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異世界探索



 俺は人を信用しない、なぜなら、人は裏切るから。俺は人に恩を売らない、なぜなら、売った恩が帰ってくることはないから。俺は友達を作らない、なぜなら、こんな自分とは誰も仲良くなりたくないはずだから。俺は学校に行かない、なぜなら、一人で食べるご飯が美味しくないことを知っているから。


「なんだ?ゲームのやりすぎで目が疲れてるのかな?」


 学校に行かず、いつものようにゲームをしていると、突然部屋の中が何も無い真っ白な空間となった。

「君が光輝くんだね? 教室にいないとは思わなくて驚いたよ。」


 声のする方を向くと、そこには先程までゲームをしていたモニターがあり、モニターの中には一人の男が映っていた。

「はじめまして、私の名前はクルトン。突然で申し訳ないのだが、君にも異世界へと転移してもらわなければならない。」


「それって辞退することは……」


「構わないが、このままでは異世界の魔物たちがこちらの世界への侵略を始めてしまう。そうなる前に君たちに異世界を救ってもらいたんだ。」


 半ば強制じゃないか。異世界の魔物というのがどういうものなのか分からないが、外来生物を知っていれば、異世界の魔物がきたらどうなるかは想像に容易い。

「……わかりました。ただ、異世界に行くのはいいのですが。どうして僕なんですか?まだ高校生ですよ?」


「僕ではなく、正確に言うと君たちなんだ。君を除く二-Bの生徒は既に同意して異世界へと転移してもらった。自宅にいた君が最後になったというわけだが。ふむ、どうしてか……か。」


「端的に言うと予言の神の予言だ。もちろん私も含め複数の神が子供に任せるのは可哀想という見解であったが、大人が転移してしまうと文明に大きく影響を与えてしまいかねないと言うことで、君たちに頼らざる負えなくなったのだ、本当にすまない。」


「事情はわかりました。最後に一つ質問させてください。異世界に転移した後、家族が心配すると思うのですが。転移による家族への影響はありますか?」


「もちろん、ご家族には転移を終えた後に報告する予定だ。それにしても驚いたな、君以外の子たちはチート能力を欲しがる子や状況を理解できていない子ばかりだったのに。ここまで詳しく聞かれるとは思わなかったよ。」


 今の高校生……特に男の子は異世界転生や転移などに何らかの形で触れているから話が楽に進むのだろう。かく言う俺も異世界ものは嫌いじゃない。

「質問が終わったところで、いよいよ君には異世界へと転移してもらう。転移するにあたって、チート能力は無理だが、私にできる限りの力を一つ授ける。君はどんな力がほしい?」


「でしたら転移する世界の基本的な知識をください。」


「よろしい、ならば光輝くんには異世界の言語などの基本的な知識を授ける。その力を使い、先に向かった同級生の力になることを願っている。」


 クルトンと名乗る男の言葉を聞き終えると同時にまぶたが重くなり再び眠りについた。


 目が覚めるとそこは教会で、目の前には一人の神父が立っていた。

「おや?まだ全員が送られてきたわけではなかったのですね。何を話しているか分からないでしょうが、これは教会からの最大限の支援です。」


「ありがとうございます。」


「……!驚きました。他の転移者様とは違い、あなたはこの世界の言葉を話すことができるのですね!自己紹介が遅れました、私の名前はアーロン、この協会の神父をしております。もしも何かお困りになったことがあれば、いつでもお声がけ下さい。」


 親切な神父にお礼を言いその場を後にした。どうやら神様に与えられた知識によると、この世界には七度転移者が送られてきたことがあるようだ。転移者たちは凄まじい力を持ち、その力をもってそれぞれが別々の国で勇者としてもてはやされていたらしい。


 転移者たちは国の力の象徴となり、その力や知識は世界に大きな影響を与えた。転移者のいた七つの国は魔物と戦うことを忘れ転移者の力を戦争の道具として利用した。


 結果七つの国のうち四つは魔物に支配され、残った三つの国が支配された国を取り囲み何とか牽制している状況らしい。


 とはいえ魔物たちのことはクラスメイトに任せ、まずは服屋で、この世界の衣服を身につけないと周りの視線が痛い。

「いらっしゃいませ。」


 服屋の中は素朴なものが多く街を歩いている時も思ったが衣服の種類が異様に少ない。

「すみません、今来てるこの衣服の買取ってできたりしますか?」


「うん、できるよ。ただ、買い取れるのは上だけかな?全部を買い取れる余裕はこの店にはないからね。」


 店の店主は丁寧だけど少し冷たい印象を受ける青年だ。よくいるアパレル店員とは違い安心を覚える。

「服の下にも何か着ていたんだね……それも買い取りたいけど……どうしようか。」


「だったら上の服は買い取って頂いて、下のは上下三セットと物々交換はどうですか?」


「君がそれでいいなら僕は構わないよ。」


 服屋の店主との取引を終え、残ったズボンとパンツそして購入した上下セットの衣服を手に持ち、宿を探した。道行く人に聞きながら宿に着くと、部屋を借り、腰を下ろしこれからどうするかを考えた。


 衣服を売ったおかげで、神父様から頂いたお金と合わせ現代日本でいう三十万ほどの金銭を手に入れた。当分金銭に困ることはないが、どれだけの間この世界で暮らすことになるか分からない。


 何かいい仕事はないかと街を歩き散策していると客のいない古びた飯屋が目に止まった。

「……!いらっしゃいませ!お席についておくつろぎください!」

 

 席に座りしばらくすると、一人の女性が満面の笑みをうかべ席へと注文を伺いに来た。

「こんにちは!本日は何になさいますか?」


「じゃあ、この肉野菜炒めを一つ。」


 注文をとると、女性は厨房へと走って向かい。しばらくして料理が席へと運ばれてきた。運ばれてきた料理は彩りが悪く、野菜は火が通っていなくて硬い。吐き出すほどではないが決死って美味しいとはいえない

「すみません、店員さん。」


「はい?」


 俺は料理を運んでくれた女性を呼び、料理を作った人と話をさせてくれないか頼んだ。

「さっきの料理は俺が作った。味の感想なら忖度なしで教えてくれ。」


 厨房から出てきた男は背が高く体は鍛えられガタイがいい。正直に感想と言っても伝えるのを躊躇ってしまう。

「えーと、ですね。……では正直に感想言わせていただきます。」


「あぁ覚悟はできてる。」


「控えめに言って美味しくはないです。味はまとまりがない、野菜は生、彩りが悪い。正直ただの肉野菜炒めをここまで不味くする方が難しいと思います。」


「……やっぱりそうか。分かってはいたが俺には料理が向いてないな。」


 俺が感想を言うと、男は肩を落とし落ち込んだ。

「私たちに料理の才能がないなんてわかってたことでしょ。気にしてもしょうがないって!」


「あの、よかったら事情を聞かせて頂いてもいいですか?」


 俺は二人の事情を数十分聞いた。兄の名前はカルロス・モラル、妹の名前はエレナ・モラル。昔はダンジョンで生計を建てていて、父の死をきっかけに、跡を継ぐことを決めたらしい。

「……もしよかったらなんですが、一週間でいいので、お店を借りることはできませんか?」


 今度は自分の事情を話し、店を借りられないか頼んだ。両親に学校に行っていなくても困らないよう、料理や掃除などの基本的なことは他の高校生よりも得意なつもりだ。


 この店に着くまでに他の店の様子も覗いてはみたが、食事のレベルは高いとはいえず、現代の料理でも充分通用するだろう。


「一週間か……」


「もちろんお店を借りるにあたって小銀貨一枚と銅貨三枚をお支払いします。」


 小銅貨一枚が百円で小銅貨、銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨の順番で位が上がっていく。小銀貨一枚と銅貨三枚は元いた世界の一万五千円で、この世界なら二ヶ月遊んで暮らせるだけのお金だ。

「兄さん、この話飲みましょ。私たちがダンジョンで集めてたお金も残り少ないし。それに食べに来てくれるのは元パーティーメンバーだけだし。」


「……そうだな」


 店主の了承を得て翌々日から店を借りるという契約を結び、二人に食材の仕入先の場所などを聞いていると、三人組の若者が勢いよく店のドアを開け入店してきた。


「たのもー!カルロスさん!今日も食べに来ましたよ!あれ?今日は僕たち以外にもお客さんがいるんですね!」


 三人組の入店により、先程までどんよりしていた店の空気はどこへやら、明るい空間に早変わりした。

「そうだ光輝くん、良かったら三人に君の料理を食べさせてあげてくれないか?ついでに俺と妹の分も頼むよ。」


 カルロスさんの頼みを了承し、厨房へ入り食材を確認する。似た環境さえ整えば同じ進化を遂げるのか、野菜や果物などは元いた世界とそこまで変わらないようだ。


 神から与えられた知識にもあったが、この世界では冷蔵庫やコンロなどが存在していない。その代わりにダンジョンで手に入るスクロールを使うようだ。スクロールには火、水、氷、雷、土が存在していて日常生活でよく使われているようだ。


 俺が火のスクロールにフライパンを乗せるとスクロールから炎が現れフライパンを温めた。炎が使えることの確認を終えいよいよ氷のスクロールの入った木箱から食材を手に取り料理をはじめた。


 醤油がないので塩、しょうが、ニンニク、鶏肉を入れ、味がしみるようによく混ぜる。油が温まるのを待つ間に一度手を洗い、サラダに使う野菜を手でちぎり皿へと盛り付ける。


 鶏肉とは別のボウルに小麦粉と水を適量入れ衣を作り。鶏肉全体にまぶしたら、熱々になった油でじっくりとあげていく。最後にサラダを乗せた器に綺麗に乗せ塩唐揚げの完成。

「随分と時間がかかったな、それにしてもいい香りだ……」


 席へと全員分の唐揚げを運ぶと、我先にと青年がかぶりついた。

「…………!!」


 青年は一つまた一つと唐揚げへとフォークを伸ばした。

「そんなに美味いのか!!よし、俺たちも食おう!…………!!これは酒が欲しくなるな……光輝くん一番奥の木箱に酒があるからグラスと一緒に持ってきてくれないか!」


 俺が酒を席に運ぶ頃には、沢山あった唐揚げは半分まで減っていた。

「ありがとう、光輝くん。それにしてもこんなに美味いものは初めて食べたかもしれん。この料理も店で提供するのかい?」


「店にある食材で作っただけで、提供すると決めたわけでは……」


「「「「「絶対に提供した方がいい!」」」」」


 五人の圧に押され、記念すべき一品目がこうして決まった。


 


 


 


 

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