名前
一緒に歩いていると、向こうが話を振ってきた。頭ひとつほど僕のほうが背が低く、向こうはこちらを見おろしながら話している。顔は幼いのに、体の発育はいいらしい。
僕もそこそこ背は高いのだが。
「俺の名前はリド。君は?」
「名前?」
名前なんてない。
「ないよ」
「無い?」
「僕らに名前はない。付ける人がいないから」
そもそも必要もない。だって、魔王を倒したら消えるだけだから。何故か僕はまだここにいるけれど。
「じゃあ、なんて呼べばいいの?」
「……知らない」
そう言うと、彼はうろたえた。「え、どうしよう?」と呟いているのが聞こえる。
「名前……ラニア、はどうかな」
「……僕の名前?」
「……! そう!」
ラニア、どっかの言葉で光。知っててつけたかどうかは知らないけど、僕には過ぎた名前な気がする。
でも、初めてもらった名前だ。
「これからはラニアって名乗ることにするよ」
そう言うと、リドはなんだか呆然としていた。
「どうかした?」
「っ!いや、ううん、気にしないで。それよりラニアは、何歳?今まで何をしていたの?」
「ちなみに俺は16歳。あ、言いたくないなら言わなくていいよ」とリドは言った。
「17歳。前は……化け物を倒した、だけ。2ヶ月くらい前に。それ以外は……ずっとぼうっとしてた」
魔王の存在は知られてはいけない。だから、ただ化け物とだけ言った。
「僕も化け物なのに。なんで消えないのかな」
人間じゃない。魔物でもない。思念の集合体でもない。人の形のよくわからない存在。何もしなくても勝手に育って。何もしなくても知識がある。魔王を倒したらただ消えるだけの存在なのに。
「化け物?」
「化け物」
なんとなく自分のことを話す気にはなれない。
そういえば、初めての会話の割にはしっかりと話せている。これもきっとおかしいのだろう。
リドは困惑したようにこちらを見て、しばらく黙り込んだ。