配慮
「この異世界で現代とほとんど変わらない生活ができるって凄いね光輝くん!」
【ヒノマル】本店。光輝と委員長の綾香は夜の営業の準備をしていた。
「まぁね。風呂や家電がある生活が当たり前だったからこそ、存在しない生活は結構苦しかったよな。」
光輝がこの世界に来てから一年。光輝たちはテストも兼ねて、魔道具士アードルフから、魔物のコアを使用した冷蔵庫や風呂などを【ヒノマル】に設置して使用していた。
魔物のコアは、割れることで中の魔力が爆発を起こす性質上。絶対に傷つかないよう、厳重に特殊な金属で覆われている。傷をつけない加工が難しいため、大量生産には至っておらず。一般に出回るのには最低でも三年はかかるらしい。
開店の準備が進めらている店の中。過去に二度聞いた嫌な声が店の中に響いた。
「失礼する。レイナルド様の王命により星神 光輝様には城へと同行してもらう。」
城へ行くことを半ば強制するような言い回しの光輝の嫌いな兵士が二人、店の中に足を踏み入れた。
「お断りします。私は城に行く気はありません。」
「先程も言いましたが、これは王命です光輝様。あなたが首を横に振っても城に着いてきてもらわなくてはなりません。」
兵士は光輝の発言に若干の動揺を示した。
「もう一度言いますが、お断りします。私には私の都合があります。突然やってきて同行しろと言うような失礼な人に着いていく気はありません。」
兵士たちは一度顔を見合わせ、光輝に頭を下げた。
「光輝様。私たちが無礼を働いたのであれば謝罪します。しかし連れていけなければ私どもの責任になってしまいます。どうか、同行していただけないでしょうか。」
(丁寧な口調で謝られたかったわけじゃない……こちらの都合も考えてくれと伝えたかっただけなのに……)
光輝はイジメを受けていた、過去のことを思い出しながらも二人の兵士に同行することを決意した。
━━━━━━━ガラン王国王城━━━━━━━━
「光輝殿。突然お呼び立てして申し訳ない。どうぞ、座ってくれ。」
部屋に入るとレイナルド王と、その兄のラモン・ガラン。そして初め見る若い男が二人立っていた。
「さぁ、人も揃ったところで早速話し合いを……」
「申し訳ありませんレイナルド王。先にお話をよろしいでしょうか。」
「あぁ構わん。」
「ありがとうございます。単刀直入にお聞きしますが。レイナルド様は、私とレイナルド様の関係をどうお考えですか?」
「どうとは?」
「例えばサリム様は私を友と呼びました。まぁ……私の中では三カ国の代表は目的が同じ協力関係という認識ですが。」
「そうだな。私もそういう認識だ」
「そうですか。つまりレイナルド様は、協力関係という本来は対等であるはずの相手を、都合も考えずに三度も城に呼びつけたわけですか。」
「それはだな……」
レイナルド王が困り果てていると背後に立っていた若い男が代わりに口を開いた。
「父上は忙しいのだ。貴様のような平民と違ってな。」
「父上……ということはレイナルド様のご子息ですか?」
「よく聞け平民。私の名前はジェイク・ガラン。第一王子にして七色の貴公子と呼ばれている。」
(なるほど……これが愛すべきバカというやつか)
「ジェイク!黙っているという約束だったはずだが?」
「だ、だけど叔父さん。コイツが父上に対して失礼な……」
「すまない……光輝殿。息子の非礼を詫びよう。」
「父上……」
レイナルドが光輝に頭を下げるのを見てジェイクはようやく大人しくなった。
「いえ、私も頭に血が上っていたとはいえ、口がすぎました。申し訳ありません。」
「いや、光輝殿の話は正しい。次回からは光輝殿の都合のいい時間に来ていただいて構わない。もし、それもダメなら私から出向こう。」
「我儘を言って申し訳ありません。」
「話も纏まったところでレイナルドよ。そろそろ本題に入ったらどうだ?」
気まずい空気に耐えかねたラモンは話を強引に本題へと運んだ。
「あ、あぁ。そうだな。光輝殿に相談することでないのは分かっているのだが、戦略について意見を聞きたいのだ。」
「……戦場に出たことのない俺にですか?」
「分かっている……だが、光輝殿の今までの行動を見ていると、光輝殿なら何とかしてくれるのではないかと、どうしても期待してしまうのだ……」
普段なら「王の言っていい言葉では無い」と怒っているラモンだったが、これには首を縦に振らざるおえなかった。
「光輝殿。私も弟も君に相談するのが間違っているかとは重々承知している。だが、不甲斐ないことに我々にとっても戦争は未知のことなのだ。どんな意見でもいい一緒に考えてくれないだろうか。」
ガラン王国は魔物に支配されている国から離れている影響で魔物の進行を受けることが少なかった。後から聞いた話では、最後に行われた戦争は百年以上前の今は滅んだ人間の国だったそうだ。
「分かりました……だけど、期待しないでくださいね。」




