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茶と甘味、花と毒  作者: 牛熊


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その後、側仕えたちと醜い言い争いを続けていたが、付き合いきれなくなった兵士から終わりを告げられた。


「これ以上は時間の無駄だ。さっさと他を調べろ」


青筋を浮かべる兵士を前にしては、流石の側仕えたちも異論を挟むことはできない。


罵声を浴びながら部屋の外に出て、下女にズージン様を見たという通路に案内して貰うことになった。



(あいつら覚えてろよ!必ずやり返してやる!)


内心では腸が煮えくり返り、床を踏みしめる足にも力がこもる。


ドスドスと足音を響かせながら進むと、「ここです」と下女が告げた。


場所は宮の外壁とズージン様の寝室の間といったところだ。



(ここから庭園までの間の通路。そのどこかでズージン様は側仕えたちに抱えられた。つまり、そうしなければいけない何かがあったということだ。それを見つけなくてはいけない)


なんとかして不利な状況から抜け出すため、鼻息荒く通路の先を眺める。


茶会が開催された庭園とズージン様の宮はそれなりの距離がある。


だが、宮の外壁の外に出れば、当然他の側仕えや下女の証言も増える。


それらと合わせると、ある程度の範囲は絞れるのがせめてもの救いだ。



(ここからは地道に調べていくしかない)


覚悟を決め、下女と兵士たちを連れて、何か痕跡がないかと床をジロジロと見回しながら歩く。


何もない。


終点に着いたところで、来た道を戻りながら痕跡を探す。


今度は床だけではなく手すりや庭、屋根も虱潰しに調べていく。


何もない。


何もないんだが?



「......何かありました?」


「いや、何も...」


兵士に縋るように尋ねたが、返ってきた答えは全くの同じ。


怪しい痕跡はない。


床や手すりは細かく修繕されていて、手入れを怠っていないのがよく分かったくらいだ。


こうなると、ズージン様が帰る途中にフラつき「手を貸してくれ」と言い出しただけ、というオチが見え始めてくる。



「......詰んだ?」


私の呟きに兵士たちは何も言ってくれなかった。



**********



結局、通路を何度往復しても何も見つからなかった。


今日1日の報告のため、肩を落としながらヤオ様の執務室へと向かう。


だが、私は考えることをまだ諦めておらず、ブツブツと独り言を呟きながら歩く。



「やはり不自然ね。あのズージン様が多少の体調不良で支えて貰うとは考えられない。でも、通路には何の痕跡もない。誰かが嘘をついている?」


あの側仕えたちへの怨念が私を支えているのは否定できないが、懸念点が色々あるのも事実だ。


他の2人ですら側仕えの支え無しで帰った。


3人が同じ症状だとすれば、ズージン様だけが死ぬのは辻褄が合わない。


席を立つ際にフラついたが、結局は自分の足で退席した。


帰路に事故が起きたとか、暗殺者に毒矢を撃ち込まれたとか言われた方が納得できる。



「暗殺者はともかくとして、何かあったとしたら怪しいのは側仕えか......」


ズージン様を抱きかかえたのは「念のため」ではなく、1人で歩けないほどの問題が起きたのではないか?


しかし、その問題とは?


翌日には歩くことが出来たのだから足の骨折ではないし、数日後に突然死するのもおかしい。



「ううむ......」


分からんなと首を捻りながら歩いていると、目の前に何かが現れ行く手を阻んだ。


慌てて止まろうとしたが間に合わず、私は誰かの胸元に飛び込み、そのまま顔面を叩きつけた。


上等な服の柔らかさと、固い骨と厚みのある肉の感触が鼻先から伝わってきた。



「......何をやってるんだ?」


見上げるとそこには呆れ果てた上司の顔があった。


どうやら廊下で出くわしたことに気がつかず、そのまま体当たりをかましてしまったらしい。


いと尊き方々への進路妨害と軽度の暴行は当然処罰対象である。


ちゃんと止めてください、兵士の方々。



「失礼しました。考え事をしておりまして......」


吹き出る冷や汗を拭う間もなく、私は慌てて頭を下げる。


最近は上司に舐めきった態度を取る事が増えてきたが、流石に限度というものくらいは知っている。


堪忍袋の緒が切れれば一族郎党皆処刑されるので、上司の限界を試したい気持ちなどこれっぽっちもないのだ。


そんな私の内心を察したのか、ヤオ様はハアとため息をついただけで許してくれた。



「まあ、いいだろう。報告を聞こう」


顎で執務室を指し、そのまま一同連れ立って部屋に入る。


細々とした報告をし、帯同した兵士から間違いがないことを確認した後、ヤオ様は「よろしい」と頷いた。



「あまり成果はなかったようだが、改めて証言を確認できたと考えよう。こちらも特に進展は無い。宮や居室を調べたが、体調改善の薬くらいしか見つからなかった。新しい情報と言えば、大工が貴妃の宮に呼ばれたことくらいだ」


「大工?」


はて、そんな話は出ていなかったなと首を傾げ兵士を見るが、そちらもそんな話は聞いていないと首を横に振った。



「宮の通路を一部補修したらしい。詳細を知りたいから、明日大工のところへ行ってこい」


「後宮の外に出てもよろしいのでしょうか?普通は簡単には許可が降りませんよね?」


「今のお前の状況は普通と言えるのか?遠慮は不要だ。気にせず行ってこい」


ヤオ様はシッシッと追い出すような手振りをした。


言外に「甘味役としての仕事は無い」と言われ少しだけ気が落ち込んだが、やれと言われたら従う他無い。



(それにしても、これでは甘味役というよりは管理官の補佐のようではないか?)


いいように使われている気がしてきたが、自分には後がない。


(互いの利益のため、必死にやるだけだ)


そう考え直し、明日の準備に向けて打ち合わせを続けた。



**********



「ああ、修理ね。やったぜ。折れた手すりを直したんだ。側仕えって名乗る女に『急ぎだ!』って散々せっつかれてな。いつ尻を蹴飛ばされるかヒヤヒヤしたぜ」


大工の中年男性は整えられた髭を撫でながら答えた。


「急ぎですか?普段とは違ったと?」


「そうだ。見栄えが悪いってんで、はよ直せと突貫工事よ。分からんでもないが、1日でカタを付けろってのは珍しいな。材料が無えって言ってんのに、それでもいいからやれとか言い出すのは初めてだ」


そういって大工は背後に置かれた木材を顎で指した。


彼の言う通り、後宮に使われるような素材は高級品。


常に在庫があるとは限らないのだろう。



「手すりが折れたのは何故ですか?何か大きな物でもぶつけたとか?」


もしやズージン様とその何かがぶつかったのではないかと期待が湧き上がる。


だが、大工は首を横に振った。



「いや、木が腐ってただけだ。繋ぎ目から綺麗にポッキリ折れてたよ。あの腐り具合なら、体重をかけただけで折れただろうな」


(それだと、ズージン様が手すりに頭をぶつけたというのもなさそうだな...)


可能性がまた1つ潰されたことに思わず舌打ちするが、今度はその程度の修理を急がせた理由が気になった。


不自然な行動には何かしら理由があるものだ。



「その修理した場所はどこですか?現場を確認したいのですけど」


「悪いね、知らねえんだよ」


「は?」


僅かな可能性に縋るように発した質問に対し、男性は頭を掻きながら悪びれる様子もなく言い放つ。


思わず目を見開いてしまった。


大工が修理した場所を知らないなんてことがあるのか?


そう不思議がっていると、大工は言葉を続ける。



「宦官以外が後宮に入るときは、兵士に囲まれて目隠しをされるんだよ。内部の構造を教えないようにするためにな。周囲を見ようとキョロキョロすると、余計なことをするなって釘を差されるんだぜ?釘を打つのは俺たちの仕事だってのにな」


男性がそう言うと、近くで話を聞いていた他の大工たちがゲラゲラと笑いだした。


この様子だと毎回そうなのだろう。



「えーと、それだと困るんですよね。何か目印になるようはものはありませんでしたか?」


「そう言われてもな...」


大工は申し訳なさそうに顔を歪めるが、何かに気がついたように表情を一変させた。



「ん?あんた香をつけてるのか?」


「へっ?」


鼻をヒクヒクさせる大工を前に、気後れして思わず一歩下がる。


だが、彼の言葉に思いつくことがあり、逃げてなるものかと一歩踏み出した。



「はい、塗香、粉の香をつけています。何か気になることでも?」


「いやね、どこかで嗅いだ香りだなって」


大工は腕を組み、「どこだったかな?」と首を捻る。


その様子を固唾を呑んで見つめる私と兵士たち。


そして、しばらくして彼はおもむろに手をポンと叩いた。



「そうだ!後宮だ!修理しにいった通路でそんな匂いを嗅いだんだよ!」


「それは本当ですか!?」


「ああ、間違いねえぜ。金木犀に似てるが、一際目立つ甘い香り。特徴的な香りだったからよく覚えてる」


その言葉を聞いて思わず拳を握る。


ズージン様の弔い代わり、気合いを入れるための戦化粧として身につけた塗香。



(それがまさか調査の役に立つとは!)


花が咲いている場所はある程度絞れる。


大工から大まかな情報を聞き取れば、修理の箇所は自ずと明らかになる。


先日、見て回った時には気がつかなかったが、修理されたと知っていれば何か分かるかもしれない。



(もうそれぐらいしか調査の余地がない。ここが正念場だ!)


側仕えがわざわざ大工を急がせたのには理由があるはずだ。


それが何かは分からないが、今はその可能性に賭けるしかなかった。


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