著者:万葉 「新しい星座 猫座」
星を見ながら、ビールを飲むのを趣味としている。初対面の人にこう言うと若干引いた顔をされてしまう。格好つけているように見えるのだろう。残念ながら、星が見える日は暑くても寒くても外に出て星を眺めている。
転職を機に引っ越した物件が、少し特殊だった。アパートの最上階で、そのフロアには俺の部屋だけ。外から見ると、俺の部屋だけがぽこん、と上に出ており、屋上部分を俺は好きに使ってよかった。防水のソファを置き、テーブルを置いて、仕事終わりにビールを飲んでいる。大家さんに聞いたところ、最近厳しくなった日照権の問題で特殊な形になったのだという。俺の部屋は六階にあるのに、その作りのせいで外階段を上がらないといけない。最近は五階までエレベーターで上がって、外階段で六階まで上がるようにしている。
「お、うま」
スーパーで安くなっていたから、普段のまない銘柄を選んだけれど、思っていたより美味い。というか明日からお盆休みのこの日に飲むビールが不味いわけがないのだけれど。星を見上げる。残念ながら、星座は一切わからない。中学校の理科でやったのが最後の記憶だ。ビールも残り半分ほど。ゆっくり飲んでいると、急に視界がおかしくなった。
「は?」
空から、猫が、一匹、落ちてきた。いや、落ちてきたというか、狙ったかのように俺の横に着地した。
「星座を首になってしまいまして、」
「え、は?」
ついでに日本語も喋るらしい。この猫。毛並みは短めで少し茶色い。首輪はない。野良猫にしては綺麗だ。そもそも、そう、綺麗に空からやってきた。隣のアパートの屋上でも、向かいのマンションからでもない。
「88星座から脱落してしまいましたので。居候させてもらえませんか」
「……別に、いいけど」
こうして、奇妙なしゃべる猫(自称星座)との同居生活がはじまった。
猫座は、もともと星座だったけど現在使われていないとのことだったので。




