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茶と甘味、花と毒  作者: 牛熊


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19/21

19

ズージン様の死因が発表された翌日。


いつも通り朝の挨拶をしようとヤオ様の執務室に伺ったところ、第一声は処刑の合図にも似た内容だった。



「徳妃がお呼びだ」


「......お断りは」


「できるはずがないだろう。諦めてさっさと行ってこい」


「...はい」



昨日の今日でシュエメイ様から呼び出されるなど、どう考えてもロクでもない想像しかできない。


絶対に嫌だと赤子のように泣きわめきたいが、宮仕えの人間にそんな自由は存在しない。


行きたくないとブツブツ呟きながら宮へと向かうと、そこにいたのは天女の如き笑みを浮かべるシュエメイ様。


昨日見たヤオ様の笑顔に匹敵するほどの良い笑顔だった。



「えー、ご機嫌麗しゅう...」


外の雲1つない晴天とは裏腹に、心の中は黒く分厚い雲に覆われ、吹き乱れる情緒と冷や汗でビショビショである。


シュエメイ様の宮だというのに、控えているのは彼女の後ろの側仕え筆頭ただ1人。


人払い済みの部屋での話し合い。


嫌な予感しかしなかった。


即座に脱兎のごとく逃げ出そうと心に誓うが、そんな私を嘲笑うかのようにシュエメイ様が爆弾発言を口にした。



「忙しいところごめんなさいね。あなたには感謝と謝罪をしなければと思っていたの。復讐の機会をくれたあなたにはね」


「......ふぇ!?」


意表を突かれて間抜けな顔と声を晒してしまう。


しかし、シュエメイ様の笑顔は変わらない。


続きを言わせるのは不味いと口を挟もうとするものの、シュエメイ様の後ろに立つ側仕えから「黙っていろ」と睨まれ、蛇に睨まれたカエルのように動きを止めてしまった。



「あなたも既に色々と察しているでしょうから、まずは事の発端から説明しましょう」


(聞きたくない!止めてください!)


シュエメイ様を止めたいが声が出ない。


口をパクパクとさせて喘ぎながら、そもそもの不審点が頭の中を駆け巡り始めた。



ズージン様が高血圧で悩んでいたのであれば、自身の体調には注意深く配慮していたはずだ。


なぜ今回に限ってそこまで酷いことになったのか。


なぜ都合良く三夫人のお題が重なったのか。


どれもこれも、知ればただでは済まされない厄介事だ。


しかし、シュエメイ様は目を白黒させるこちらのことなど気にせず言葉を続けた。



「私は過去の茶会で堕胎薬を盛られました。その犯人が貴妃であり、今回はその復讐になります。情報源は教えられません。ですが確かな筋で、貴妃が病を抱えていることも教えて貰いました」


(ぎえええええ!知りたくない!聞かなかったことにしたい!)


思わず両手で耳を塞ぎそうになったものの、そんな失礼な真似をするわけにもいかず、服を握り締めて必死に耐える。


こんな情報を外部に漏らせば、関係者から命を狙われるのは確実。


間違いなく私は処刑台へと一歩近づいた。



「あなたの手配した茶会で事に及んだのは大変申し訳なく思います。ですが、あの時しか機会がなかったのよ」


シュエメイ様は心底申し訳なさそうな顔をする。


その言葉を聞いて、止めておけばいいのに口から勝手に疑問が漏れ出た。



「シャン様に話を持ちかけられたのですか?」


そう、今回の件はシュエメイ様だけでは成り立たない。


協力者と成り得るのはシャン様しかいない。


だが、2人が連絡を取り合っていた様子はなかったはずだし、それなら情報収集に余念がないズージン様は危険を察していた可能性が高い。



「いいえ、互いの弱みにもなるからそれはできなかったの。でも、彼女が動きやすいように、あなたのお菓子を喧伝したわ。あの人はああ見えて自発的な人間だから、きっとあなたを利用すると思っていた」


シュエメイ様は「ああ、あなたのお菓子に感動したのは本当よ?」と補足するが、私は口いっぱいの苦虫を噛み潰したような顔を、手と服で隠すのに必死でそれどころではなかった。


「彼女が茶会を開こうと言い出したのを聞いて、きっと何かを企んでいると判断したの。お題を決めるのも彼女が最後だから、私たちの選んだ題材を利用するはず。だから、貴妃の病を利用した策を考えた。これが大まかな話の流れよ」


この話を聞いて私は呆然とした。


自分がいいように利用されたことに驚いたのではない。



(阿吽の呼吸で計画を進めたということ?茶会の提案を聞いたのはヤオ様からの手紙を渡した時のはず。あの短時間でシャン様の意図を察し、機転を利かせた?事前の準備もなく?)


ヤオ様からの茶会の手紙を受け取った時、シュエメイ様は何か言いたげではあったが、策を練っていたなどとは全く分からなかった。


その思考の瞬発力、そして狙いを悟られないよう取り繕ったのが信じられなかった。


そして、シャン様の方にも同じ事が言える。


互いに情報の出し方だけで相手を誘導し、連絡も無しに機を見て利用し合う。


戦国の時代さながらの駆け引きだった。



「計画の切っ掛けはあなたの『薬食同源』という言葉。それに『何事も過ぎれば毒になる』という説明。毒は持ち込めない。でも、食材なら持ち込める。あれが私の背中を押してくれたのよ。信じてもらえないかもしれないけれど、殺すつもりはなかったの。ただ、一矢報いたかっただけ」


目を伏せるシュエメイ様を見て、初めて菓子を振る舞った時に言われた言葉を思い出す。


『これからもよろしく。あなたのおかげで希望が見えたの。もっと前向きに頑張ろうって思えたわ』



(あれがまさか『前向きに復讐を頑張る』という意味だと分かってたまるか!)


いい感じの話だと思っていたのが、蓋を開けてみれば犯罪教唆になっていたとは予想外にも程がある。


人と人が分かり合うことのなんと難しいことか!



(問題はシュエメイ様がこのことを外部に漏らせば、私の首も危ういということ...)


知らなかったとはいえ、殺人の教唆と補助を担った。


悪意はなくとも共犯者。


そして、相手は貴き権力者であり、こちらは尻尾として切られる側である。


仲良く手を携えてやっていくしか助かる道はない。



「では改めて、これからもよろしくね。あなたの弟さんの就職斡旋も手配しなくしゃいけないもの」


そう言って笑顔を浮かべるシュエメイ様。


虫も殺せないような柔和な笑みだが、これからもやるべきことはやるという気概を隠す様子はなかった。


私はこれまでの会話を反芻する。



「お前も共犯者だ」という脅迫。


「これからも働いてもらうぞ」という要請。


「弟のためだ」という心理的な逃げ道と褒美の提示。


人が良さそうに見えても、三夫人という立場にある女性が駆け引きの1つもできないはずがない。


そのことを遅まきながら理解し、自分の考えの甘さに心の中で臍を噛んだ。



「......もちろんです。不肖の身ではございますが、全身全霊で働かせて頂きます」


逃げ道はない。


私には深々と頭を下げる以外の選択肢は存在しなかった。


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