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ペルロ草の採取1

 サリーのおかげで魔法が使えるようになったから、父親のルタスにイグニッションを披露したら「これで面倒な着火もまかせられるな」との一言で終わってしまった。


 そういうことだぞ。


 表面上でも良いから、子供の成長を祝うぐらいしろよ。


 ま、過剰に褒められても微妙な空気になりそうだし、俺たちはこのぐらいの距離感が良いのかもしれない。


 父子家庭ってどこもこんな感じなのかな? なんて思っていたら、翌日には大量の荷物を背負ってどこかに行ってしまった。魔法が使えるなら家事もできるだろうと判断されたらしく、長期の旅に出るとのことだ。


 前言撤回。


 絶対に普通の父子家庭じゃない。


 生後……十歳未満なのに一人でお留守番だ。


 文句を言っても何も変わらないので、ちゃんと大人しく家で過ごすけどな。転生者だったことを感謝しろよ!


 日中は本を読み、飽きたらエーテル純水や回復ポーションを錬成する日々を過ごすことにした。食事は倉庫にあるパンやサラダに使う葉野菜、干し肉を使って簡単な料理を作る。味は二の次でお腹に溜まれば良い。


 そういった一日を数回繰り返した朝、ドアが叩かれる音で目が覚めた。


 眠い目をこすりながらベッドから降りて玄関へ向かう。


「ルーベルト君いますか」


 これはサリーの声だ。


 回復ポーションの納品日はまだ先なので、魔法談義でもしに来たんだろう。暇だったので助かる。


「いるよ」


 返事をしながらドアを開けるとチェニックを着たサリーが立っていた。本人よりも大きなカゴを背負っている。


 出会ったときのような恥ずかしがる姿はない。何度か魔法について話す機会があったので慣れてくれたのだろう。


 正直なところ育児放棄気味の父親とばかり接していたので、可愛い少女とお近づきになれて嬉しい。そろそろ友達と言っても良いんじゃないかなと思っている。サリーの気持ちも確認してみたいが、否定されたら立ち直れないので言わないでおく。知らなくてよいことって、世の中には沢山あるのだ。


「薬草の採取に行かない?」


 そういえば約束してたな。魔法の衝撃が強くて忘れてたよ。


「うん。行く。持っていくものある?」

「薬草を入れるものぐらいかな」

「わかった」


 部屋に戻ると父親の持ち物を漁る。ポーションを入れるためバッグがあったので、これを使おう。


 肩にかけて急いで外に出る。


「お待たせ。待った?」

「ううん。大丈夫だよ。何か欲しい薬草ある?」

「薬草じゃないけど、ペルロ草は手に入れたいな」


 ゴーレムコアへ流し込む液体に使う素材だ。これが手に入れば試作品作りができる。


「珍しいものが欲しいんだね。薬効があるわけじゃないし、錬金術に使うの?」

「うん」

「そっかぁ。だったら欲しいよねぇ」


 考え込むような仕草をしていたサリーだったが、思い出したようにハッとした顔になる。


「ちょっと離れた洞窟の奥にあるんだけど行ってみる?」


 肯定しようとしたけど思い止まった。大きなカゴをもっていることから、今日中に採取したいものはあるはず。俺は急いでないし、まずは彼女の用事を優先してあげよう。


「サリーの採取が終わった後で時間があれば」

「私が狙っているのはグリーンボルド草だから洞窟にも生えているよ。行きたいところは同じだね」


 えへへ、とちょっと変わった笑みを浮かべていた。


 最初は取っつきにくかったのだが、心を開いた後は人懐っこい。むやみに人を信じてしまうタイプのように感じて、将来悪い男に欺されないか心配になってしまう。守ってあげたいタイプだ。


「それじゃ洞窟に行こうか」

「うん。行こう」


 手を伸ばされたので握ると、そのまま歩き出した。


 お互いの指が絡み合う恋人つなぎというヤツだ。


 家の周囲に張られた結界を出ても動物に襲われることはなかった。兎といった小動物は見かけるが肉食系はいない。この世界には魔物と呼ばれる危険な生物もいるのだが、どうやら近くにはいないらしい。もしかしたらエルフの森全体で見ても少ないのかもな。


 警戒しているのも馬鹿らしくなり、ピクニック気分で歩いているとサリーが話しかけてきた。


「実はね……施設の人から人間と仲良くするのは止めた方が良いって言われているんだ。でも、私と仲良くしてくるのってルーベルトだけだから無視しちゃった」


 この事実を俺に言う意味はあるのか? と一瞬感じたがすぐに考えを改める。


 反対されても会おうと決めるほど、あなたのことを思っているんですよ、って伝えたいんだろう。これは間違いなくサリーも友達だと思っていてくれているはずだ。二度目の人生でようやく友達ができ、飛び跳ねたくなるほど嬉しくなる。


「バレたら怒られるんじゃないか?」

「ううん。それは大丈夫。他種族と関わっても無視されるだけだから今とあまり変わらないよ」

「そっか……」


 転生してから出会った人は父親とサリー、あとは回復ポーションを取りに来たエルフだけだ。この世界の常識なんて全く知らない自信はある。エルフの文化となればなおさらだ。


 だが、そんな常識知らずでも、少女とも呼べないぐらい小さな女の子に、こんなことを言わせる社会は間違っていると断言できる。


 孤独とは耐えがたいものだ。


 病弱で友達がいなかった俺にはよくわかる。


「だったら俺と一緒に遊ぼう」

「え?」

「他のエルフに無視されたぶん、俺が沢山しゃべってるよ。寂しくならないぐらいにさ」

「なにそれ」


 変なことを言ったと思われて笑われてしまった。


「ルーベルト君は優しいんだね」


 それは少し違う。友達になって欲しいから親切にしているだけだ。他人を思いやっているのではなく、自分勝手に振る舞っているだけ。それを好意的に受け止めてしまうほど、サリーの立場は良くないのだろう。


 エルフとは謎の生き物だ。どうして人間に冷たい態度を取る決まりでもあるのだろうか。


 もしそうなら、どうして俺の親父はエルフの森に住めたんだ?


 この世界に生まれて数年は経ったのに、身近なことすら何も分からない。これは異常だ。すごく今さらな気もするが、ようやく気づけた。


 俺はもっと周囲に興味を持った方が良いのかもしれない。

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