079 魔界は地獄だった
魔界は地獄だった。
遥香が地獄に変えた。
木が、林が、森が崩れていく。
地が砕け、空が裂け闇が全てを覆い尽くそうとしている。
「魔力が薄い」
四方が呟く。
ワタルは感じる事は出来なかったが言っている事は分かった。魔界を構成している魔力が少なくなって世界が文字通り崩壊しているのだ。
「あっちに魔力が集まっている」
サラが遠くを見ながら指さす。ワタルはその方向を見たが魔力を感じる事ができないからよく分からない。しかし、その方向におそらく遥香がいるのだろう。
汚れた英雄を持って。
魔界を破壊することができる宝具。
「行くぞ」
ワタル達は走り出した。
行く先々で魔族らしき者達が倒れている。かすかに動いているので死んではいないようだが貧弱しきっている。ワタル達の世界に来れば最凶の魔族達がたくさん倒れているのだ。睡蓮やサラは顔を引きつらせて恐怖している。襲いかかられたら抵抗しても瞬殺されてしまうほど力の差があるのだ。
「こんな魔族がもしゲートを通って来たら、人類は淘汰されてしまうわね」
あまり深刻そうでない口調でサラが呟く。睡蓮は頷きながらワタルに頼りかかる。
「大丈夫か?」
睡蓮はワタルが魔界で活動する為の力を供給しているため自分はフラフラになっている。ワタルは睡蓮を抱き上げる。
「はずかしいの」
そういいながら首に腕を回してくる睡蓮。
それを横目で見ているサラは唇を噛みしめて殺気立っている。ワタルは目をそむけた。
「とう!」
空気を読まない四方が背中に飛びついてくる。重くはないが走りにくい。
「ロリコン、幼女趣味の変態」
サラの言葉が胸に突き刺さる。
このままでは遥香に会う前に力尽きそうだ。
「お兄ちゃんは幼女趣味で、ロリコンであたしみたいな娘を性欲の捌け口にあんな事やこんあ事をしようと心の中で妄想しているの?」
「四方さん、真顔でそんなこと尋ねないで下さい。軽く死にたくなります」
「でもお兄ちゃんになら何されてもいいよ」
あっ、おれは死んだな。
その言葉がサラを鬼に変えた。ワタルの目に細くできない何かが映った瞬間、ワタルは意識を失った。