表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茶と甘味、花と毒  作者: 牛熊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/21

17

翌日、私は改めてズージン様の宮に突撃した。


渋る側仕えたちを押しのけ、大工が言っていた手すりを探す。



「このあたりのはずだけど......」


花の場所と手すりの形状を照らし合わせ、それらしき場所へと近づくと、側仕えたちが顔色を変えた。


先日とは異なり、明らかに目星をつけている様子に何かを察したのだろう。



「ちょっと、あなた何をやってるの!?」


「調査の邪魔をするな」


詰め寄る側仕えを兵士が止める。


両者がやりあっているのを無視し、身をかがめて手すりをマジマジと見つめる。


確かに新しく塗り直した箇所があった。


知らなければ気に留めないであろう、僅かな違いを指でなぞる。


木材の違いのせいか、少しだけ他の部分とは感触が違った。



「ここが修理した箇所か...」


目当ては木で出来た手すりの上部。


手を乗せ体重をかけるが、当然折れたりはしない。


「この手すり。修理されたそうですね。なぜ隠していたのですか?」


振り返って側仕えたちを睨み、問い詰める。


情報を隠すのは立派な反逆行為なのだから、ここぞとばかりに強気に打って出る。


彼女たちは顔を歪めて言いにくそうにするが、しばらくすると1人がようやく口を開いた。



「恥ずかしかったからよ。折れた手すりなんて見栄えが悪い。他所から馬鹿にされる前にさっさと直すことの何が悪いの?誰も困らない話でしょ」


彼女は開き直って胸を張り、腕を組んで言い張るが、指先が微かに震えていた。


「いつ折れたんですか?」


「さあ?気がついたら折れていたの。大工が言うには腐っていたらしいから、自然と折れたんでしょ」



(一見すると筋は通っている。だが、そこまでするのは何のためだ?)


ズージン様が体調を崩したとなれば、側仕えはさぞかし大慌てだったはずだ。


主を失えば彼女たちの未来も閉ざされる。


今の惨状を見ればそれがどれほどの恐怖かは一目瞭然。


そんな時に手すりごときを慌てて修理する馬鹿はいない。



(状況を整理しよう。茶会の後で三夫人は体調を崩した。そして数日後にズージン様が亡くなられた。だが、茶会が死因とは限らないのでは?)


シュエメイ様とシャン様は翌日には回復していた。


誰もがズージン様の死因を茶会と結びつけているが、そうでなかったとしたら?


菓子と茶を食べた3人は、茶会の後に息切れや手足の重さを訴えた。


ズージン様は席を立った時にふらついていたから、特に症状が重かったように見えた。



(ズージン様が手すりを折ったとしよう。その場合はどのような動きになる?)


手すりに手を乗せて思案する。


体が思うように動かない状況。


倒れそうになる体を手すりに預けようとしたら、それがポキリと折れたとすれば?



(姿勢は崩れ、倒れる。そして後頭部の赤み。毒ではないと医官は言っていた)


通路は規則正しい石畳で、触れると冷たく硬い。


体に力が入らなければ受け身も取れない。


こんなところに頭を打ち据えれば痛み、しばらくは腫れが引かないこともあるだろう。


そして、石に頭をぶつけた者がしばらくして死ぬことがある。


有名な話だから医官に聞けば詳細を教えてくれるに違いない。



(つまり、死因は毒などではなく、後頭部を石畳に打ちつけたこと。側仕えたちはそれを隠そうとしたのではないか?)


目の前で主が倒れて頭を打って死んだ。


側仕えとしてこれ以上の恥はない。


ズージン様の親類縁者に知られたら、責任を追求されて将来どころか命すら危うい。


だから、毒殺という滑稽無糖な言いがかりを、自らの罪から目を逸らす火をつけたのではないか?



(問題は......証拠がないことだ)


それらしい理屈はこね回せたが、物的証拠がなかった。


あくまで想像でしかなく、毒殺と同じ程度に胡散臭さが漂う推理。


石畳に視線を向けても、そこには血痕など残っていない。



(証拠が無ければ、推理を述べたところで側仕えたちは認めない)


水掛け論の繰り返し。


それでは無実を証明できず、目的は果たせない。


ここが私の限界だった。


この先は誰かの力を借りるしか手はない。



「上司に報告するか......」


私はため息をつき、肩を落としながらヤオ様の執務室へと向かった。



**********



ヤオ様の執務室にて、得られた情報と自分の推理を全て打ち明けた。


突拍子もない話だが、ヤオ様は笑ったりせず、真剣な表情で最後まで話を聞いてくれた。


「なるほど、お前の推理は理解できた。それが事実であれば毒殺は否定でき、お前は晴れて無罪放免となる」


そう言って鷹揚に頷き、懐から布袋を取り出す。


袋の口を開くと中から茶色の丸薬が転がり出て、それをこちらに見せつけるように掲げた。



「貴妃の居室で薬を見つけたと言ったな?覚えているか?」


「はい。血圧の薬でしたよね?実は毒薬だったとか!?」


もしそうなら話は早いと前のめりになるが、ヤオ様は苦笑し否定した。


「いや、血圧の薬で間違いない。ただ、問題なのは高血圧の改善を目的とした薬ということだ」


「......はて、高血圧に悩んでいるのは側仕えでは?」



『南家の者が大陸中央に移って来ると、体調を崩して高血圧になる者が時折出る。側仕えの健康に配慮して、血圧を下げる食材や茶を手配している』


シュエメイ様の側仕えであるメイファンはそう言っていた。


その時は部下に優しいとばかりに思っていたが、実際は違ったということになる。



「隠蔽工作だった?」


病気が他の妃に知られることを、後宮に住む妃たちは極端に恐れている。


三夫人ともなれば、蹴落としたいと考える妃は多く存在し、虎視眈々と弱みを探しているに違いない。


ヤオ様も同じ考えなのか、私の表情を見て頷いた。



「そういうことだ。貴妃以外の部屋からもこの丸薬は見つかったが数は減っておらず、服用した気配があるのは貴妃だけ。風呂好きなのも、体を温め血の巡りを良くするのが目的なら辻褄が合う」


茶会の後、シュエメイ様とシャン様は体調を崩したが、低血圧の症状と言われればそのようにも見える。


シュエメイ様はまさしく血圧を下げることを求めた。


ズージン様が用意した茶、牛頭黄洛神花は南家からわざわざ取り寄せているもので、これも血圧を下げる効果があるのではないかと疑わしく思える。


シャン様が手配した金華柿だけは薬効が不明だが、もしこれも血圧を下げる効果があったとしたら?



(結果的に見れば、3人が出したお題は全て血圧を下げたことになる。そんなものを大量に飲み食いすれば体調も悪化する)


思い起こせば茶会では長時間にわたって口喧嘩を続け、渇いた喉を潤すために茶を大量に飲んでいた。


そして、ズージン様がいつも通り血圧を下げる薬を服用していれば、普段とは比べ物にならないほど劇的に効果を発揮したに違いない。


それこそ足元がおぼつかなくなるほどに。



「この推理について医官はなんと?途中で寄ってきたのだろう?」


「転倒の話は初めて聞いたと。もし本当なら頭を打って血管が破れ、そのまま血が溜まって死んだ者がおり、毒殺よりは現実味があるとのことです」


これは無罪確定かと思わず目を輝かせる。


しかし、私の目の色が変わったのを見て、ヤオ様が「待て」と手のひらを突き出した。



「だが、状況証拠しかない。全ては憶測でしかなく、問い詰めても側仕えたちは認めないだろう。認めれば彼女たちは全てを失うのだからな」


「うっ、おっしゃる通りです......」


その点は自分でも分かっているだけに言い返せなかった。


側仕えたちの団結は硬く、多少言葉を荒げたところで力を合わせて抵抗するに違いない。


だからこそ、縋るようにヤオ様のところへ来たのだ。


思わず悔しさで唇を噛み、顔を伏せると、突如パンという音が鳴った。


何事かと思えば、ヤオ様が手を叩いた音だった。



「上出来だ」


その言葉に一瞬頭が真っ白になる。


何を言っているのか理解できなかった。


「......は?いや、その、駄目なんですよね?これ以上問い詰められないんですよね?」


「そうだな。だが、これで十分だ」


ヤオ様は笑みを浮かべ立ち上がる。


手詰まりな状況とは裏腹にその雰囲気は自信に満ち溢れ、実に上機嫌そうだ。



「はぁ...。何か手があるということでしょうか?」


「そうだ。ここからは私の仕事だ。貴妃の側仕えたちを呼べ」


ヤオ様の指示に従い、兵士たちが駆け足で部屋を退出した。


「...ご説明して頂けますでしょうか?」


何を企んでいるのか分からず尋ねるが、ヤオ様は薄ら笑いを浮かべて何も答えない。



(これはあれだ。子供が悪戯を企んでいる時の顔だ)


ここ最近の付き合いで学んだ経験により、この御仁が何か謀りごとを抱いているのが手に取るように分かる。


せめてもの救いは自分が対象ではないことだった。



**********



ヤオ様はズージン様の側仕えたちを呼び出した後、1人ずつ別室にて話を聞くと言い出した。


意図は分からないが、後宮の管理官様の命令とあっては誰も口を挟めない。


順番を待つ側仕えたちは不安もあってか、戸惑いと苛立ちが混じりあった顔をしている。


また、話し終えて部屋に戻ってきた側仕えも落ち着きがなく、周囲の顔色を伺うようにキョロキョロとしていた。



(結局、何が目的なのやら...)


なんともいえない微妙な時間にひたすら耐える。


ようやく側仕え全員から話を聞いた後、ヤオ様は執務室へと戻って来て、一同に向けて声高らかに宣言した。



「皆の話を改めて聞いた上で、こたびの結論を下したい」


そして、一拍の後に遠くまで通りそうな声でハッキリと告げる。


「貴妃の死因は病死とする。毒殺を疑う声もあったが、それは誤解であったと判断する」


(えっ!それでいいの!?)



ヤオ様の言葉に目を見開いて驚き、口に手を当て漏れそうになる声を必死に押し止めた。


こんな結論に側仕えたちが納得するはずがない。


そう思ってそちらを向くと、なぜか彼女たちは抗議する気配が全くなかった。


これまで見てきた暴れっぷりが別人のようだった。



「後ほどその旨通知を出す。正式な発表がなされるまで、皆は口外しないように。何か言いたことはあるか?」


ヤオ様がグルリと一同を見回すが、誰一人として口を開く者はいない。


あれだけ毒殺だと叫び回り、兵士にも喧嘩をふっかけて騒いでいたのにである。


相手が相手だとはいえ、文句の1つも言わないのは信じられなかった。



「よろしい。では、要件は済んだ。帰っていいぞ」


ヤオ様の言葉に従い、側仕えたちが大人しく退出していく。


その顔に浮かぶのは苛立ちではなく安堵。


自分たちの主張が蔑ろにされたにしては、違和感のある空気を漂わせていた。



(別室で何かしたんだろう。だが、何をすれば彼女たちを一変させられるのか)


信じられない光景を前に唖然として、ヤオ様に目を向ける。


そこには片目をつぶり、「内緒だぞ」と言いたげに人差し指を唇に当て、悪戯が成功したような子供の如き笑みを浮かべる上司がいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ