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008 きみはなぜ学園で落ちこぼれている?

「きみはなぜ学園で落ちこぼれている?」


 窓の横に立ったままそうたずねてきた花蓮が、何となく困った表情をしているようだとワタルは思った。ワタルと目が合うと、花蓮はすぐにそっぽを向く。


 場所は生徒会室。


 花蓮とワタルの他にサラがいる。


 朝のホームルームが始まる少し前に、ワタルとサラのクラスに生徒会長からの使いの生徒が現れて、生徒会長が会いたがっている旨を伝えられた。


 生徒会長とは花蓮の事だ。


 花蓮を捜そうとする前に、花蓮の方から接触してきたので、ワタルもサラも承諾して、現在生徒会室に三人がいるのだった。


「とても、私の使い魔を倒したヤツとは思えない」


 花蓮は溜息をつきそうな口調だった。何故か視線が合わない。


「たしかにそう!。あたしも不思議なんだ、あなた学園では手を抜いているの?」


 横に座っているサラが何故か不機嫌そうにそう言っう。そして、


 何故か体を近づけてくる。すると、


 何故か花蓮から黒い凶器が発する様な視線を感じた。


「五教科は、ほぼ全滅。美術、音楽もまるでダメ。良いのって体育だけじゃない。でも抜群ってわけでもないわよね。しかも魔道系の座学も実技もまったくダメダメだし………」


 何故かサラのワタルに対する接し方が厳しい。喋っている内容もそうだが、口調も攻撃敵だった。


「しかたがないだろう、まだ知らない事ばかりなんだから」


「そんなのみんなも一緒じゃない。あーあ、こんなのを下僕にしたんだと思うと頭が痛いわ」


 いかにもという感じで頭に手を当てて、天井を見上げるサラに、


「そ、そんなにイヤなら、かわりにそのう、私がワタルを預かってもいい」


 やや顔を上気させて朱くして花蓮がそう言うとサラが肩に抱きついてきた。


「ダメ、あげない」


「な、何をしているのだ。離れなさい」


 もの凄い勢いで花蓮が近づいて来てサラを突き飛ばそうとする。ビックリして止めようとしたが、その前に、サラがフワリと後ろに跳んだ。


 すると何故か花蓮の手が首筋に回って、肘で首を絞められてしまう。そのまま後ろに椅子毎引きずられて壁の近くまで移動する。


 苦しい。


 耳元に花蓮の顔があった。


 顔を見ようとすると頬に湿っぽい柔らかい感触が当たった。


 花蓮の唇だった。


「あ!、何してんのよ!」


 今度はサラが怒りだす。魔力を無意識に放出している為に、長い髪の毛がブワッと広がって怒鬼になっていた。


「黙りなさい。昨夜の件を正式に苦情を申し出たら、きっとしばらく双葉重工は魔石に関する全ての入札をしばらく停止させる事ができるのよ。そうしてほしいのか?」


「ひ、卑怯よ!」


 文字通りサラは怒髪天をついたようになった。かなり怖い。


 しかし、花蓮は自分が優位である事を確信している為か、余裕があった。


「とにかく、ワタルが使い魔でないんだから双葉重工は神宮庁が取り決めた入札のルールを破った事になるんだから。魔石川商事が本気でクレームを付けたら、もしかしたら今後一切入札できなくなるかも知れないぞ」


 楽しそうに花蓮がくすくす笑う。吐息が耳にかかってくすぐったい。


「なぁ、あいつを怒らせるのが目的ではないのだろう? あいつ、怒りで目が真っ赤になってそろそろブチ切れそうだぞ」


 何故かサラが自分を睨んでいる気がするので、身の危険を感じる。


 このまま花蓮がサラを挑発し続けると絶対に自分も巻き込まれるに違いがない。だからさっさと花蓮に呼び出した目的を話すよう、催促する。


 本当なら、この場からすぐに逃げ出したかった。


「そうね。取引をしましょう。神宮庁に昨夜の事でクレームをいれない変わりに、きみは生徒会に入りなさい」


「へ?」


「………あんな事して私が平気だったと思うの? きみにはそれなりの償いをしてもらう」


 サラには聞こえないくらいの小さな声で、しかしワタルにはしっかり聞こえる声だった。


「で、でも」


「きみに腕を切断されて、下手をしたらあたしは片端になっていたかもしれないのよ。男だったら責任とりなさい」


 静かな口調だったが、ワタルは凍えるような寒さを覚えた。


「それに、あたしのファーストキスどころか、きみはあたしの体を蹂躙したのよ。あたしを傷物にして平気なの?」


「ちょっと待って! 男と女だったらエロい事をするのは当たり前じゃないか」


「………」黙る花蓮。


「………」呆れるサラ。


「あなたは、ああいう事をして、女の子が許すとでも思っているの?」


 妙に物静になったサラの感情の込もらない声でそう言った。


 サラは無表情になっている。


 ぎゅ~ぅ。


 花蓮が首を締め付けてくる。苦しい。


「ねえ、花蓮さん、あたしこんな奴は殺した方がいいと思うんだけど、どう思います?」


「私もそう思う。死んでしまえばいい」


 花蓮の声は冷たい。


 さらに首が絞まっていく。


「………す、好きな人とエロい事をするのはいけない事なのか?」


 意識を失う寸前にやっとそう呟いた。


 瞬間、


 花蓮が首を絞めている腕を放して、とても嬉しそうな顔をして抱きついてきた。もっとも無表情な花蓮だったから、花蓮にしては嬉しそうな表情をしているだけで、よく見ないといつもの表情と違いが分からない。


 サラが唖然としてその場で立ち竦み、次の瞬間プチと何かが切れた音がした。


 ワタルはサラに首根っこを掴まれて、引っ張られる。そしてそのままサラに引きずられるように生徒会室から出て行った。


「生徒会では会長補佐として優遇するから、明日からここにくる事。分かった?」


 ふわふわなして弾んだ声が生徒会室から聞こえてきたが、ワタルはそれに答える余裕がなかった。


 ワタルはサラの方を見た。


 そこにはサラはいなかった。


 サラの顔をした鬼がいた。


 「あなたはあたしの下僕と言う事を忘れているようね。………いいわ、思い出させて、あ、げ、る」


 そういってサラが微笑んできた。とてもやさしそうな目だった。まるで天使の微笑みだった。


 しかし、


 そこにいるのは鬼だった。


 ワタルは自分が何か致命的な間違いをした事が分かったが、いまさらもう遅い。自分の生殺与奪権はすでにサラに奪われている、気がした。


 木広とサラは、やっぱり血が繋がっているんだと思った。


 花蓮にサラと連続で折檻されたら、きっと死んでしまう気がした。


「サラさん、お願いです。なんでも言う事を聞くから、どうか許してください」


 ワタルはまだ死にたくないから、サラに懇願した。



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