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58──OnAir.

 






『カメラが捉えた未確認生物』


『CG? それともスタジオ撮影?』


『生成A.I.か? 過熱する議論』


『新人ダイバー姉妹、沈黙のまま』


『本物だという指摘もある話題の動画』


『問題のLIVE映像、専門家「本物のわけがない」とバッサリ』


『空白の15分。夢か幻か』


『カメラに映った新種のモンスター?〈画像はこちら〉』


『「嘘でしょ……」LIVEに映った怪物』






「はぁー。当人のあたし達の事なんかほったらかしで言いたい放題ね」


 トーストを小さくかじりながら、リヴルがため息を吐く。手にあるマイフォンをスクロールしていくが、どれも似たような記事ばかり。


「大体なによ、人のことヤラセとか炎上商法の姉妹だの! も~っ、あったまくる~!」

「しょうがないよ」


 向かいで同じくトーストをかじるラヴィが似たようにため息混じりに言った。


「だって、私だってあれは夢だったんじゃないかって思ってるもん」

「む······。まあ、そうかもだけど······」


 リヴルはそこで口をつぐんで、やはりトーストを面白くもなさそうにかじり始めるのであった。


 リヴル、ラヴィ姉妹の穏やかな朝食の時間がそこにはあった。












 姉妹があの深淵の奥で恐ろしい目に遭った日から三日。


 二人は落ち着きを取り戻しつつあり、今は配信活動やツブヤイターでのお知らせなどもせずにゆっくりと過ごしている。しばらくは何もしたくない状態なのだ。ネットとは少し距離を置いている。


 しかし、世間はそういう訳にはいかなかった。


 あの日。リヴルが無意識に回した配信映像は、多くの人間の目に留まる事となった。


 その映像は大量に切り抜かれ、瞬く間に動画サイトに拡散され、大騒ぎとなった。禁止ダンジョンの配信だ。ただでさえ注目が集まり、途中のスライム出現時の時点でそれなりに話題が沸騰していたのだ。


 そこへきての姉妹間のトラブル。そして突然の配信中止。そこからのあの映像だ。


 バズもいいところ。それどころか二人の配信映像は凄まじい反響を呼び、大手ニュースサイト『ヤッホーニュース』にも取り上げられ、今もいたるニュースサイトで記事が次々に書かれているのだ。


 既にリヴル達のあの日のアーカイブには二千件を超えるコメントが殺到している。質問、批判、励まし、冷やかし。様々なコメントが寄せられ、しかもコメント欄内でも誹謗中傷混じりの議論が繰り広げられており、もはや制御不能なのである。


 リヴルとラヴィは自分達の精神もまだ完全に調子を戻した訳ではなかったため、ツブヤイターに『ほんの少しだけ休みます』といった旨の言葉を残して療養中だ。


 世間は渦中の二人を追いかけているが、お預けを食らっているのである。






「でも~······見なさいっ、このバズを! アーカイブの再生回数が200万超えよ! もうヤバすぎて頭おかしくなりそう!」

「もう。ほんとお気楽なんだから······。その代わり、ヤラセだの炎上目的だの批判的な意見も多いんだからね」

「ふん! 真実はあたしらの中にあるのよ! あたしらは正当にバズった。それだけよ」


 カリッと大きく削れるトースト。


「むふふ~、登録者も一気に八万人超えよ~。このままシルバーティアラ(登録者10万人以上のユークリユーザーに送られる記念品)までチェックメイトね~」

「まったくもう······。ねえ、お姉ちゃん」

「うん?」


 ラヴィが少し戸惑うように目を伏せたまま言う。


「ルキファスさん、家に帰ったのかな?」

「······」


 姉妹の朝のリビング。しかし、そこには他に姿はない。


 それが本来の光景なのだ。姉妹二人の小うるさく、華やかな朝こそ本来あるべきこの家の風景なのだ。


 しかし、そこに新たに加わっていたもう一人の姿がなかった。この数日間、姉妹にとっても日常になりつつあった三人での朝。


 ルキファスの姿が無いのである。



「まさか、本当にあのダンジョンに残ったままなんて事、ないよね?」

「······」


 リヴルはラヴィに話してない事がある。


 それは、ラヴィが気を失った後の事だ。



 ダンジョンから脱出を果たした時、リヴルは何が起こったか分からなかった。

 いや、正確には分かってはいた。しかし、頭では理解しても信じられなかったのだ。


『ルキファスと奇妙な会話をした後、怪鳥が現れ、自分の足の傷も治り、一瞬の内に家に帰っていた』


 そんな事、信じられるわけがなかった。


 目を覚ましたラヴィに、ありのままを話す事も出来ず、リヴルは適当に誤魔化しながら話の辻褄を合わせた。


 気絶していたラヴィを背負ってなんとか家まで帰ったのだと。ルキファスはダンジョンに一人で残ると言ったきり別れてしまった、と。


 それでも無理のある話であったが、実際に起こった出来事よりは現実的であった。


 しかし、当然ながらラヴィも全てを丸のみに信じたわけではなかったし、居なくなったルキファスの事が気がかりであった。


 そして、リヴルも、あの魔王を名乗る青年は今どこに居てどうしているのか気になっていた。




「警察に行方不明届け出す?」

「うーん······」


 ラヴィの提案にリヴルは唸った。元々ルキファスは身元不明の存在なのだ。警察に何と言えばいいのか。


『身元不明で自身を魔王と名乗っている家族でもない同居人が行方不明です』


 と言ったら、ふざけていると怒られるのが目に見えていた。


「······とにかく、ルキファスさんに関しては、あたしが責任持って捜しに行くわ」

「捜しに行くって······あのダンジョンに?!」

「ええ」

「それは駄目!!」


 途端に椅子を蹴り倒すようにして立ち上がり、ラヴィはリヴルに飛びついた。


「駄目だよお姉ちゃん!! あそこは本当に危険だよ! もう二度と近寄っちゃ駄目!」

「どうどう、落ち着いてラヴィ。分かったから」


 パニックになりかけた妹を宥めるリヴル。


「一人で侵入するって話じゃないわ。警察か、あるいは管理会社に協力してもらって一緒に捜索するの」

「そ、それでも駄目っ! あそこに行くのだけは······!」

「まあ、あたしも出来れば行きたくないけどさ」


 リヴルはいたって冷静に諭すように言った。


「けど、このまま知らん顔ってわけにもいかないでしょ?」

「そ、それは······そう、だけど······」


 ラヴィも、ルキファスの事を気にしていた。あの魔王を名乗る人物は果たして今どこに居るのか。


 まだあの暗闇の中で助けを待ちながら残されているのかもしれない、と。

 そう考えては、いたたまれない気持ちになるのであった。


「とりあえず、あたしは事務所に連絡入れる事にするわ。ルキファスさんの正式な加入は申請したばっかりだったけど、ちゃんとあたし達のチームだもんね」

「······うん、そうだね」


 リヴルはマイフォンを取り出して連絡ツールで事務所への報告文を考えた。


「えっと、何て言おうかな。『先日の配信時にはぐれてしまい、今も消息不明です』って感じ? うわー。この文だけ見るとあたしが冷酷な女みたいじゃん」


 しかし、リヴルは思うのだ。


 もし、あのルキファスが本物の魔王だったら?


 それなら彼はそのまま自分の故郷に帰っただけなのではないか。

 魔王ならあのダンジョンであっても死ぬなんて事はないだろう。

 自分達の心配は取り越し苦労どころか、余計なお世話なのではないか。


 それは希望的観測でもあった。本物の魔王だったなら心配は要らない。


 それに──。


 リヴルはあの時見た光景がまだ忘れられないのだ。


 禍々しくも神々しい、この世のものとは思えないあの巨大な怪鳥。


 あれこそ、魔王の真の姿なのではないだろうか。





 ──ガチャッ──


「?」


 と、リヴルがぼんやりと考えていた時であった。

 玄関のドアから音がした。


 ラヴィも気付き、二人で振り向く。ドアノブが再びガチャッと音を立てた。鍵がかかっているため開かない。


 誰かがドアを開けようとしている。


「だ、誰?」

「しっ、ラヴィ、下がってなさい!」


 突然の謎の来訪に戸惑うリヴルとラヴィ。


 二人とも手頃な場所にあったトンカチや棒を持って恐る恐る玄関に近寄る。


「だ、誰?! 配達の人?!」


 リヴルが大声で呼び掛けるが返事は無い。

 代わりにまたガチャガチャとノブが回される。


「だ、誰なの?! 警察呼ぶわよ!?」


 ──カチャッ──


「え?」


 一瞬、ドアノブがぼんやりと光ったかと思うと、鍵の外れる音がした。


 そして、自然にドアが開かれる。


「「あっ!!」」


 と、姉妹は同じ声をそっくり揃えて飛び上がった。


「何をしているのだ貴様らは」


 そこに現れたのは、この数日間で姉妹に濃密な時間を招いた張本人。今のさっきまで姉妹の心にわだかまりのように残った心配事。


 自称魔王の青年ルキファスであった。



「ル、ルルル、ルル······」


「ふむ、やはり狭い家だ。が、まああんな瓦礫の山よりは良いだろう」


 その場で呆然として口をパクパクさせる姉妹になど構わず、ルキファスは平然と上がり込んでテーブルに着いた。


「リヴル。カップ麺を出せ」


 そんな脈略も何も無い横柄な指示までするのだ。


 そこでようやくリヴルが叫ぶように言った。


「ルキファスさんっ、生きてたの?!」













「うむ、うまい」


 激辛カップ麺をすすりながら、満足そうに頷くルキファス。


「やはりこれに限るな。あの深淵にはそこそこ()()()()()のあるモンスターも居たが、味はイマイチだったからな」

「······で!!」


 ダンっと机を鳴らしてリヴルが怒ったように尋ねる。


「一体ぜんたい、ルキファスさんはどこで何をしてたの?!」

「忘れたのか。言っただろう。かつての俺の居城の様子を見に行ったのだ。貴様らがワープロープで消えた後、さらに奥に潜ってな。が、拍子抜けだ。城は人間どもとの最終決戦でか、それともその後にかは知らんが、完全に破壊されて瓦礫の山となっていた。あんな所に用など無い」


 ルキファスはスープまで飲み干すと、ラヴィに「次だ」とお代わりを催促した。


 二杯目の麺がふやけるのを待つルキファスに、ラヴィも恐る恐る尋ねる。


「あ、あの。ルキファスさん、ずっとあのダンジョンに居たんですよね? 三日間も」

「何日居たかは知らんが、そうだ。城跡を見つけた後はそのまま深淵から出てここまで来た」

「よ、よく戻ってこれましたね。というか、お金とか持っていたんですか?」

「そんな物無い。モンスターどもを喰らったお陰で少しだけ魔力が回復したのでな。ここまでポータルをひいて来たのだ」


 蓋を剥がして二杯目をすすり始めるルキファス。

 リヴルとラヴィは互いをまじまじと見る事しか出来なかった。





「ふむ。やはりカップ麺に限るな」



 十分かその後。家にあったカップ麺を食い尽くしたルキファスがソファに身を沈める。


 テレビが流れるが、どれもお気に召さないらしく、つまらなさそうに口を歪めていた。



「······」

「······」

「······」

「······ちょ、ちょっとお姉ちゃん!」


 沈黙を破り、ラヴィがリヴルの手を引いてリビングから離れる。


「ど、どうすんの?!」

「どうするって······」


 二人とも困惑していた。ラヴィの『どうする?』は、自分でも何を指してるのか分かっていなかったし、リヴルは何を聞かれても何と答えれば良いか分からなかった。


「ね、ねえ。ルキファスさんって本当に、本当の本当に本物の魔王なんじゃ······」

「······」


 リヴルは今一度ルキファスの方を見やった。当の本人はお気に召した番組を見つけたのか、残酷な笑みを浮かべて忍び笑いを漏らしていた。


「も、もしそうなら、私達どうなっちゃうの?」

「······うーん。そうねえ······」


 リヴルは少しの間黙っていたが、すぐに苦笑を振り向かせた。


「ま、こうなったら仕方ないじゃん」

「えっ?!」

「本物の魔王なら、それでさ。別によくない?」

「ちょ、ちょっと待ってよ?!」


 ラヴィが声を上ずらせる。


「いや、私も自分で言っておいてなんだけど、本当に本物の魔王だなんて思うの?」

「うーん······まあ、かもねえ」

「かもねえ、って······」

「まあ、でも大丈夫っしょ」

「何が?!」

「例え本物の魔王でも、問題ないない」


 あっけらかんと答えるリヴル。


「だってあたし達の命の恩人だもん」

「え、え。え?」

「それに~······。本物ならこれ以上のチャンスは無いわ! まだ未発見の古代遺跡やダンジョンもバンバン見つけられるし、バズ動画ももりもりに作れるはずよ!」

「しょ、正気なの?!」


 話が理解出来ないラヴィを置いて、リヴルがルキファスの元に寄る。


「ルーキファスさんっ」

「ん?」


 ルキファスが振り向く。


「なんだ」

「今夜はお暇? またちょーっと配信を手伝って欲しいんだよね~」

「ああ、あれか。いいだろう」


 呆気ない答えにリヴルは「やった!」とガッツポーズしてみせる。

 ラヴィだけは、ポカンと口を開けたまま、まだ姉の行動についていけていなかった。


「ラヴィ~っ、コンビニに買い物行くわよ! ルキファスさんへの献上品を買わないと! それと、ツブヤイターで告知もしないとね!」

「ほ、本気なの~?!」


 火を取り戻したように騒がしくなる家。もつれるようにして騒ぎ立てながら出ていく姉妹をルキファスは不思議そうに見送っていた。


 外に出たリヴルは、ラヴィの手を引いたまま、元の明るさを取り戻して言った。


「さっ! いつまでも隠居なんてしてらんないよね! ふっふーん、話題沸騰、渦中の美人ダイバー姉妹の復帰配信······! これは同接1万も夢じゃないわね!」

「わ、私、お姉ちゃんについていけないよ~!」

「わーっはっはっは!! ラヴィっ、人生は一度きりの撮り直し無しの生配信なのよ~! テイク2なんて無いんだから! やれることは何でもやって輝かないとっ!」


 リヴルは目を輝かせて言った。


「今夜が楽しみね!」







 その夜。



 多くの人間が、ユークリ内のある一つのチャンネルに注目した。

 その数は想像よりも遥かに膨れ上がり、緊張は最高潮に達していた。



「それじゃあ、ラヴィ」

「うんっ」

「ルキファスさん」

「ああ」


 少し間を置いて、囁くような声が配信の合図となった。


「頼むわよ。あたしの魔王様」




 今宵も人間と魔王の奇妙な交流が始まる。





 OnAir.









 ────おしまい────





お疲れ様でした。これで終わりとなります。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。楽しめて頂けたなら幸いです。


この作品はいわゆる『お蔵入りシリーズ』とでも言う物でして、アイディアを思いついたものの、途中までしか書けなかった物をリブートした物となります。


個人的には、この三人の奇妙な関係性は気に入ってるのですが、それを十分に活かせるだけの構成が難しく、長さは短めとなりました。


ですが、こうして一応の形にして出す事ができ、たくさんの読者の皆様に読んでいただき嬉しく思います。多くのイイネなどの応援ありがとうございました。どれも大変な励みになっております。



よろしければ、最後にこの作品の評価をして頂けると今後の活動の大変な励みになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。


本当にお疲れ様でした。


またどこかでお会い出来れば幸いです。

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