王との謁見
モラル兄妹の店を離れ、宿へと向かうと、宿の入口に鎧を着た男が二人立っていた。
「はじめまして、君が光輝くんだね?王命により、君にはこれから城へと同行してもらう。」
勇者の情報が頭に流れた時から、いつかは呼ばれると思っていたが、正直関わりたくはなかった。
転移者とはいえ王命を断ることができるわけもなく、俺は大人しく城へと同行した。
扉の前で兵士が一言二言話すと、大きな扉はゆっくりと開き豪華な装飾で彩られた謁見の間が姿を現した。
「レイナルド王の王命により、転移者と共にレイナルド王の元に馳せ参じました。」
謁見の間でのマナーなど知るはずのない俺は、前の兵士を見よう見まねで真似をして、何とかその場を乗りきった。
「顔を上げよ。」
王の言葉を待ち、顔を上げると、そこにはクラスメイトABCの姿があった。
「この御方が、第十三代目ガラン国王レイナルド・ガラン様である。貴殿が光輝殿で間違いないな」
「間違いありません。」
「そうか……貴殿を呼んだのは他でもない、この新たな勇者候補との通訳になってもらいたく城へと呼び寄せさせもらった。過去に現れた転移者が残した本により文字を介した会話は多少できるのだが、文字での会話も完璧とまではいかず困っていたところ。貴殿の話をこの者たちから聞いたのだ。」
余計なことをしてくれたものだ。国や世界の情報が集まる前に誰かの下につくのは嫌だが、断ればどうなるかは容易に想像が着く。
「貴殿がコミュニケーションの面で力を貸してくれれば、二十九人の勇者候補の力を借り、必ずや魔術都市ヴイッセンやエルマン王国との戦いにも勝つことができるはずだ。」
何か不穏な言葉が王の隣に立つ男から聞こえた気がした……。
「レイナルド王……お聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「よい、申してみろ。」
謁見の間に着いてから、ようやくレイナルド王が言葉を発した。ここまでの会話での予想だが、この国を支配しているのはレイナルド王ではなく、隣の側近の男なのだろう。
「先程、隣の側近の方の口から魔術都市ヴイッセンとエルマン王国に勝つと聞こえたのですが。まさか、魔物の国国を共に囲んでいる二つの国と戦争をしているのですか?」
「その通りだ。魔物たち攻撃は魔術都市ヴイッセンとエルマン王国に集中しており、我々には被害が出ていない。よって魔物が滅んだあと、敵になるであろう二つの国を今のうちに潰しておこうという狙いだ。」
ダメだこいつら……過去の歴史から何も学んでない……。それに、転移者とはいえただの子供に国家機密に相当する情報を話すなんてどうかしてる。……どちらにせよ、このままではこの国はおろか世界すら滅びかねない、だがどうする……。
「光輝殿は戦争について何か思うことがあるかね?」
レイナルド王の本日二度目の言葉は、俺の心理を読んだのか、単純に意見を聞きたいだけなのか分からないが、今一番投げかけられたい言葉だった。
「では、僭越ながら具申させていただきます。魔術都市ヴイッセン、エルマン王国、両国との戦争は避けるべきだと私は思います。」
「私の作戦に異論を唱えるなら、それなりの理由があるのだろうな!」
王の隣に立つ男が大きく吠えた。これで少なくとも王の考えた作戦ではないことがわかった。何とか王様を納得させれば俺の勝ちだ。
「もちろん理由はございます。一つ目の理由は過去の歴史です。過去七カ国あった国は今や国同士の戦争や魔物の進行により三カ国しかありません。この国の戦力がどれほどのものかは存じませんが、戦争を行えば最後には魔物に襲われて、この国は終わると思います。」
「戦力に関しては心配には及ばん。先程も話したが我々の国は魔物に襲われていないため、人、武器、防具の全てが万全の状態で揃っている。それにこちらには貴様も含めると勇者候補が三十人だ!余裕で勝てるに決まってる。」
側近の言葉は無視だ……俺が納得させなくてはいけないのはレイナルド王ただ一人。
「二つ目は我々転移者とこの国の兵士のやる気です。特に我々転移者は戦争には縁のない国で育ったため、人はおろか動物を殺すことにも抵抗があるものばかりです。」
「我々は、勇者候補が生活に困り果てているところを城で引き取り、もてなしてやっているのだ、一度や二度戦うだけの理由には充分なはずだ。」
「……三つ目は考えの甘さです。質問なのですが、戦争に勝ったあと、その国はどうするおつもりですか?」
「当然我々が支配する。」
「支配するとおっしゃいますが、戦争で衰えた国を立て直すのにどれだけの時間と資源が必要か考えていますか?戦争で勝った場合、その国の勇者は死亡していると思いますが、支配したあと魔物の攻撃からどうやって国を守るおつもりですか?」
「それは……」
先程まで饒舌だった側近がようやく黙った。これなら……。 ズドン!!最後の言葉を投げかけようとした矢先、目の前の床が突然爆発した。
「さっきからペラペラペラペラ俺たちが分かんねぇ言葉で話してんじゃねぇよ!」
どうやらクラスメイトAの仕業のようだ。俺が魔法の使い方が分からず困っているのに……どこまでも気に入らない男だ。
「やめなさいハヤトくん!王の……!」
「黙ってろよおっさん。あんたらは何を言ってるかわかんねぇし、話があんのはこいつだ。」
側近がハヤト?を止めようとすると、ハヤトは手のひらから炎の玉を飛ばし、側近の近くで爆発させた。
「光輝……俺の言うことが聞けるなら、お前をクラスメイトととして仲間に入れてやる、もし聞けないなら。」
ハヤトは両の手に炎をの玉を持ち睨みつけてきた。
「昔みたいにボコって分からせてやる。」
はったりじゃないことは、昔虐められた俺が一番わかってる。それでも戦争は反対だし、こいつの言う通りに動くのはもっと嫌だ。
「やれよ、何されたってお前の思い通……!!」
俺が言い終えるのを待たずにハヤトは俺の体を燃やした。だが不思議なことに炎は瞬く間に消えた。
「てめぇ!何を……!」
恐らく魔物のコアが魔法を吸い上げてくれたのであろう、魔法が効かないことがわかった俺は全力でハヤトの顔をぶん殴った。
「……もう許さねぇ。」
立ち上がり、剣を抜いたハヤトが俺へ向かい剣を振りかぶった。俺は咄嗟に魔物のコアの入ったカバンを盾にした……。
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「!!」
「ようやく起きた、三日も起きないからもう死んじゃったかと思ったよ。」
どうやら俺は意識を失ってしまっていたらしい。今は小綺麗な客室のベットに横たわり、クラスメイトの女子が隣に座っている。
「光輝くんだよね?私の事覚えてるかな?」
忘れはずがない。彼女の名前は綾夏、クラスの委員長で度が過ぎるほどのお人好し。俺とは正反対の彼女のことが俺は少し苦手だ。
「苗字は覚えてないけど名前は綾夏だろ?そんなことよりも俺に何があったんだ?ハヤトが切りかかってきてから意識が……!」
「ダメだよ、まだ安静にしてなきゃ。何があったか……だよね。これはある人に聞いた話なんだけどね。」
委員長の話によると、ハヤトの振った剣が俺のカバンに当たると同時に大きな爆発が起きて、俺とハヤトは吹き飛ばされ意識を失ったらしい。
恐らく魔力の籠った魔物のコアに強い衝撃が加わり爆発したのだろうが、そんなものを持ち運んでいたと考えるとなんとも恐ろしい。
そして何より被害が俺とハヤトだけだったのも幸運だ。魔物のコアの爆発を魔物のコアが吸い上げてくれたのだろう。恐らく魔物のコアを持ち歩いていたのは既にバレているだろう。爆発物を持ち歩いていた俺はどのような罪に問われるのだろうか……。
そんなことを考えている俺の部屋を綺麗なドレスに身を包んだ少女が尋ねてきた。
「光輝様、目を覚まされたのですね。少々お話する時間をいただいてもよろしいでしょうか?」




