戦的な性格もあり、何より群れでの狩りを得意とするからだ。

 ウィーバ自身、人に自ら攻撃を仕掛ける事は少なく、戦闘能力も低い。

 だが今は、闇の加護が高まっているために、あの嘴での攻撃は非常に危険だ。


 ーならばどうする?


 魔物達は、エリスに牙を向け突進するかの様に飛び込んできた。

 エリスはそれを軽々しく交わし、薙ぎ倒すように剣を振り、一匹のウルフを跳ね飛ばす。だが集団できているのだから、事はそう簡単にはいかない。


 直ぐに、他のウルフが食らいつくようにエリスに飛びかかってくるが、そのまま受け流し、先ほどと同じ様に攻撃を交わす。

 端から、このウルフ達を倒すことは考えてはいない。いかに時間を稼ぐかが大事なのだ。


 体制を大きく崩されたウルフは、よろめき、標準であったエリスを探している隙に、すかさずそこに一撃を入れると、ウルフは痛みに声をあげ、更に怒りが増したウルフ達の総攻撃が始まる。

 鋭い牙と爪を振り回し、三体で一気に間合を詰めてくる。

 それを見ていたウィーバも、ここぞとばかりに上空から攻撃を仕掛けてくる始末で、エリスは思わず舌打ちをする。

 さすがにこれ以上は持たない。


「イリス! まだかよ!」


 半ば叫ぶ様に言うと、イリスは顔をあげ、にやりと笑った。


「分かりました。行きますよ? 清々されし聖なる天使の涙…」


 それは妖精達の言葉であり、即ち術の発動を意味する。


「ラルムドゥランジュ!」


 イリスはその言葉と共に指を鳴らす。


 すると輝く水の塊が上空に現れ、大きく揺れたかと思うと、一滴、輝く雫が地面に零れ落ちる。


 それは瞬く間に弾け、爆発の様な轟音とともに沢山の水の槍を降り注ぎ、真下に居る魔物達を容赦なく地面に叩きつけていく。

 それに抗うことも出来ず、魔物達は悲鳴を上げることも叶わずに元の姿、“光”になり空に還っていく。


 エリスはそれを唖然と見ていた。

 と言うのも、エリスは魔物達の攻撃から逃れることご出来ずに、イリスの術に巻き込まれていたのだ。

 流石に大怪我を負う事を覚悟したが、傷を負った所か、擦りむけた傷がゆっくりと再生していたのに気付いた。


「具合はどうです?」


 何時の間にか隣に来たイリスは、自慢気な表情で尋ねてきた。


「…そりゃむちゃくちゃ最高。一時はイリスに殺されたかと思ったけどな」

「僕がエリスを信じたんですからエリスも信じて下さいよ」

「…ったく。あんなん見たら信じるも信じないもないぜ…」


 口を尖らせてそう言うと、イリスは「それはそうですね」と、苦笑を浮かべた。

 エリスもそれに、苦笑で返すと空に還る光を見つめる。


 魔物達は、闇の加護により生まれし悪しきモノ。


 それがノジェスティエで生きている限り生涯忘れることの出来ない理だ。

 このノジェスティエで未だ完全に解明されていないのが、妖精の力であり、何より闇の力と光の力は、全くと言っていいほどに解明されていない。


 だが、光の妖精、即ち女神ミズチを崇めるノジェスティエでは、光の力に相反する力、闇の力は悪とされ、ヒトに危害を与える魔物は闇の力の作用の為と言われている。

 そして闇の力が生み出した魔物は、その一生を終えると、先程のような光になり、空に還っていくのだ。


 ただ、エリスは思う。

 悪だと言われる闇の力が生み出したモノは、あんなにも綺麗なモノに還るのに、光の相反する力だから“悪”とされるのには些か安直な考えすぎではないのだろうか、と。



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