スクロール
「光輝殿、昨晩はゆっくり眠れましたか?」
「相当疲れてたみたいで、お陰様でぐっすり眠れました。」
「それはよかった。片付けが終わり次第、出発します。光輝殿も準備をお願いします。」
三人は野営を離れ再びヴィッセンへと馬を走らせた。
「ヴィッセンまであと少しです!今日はこのままヴィッセンまで向かいましょう。」
「だ、誰か!助けてくれ!」
それから二日が経った夜のこと、三人の耳に一人の男の声が届いた。
「サントスさん今の声って……」
「あぁ、魔物に襲われているな……」
「いるなって……助けに行きましょうよ!」
「ダメだ。俺たちは任務の最中だ、光輝殿を危険に晒すようなことはできない。それに自国の民ならまだしも、他国の人間をリスクを犯してまで助ける義理はない。」
(普段の俺なら、サントスさんに賛成するだろうが、今から向かうのはドラン王国と仲の悪いヴィッセンだ。ドラン王国から来たとバレた瞬間、捕えられるというのもない話ではない。だったら……)
「だったらフェルさん、二人で行きましょう。」
「え!?」
「助けてヴィッセンの案内をしてもらいます。俺が行くならサントスさんも来るしかありませんよね?」
「そう……だね。分かった!」
「あ、おい待て! あのバカが……!」
光輝の言葉に満面の笑みを浮かべ馬を走らせるフェルとは対照的に、サントスは顔を歪ませ頭を抱えていた。
「光輝くん、先に決めておきましょう。もちろん俺も助けたいとは思いますが、光輝くんを危険に晒すことは避けなくてはいけません。なので魔物と戦うのは俺たちがやるので光輝くんは離れていてください。」
「おい、フェル!お前帰ったら覚えておけ!」
「サントスさん!来てくれてよかった……!」
「メラニー姫から与えられた任務を放棄できるか!」
「ですね!今回のお詫びに帰ったら光輝くんのお店でご飯奢らせてください!」
「……!見えたぞ、あそこだ!」
サントスの指の指の先にはトロル一匹、オーク六匹がこちらへ走る馬車を追いかけていた。
「光輝殿はここで下りてください!準備はいいか?いくぞフェル!」
「はい!」
サントスとフェルの二人は、光輝を馬から下ろし魔物へと向かっていった。
「フェル!お前はオークの注意をひけ!私はその隙にトロルを倒す!」
「分かりました!『ショックボルト!』」
フェルは指の先に雷の魔力を集め、小さな光を六匹のオークにぶつけた。ぶつけられたオークの体に静電気ほどの電流が流れた。オークたちは普段感じることのない感覚が余程不快だったのかフェルへと一斉に向かってきた。
「こっちは任せろ!」
サントスはトロルを前に馬を下り、腰の剣を抜き、構えた。サントスは「フー」っと一呼吸を入れ、トロルの棍棒(ただの折れた木)の振り下ろしのタイミングに合わせ懐に飛び込み両足を切りつけた。
両足を切られたトロルはバランスを失いその場に倒れ込み、すかさずサントスは背中に飛び乗り、うなじを深く切りつけた。
「こっちは終わったぞ!」
「こっちはまだ……!!っておい、待て!光輝くん逃げてください!」
サントスの声に二匹のオークが反応しトロルが倒されたのを見ると、サントスとは逆方向、すなわち光輝の方へ向かい二匹のオークが逃げてきた。
光輝はすかさずスクロールを一つ口にくわえ、剣を構えた。
(オークは二匹……ダンジョンでは上手くやれたんだ、問題ない……。)
光輝はオークに向かい走った。そしてオークの数歩手前で光輝はスクロールから流れる風の魔力を、つま先から一気に解き放ち、目にも止まらぬ速さで一匹のオークの首を切り落とした
(よし!あと一匹……!)
もう一匹のオークは光輝に背を向け逃げていった。
「にごふか!(逃がすか)」
光輝は剣を手放し、腰のベルトから短剣を引き抜きオークへと投げた。投げた短剣は風の魔力に乗り、驚くほど見事にオークの背に深く刺さった。光輝はオークが怯んだのを見逃さず、瞬く間に距離を詰めオークの心臓を貫いた。




