人間
……人間の足音が聞こえる。
狼はうじが湧き始めた時点で土に埋めた。それから、なんとなくさまよい歩いた。
森が切れて道が見える。人が作った、土が踏み固められただけの簡単な道。
ボロボロになった自分の服と、遠くに見える人々の服が明らかに違って、何故か胸が苦しい。
森から出ないように道に沿って歩いていくと、そこそこ立派な壁のある街が見えてきた。
……門番がいる。身分証も何も無い、血みどろでボロボロの服を着ているくせに傷一つない僕が、街の中に入れるのだろうか?
ふと気配を感じて、そちらの方を見る。
自分より少しだけ年下に見える男が、しゃがみ込んで何かを探していた。周りに危険な気配がないとはいえ、不用心だ。
短剣を腰に佩き、人の頭くらいの籠を2つ持っている。
何を探しているのか気になって近づいてみた。横からそっと覗き込むと薬草が生えているのが見えた。
「うわっ!?」
しばらく経って、焦げ茶の髪の男はようやく僕のことを認識したようだった。
さっと僕の姿を見る。
「だ、大丈夫!?」
「……」
僕は何を言われたのだろうか。心配された?
心配される、という初めての状況に理解が追いつかないでいると、焦げ茶の男は僕の腕を引っ張った。
灰緑色の瞳が正面から僕の顔を覗き込む。人懐こそうな顔だった。
「と、とりあえず、街に行くか?」
ぼくは戸惑いながら頷いた。