表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茶と甘味、花と毒  作者: 牛熊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/21

18

ズージン様の側仕えだけではなく、兵士も執務室から出ていった後。


私はヤオ様の前へと立ち、腕を組んで半眼になりながら質問をぶつけた。



「で、何をされたんですか?まさか教えられないってことはありませんよね?」


この上司に助けられたのは事実であり、それは心の底から感謝している。


だが、何の説明のなされないままでは納得のしようもない。


「なに、単純な話だ。彼女たちに提案しただけだ」


「なんと?」


貝の如く口が硬いズージン様の側仕えたちから、そう簡単に証言を得られるとは思えない。


噛みつくように問いを重ねると、ヤオ様はそんな私の反応を見て苦笑した。



「お前の推理を説明し、最後にこう言った。『お前たちの責任を問うつもりはない。転倒が事実ならそう証言しろ。後になって誰が証言したとは口外しないし、最終的には病死だと発表する』とな」


「......それで彼女たちが納得するとは思えません」


ヤオ様の提案は道理に従っている。


だが、それを受け入れられそうにない相手だから話が拗れているのだ。



「よく分かっているじゃないか」


ヤオ様も頷き、私の言葉を肯定した。


つまりそれだけでは不十分だと認めたわけだ。


「更に何か言ったんですね?」


ズイっと一歩前に出て、ヤオ様を睨め上げる。


しかし、ヤオ様は悪びれる素振りもなく、平然と笑顔を浮かべてこちらを見返してきた。



「言ったとも。『お前が何も言わなかったとしよう。他の者たちが転倒を証言した場合、お前に全ての責任を被せる』とな」


「はっ!?......つまり遠回しの脅迫ですか?」


「失礼だな。助け舟だ」


ヤオ様は楽しげに笑っているが、こちらは驚き呆れ果てるしかなかった。



(本当にロクでもない手口を......)


やったことは単純だが、内容は悪辣と呼ばれても仕方ない。


問題は自分だけが口を塞いでも意味がないことだ。


助かるには全員が口を塞ぐか、全員が自白するしかない。


責任を被せられた憐れな者は抵抗するだろうが、管理官という権力者に加えて、同僚皆が裏切った状況では多数決で押し切られる未来が待っている。



(そこまでして仲間を信じられるか?......いや、無理だな)


仲間に裏切られる危険を考えれば、黙秘するのは割に合わない。


お誂向きに他の側仕えとは切り離され、誰が証言したのかも分からないようになっているのだ。


身の安全を第一にすれば、自白しないという選択肢はなかった。


そこまで察した私の顔が歪み、それを見たヤオ様の笑みが満足気に深まった。



「集団であれば固い結束も、1人になればいとも容易く崩れ落ちる。個人を特定せず、責任を問わないとなれば、口を開かせるのは容易い話だ」


1人ごとに部屋に呼んで話を聞いたのは、連帯を崩すと共に疑心暗鬼にさせるため。


部屋に戻ってきた側仕えたちが周囲の顔色を伺っていたのは、緊張だけではなく裏切りが露見しないかと怯えていたのだった。


実に陰険というしかなく、思わず呆れ混じりの息を漏らしてしまった。



「だから彼女たちは結論に異論を挟まなかったのですね」


「側仕えたちが恐れていたのは自分たちに責任が降りかかること。だから、それを救ってやれば彼女たちが抵抗する理由はなくなる。元々病気持ちだった上に、公式に突然死とあっては側仕えに責任を問うにしても限度がある。少なくとも事故を見逃した過失に比べば些少なものだ」


「つまり」


「お前は無罪を勝ち取り、彼女たちはマシな状況で故郷へと帰れる。双方が得をする素晴らしい結果に落ち着いたな。褒めてやろう。お手柄だったぞ」


ヤオ様は私の肩にポンと手を乗せ、労をねぎらうように笑顔を浮かべた。


顔の良い男が、爽やかな笑みを浮かべる姿は様になっている。


だが、私は半眼になって舌打ちし、冷え切った声で言い返した。



「そこらの詐欺師と大差ないのでは?」


何のことはない。


つまるところ、全員で口裏を合わせて真実を隠しただけなのだ。


ヤオ様がやったのはその口利き。


これを詐欺師と言わずして何と呼べばいいのか。



「誰もが納得しているのだ。問題なかろう?」


「......そういうところも詐欺師っぽいですね。まあ、いいです。これで私も冤罪が晴れて良かったとします」


そう言って肩に乗った手を押しのけ、何か言われるよりも早く部屋を出る。


これで甘味役として働き続けることができるというのに、私の気分は全く晴れなかった。


居室へと向かいながら、改めて状況を整理する。


ズージン様は転倒が原因で亡くなった。


だが、そのこと以外に不自然な点が残っているにも関わらず、あの上司は何も言わなかった。



「......まだ何か隠してるわね」


上手く丸め込もうとしたのか。


それとも気がつくかどうか、試されているのか。


どちらかは分からない。


ただ分かることは1つ。



「.........これ、知っても大丈夫な話?」


三夫人の死の真相など手に余る。


余計なことを知った者の身に何が訪れるかは言うまでもない。


こんな情報を握っていては誰に狙われるか分かったものではないし、他にも企みごとがあるなら尚更だ。


明るい未来とはほど遠い状況に暗澹としてきた。



「ううっ、寒気が...」


風も吹いていないというのに、思わず体が震えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ