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錬金術との出会い1

 強制下半身露出プレイから結構な時間が経ったと思う。


 曖昧な表現なのには理由がある。


 カレンダーや時計がなく、出会った人間も子育てに不向きな父親だけ。しかも無口ときた。さらにテレビやスマホといった情報を得る手段もないので、正確な日付が分からないのだ。


 赤子なんて一日に何度も覚醒と睡眠を繰り返す生き物である。自意識を持ってからの経過日数を数えるにも限界があって、五日ぐらいで諦めてしまった。


 時間感覚は曖昧で何歳かも分からない。


 最低でも一年以上は経っていると思うのだが……。



 * * *



 寝床と言うには恥ずかしい壺の中で横になっているのだが、最近は心が安らぐようになった。


 順応しすぎだろ。俺。


 さらに最近になって気づいたのだが、壺の中にいると体の中が熱くなるような感覚があり、全身に力がみなぎってくる。


 ここは特別な場所で、元気になるような効果があるのかもしれない。もしそうなら父親の評価……だとちょっと上から過ぎるか。印象を改めなければいけない。


「今日も生きているか?」


 朝になったようで、上から父親が覗き込んできた。


 不思議なことに毎日聞いてると、この挨拶もありだなと感じてしまうから面白い。


 最近では食事を忘れることはなくなり、頻繁に様子を見に来て熱がないかなど確認するようになってきた。おむつだってちゃんと変えてくれる。生まれたばかりの時より興味を持ってくれており、最低限の愛情もしくは愛着みたいなを感じられた。あの男も父親として成長しているのだろう。


 いつものように壺から出されると、二本の足で床の上に立つ。


 ようやく体が発達して歩けるようになったのだ。また単語であれば発声できるまでになっていて、最低限のコミュニケーションは取れるようになっている。


 父親の名前も聞いており、ルタスだというのは判明してる。ついでに母親についても確認してみたのだが、いないと一言だけで終わってしまう。


 死に別れたか、それとも浮気でもされて別れたのか。


 どちらにしろ触れて欲しくない思い出となっているのだろう。気づかいできる俺は二度と聞かない。


「今日から俺が何をしているのか教えてやる」

「良いの?」


 今まで仕事を教えてと言っても無視されていたので、思わず聞き返してしまった。


 嫌な顔をされるかなと思ったけどルタスは気にしていないみたいだ。


「俺の想像を超えて成長しているからな。お前――」


 言いかけて口が止まった。


 眉間にシワを寄せて何に悩んでいるんだ。


 まさか、やっぱり教えるの止めるとか言い出すんじゃないだろうか。こっちはスマホがなく、夜は壺の中に入れられて身動きが取れず暇しているんだ。


 たいした仕事じゃなくてもいいから教えてくれ。


 新しい刺激をくれよ。


「アドル……いや、ローザは女か……ルート……ルーブ……ルーベルト。うむ、これにするか」

「何が?」

「お前の名前だよ」


 まさか……今、決めたのか……?


 ダメ親父だとわかっていたが、子供が話せるようになるまで名前すら考えてなかったとは思わなかったぞ。


 非難でもしてやろうと思ったが、少しだけ考え直す。


 俺は日本での常識に引っ張られすぎているんじゃないか?


 子供の死亡率が高い場所だと、生まれてすぐ名付けはしないと聞いたことがある。やや遅いとは感じるが、この地域では普通なのかもしれない。


 不興を買っても立場が悪くなるだけだ。勝手に決めつけるのは止めておこう。


「わかった。俺はルーベルト」

「俺、か。生意気に育ちそうだな」


 機嫌悪そうに言うと、作業台の近くにある椅子へ座った。


 足を組み、睨みつけるようにしてこちらを見る。


「俺は錬金術師としてエルフから指定された物を作り、納めて生活している」


 最初から爆弾発言が出てきたぞ。


 薄々感じていたことではあるが、ルタスの頭が正常で先ほどの言葉が正しいのであれば、俺が転生したのは地球ではなく別の世界となる。


「エルフ?」

「そうか、それもしらんのか」


 落胆したようには見えない。


 単純に教えるのを忘れていた、なんて思ってそうだ。


「耳は長く魔法が得意で、とてつもなく寿命の長い人間とでも思っておけ。他にも色々あるがそれは後で教えてやる。それよりも錬金術について話すぞ」


 興奮している自分がいる。


 ここがファンタジー世界であれば、地球にあった錬金術とは全く違うはずだ。スキルを使って簡単に調合できる可能性もあるぞ。もし俺にそう言った才能があれば、普通に生きていくことぐらいはできるだろう。


 運が良ければホムンクルスのような疑似生物を作り出せるかもしれない。もし完成したら友達一号と名付けよう。


 期待に胸が膨らんで破裂しそうだ。


「錬金術とは、二つ以上の物質を混ぜて別の物質を作ることだ。例えば俺がエルフのために作っている回復ポーション。これは、ブルーボルド草とエーテル純水を合成して作っている」


 無知な子供相手に専門用語をポンポン出さないで欲しい。コミュニケーションが苦手な専門家の悪いクセだ。


 一部は意味が分からず、理解が追いつかなくて困ってしまった。


「回復ポーション? ブルーボルド草? エーテル? 純水?」


 長い文章は言いにくいので単語だけで聞いてみる。


「そうだったな。何も教えてなかったんだ。くそ……どこから説明すれば良いか悩むな」


 頭をかきむしって悩んでいる。不器用な男だ。


 前世を含めても相手の方が年上ではあるのだが、なんだか可愛いと思ってしまった。


 人生をかけて何かを残すために生きているように感じる。職人っぽさは嫌いじゃない。


「よし、やりながら説明しよう。こっちに付いてこい」


 立ち上がると父親は倉庫の方へ入っていた。


 ドアは開きっぱなしだ。これなら背の低い俺でも行ける。


 何をするのか気になったので後を付いていくと、壁一面に並んでいる棚があった。草、獣、血、といった臭いが混ざり合ってあまり気分は良くない。相変わらず物が多くどこに何を保管しているのか俺には分からないが、ルタスはすべて把握して居るみたいだ。無許可で掃除してしまったら怒り出しそうだな。


 天上には電気ランタンみたいなものがぶら下がって周囲を照らしている。意外と明るい。


 父親は棚の中段部分にある草を取ると、しゃがんで俺に見せてくれる。


「これが薬草として有名なブルーボルド草だ。乾燥させているので、くすんだ青色になっているが、新鮮な状態だと透き通るような綺麗な青色になっているんだ。気が向いたら見せてやる」


 椅子に座っているときとは違って父親は楽しそうだ。しかも丁寧に説明してくれている。


 やはり俺のイメージは間違ってない。


 口下手の職人気質、子育ての常識が欠如している男なのだ。


 戸惑うことも結構あったが、俺たちは時間をかけて相互理解を進めている。こうやって相手のことを詳しく知っていくと仲良くなれそうな気がしてきた。きっとルタスも同じことを思っていることだろう。


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