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074 ワタルが部屋のドアをノックすると中からドアが開けられた



 ワタルが部屋のドアをノックすると中からドアが開けられた。


「どうぞ」


 睡蓮だった。ワタルは黙って部屋に入った。


「お姉様は本気で怒っているの。迂闊な事を言わない方がワタル様のためなの」


 横を通り過ぎる時に睡蓮がそう忠告をしてきたので、目でわかったと伝える。そのまま進んでソファに座っている花蓮の前までいって立ち止まった。


「久し振りね」


 いつもと同じで表情を見せない花蓮だった。


「遥香さんと薫君の事は大体の事は聞いているは。双葉邸のこともね。


 ねえ、だからあたしはワタル君に問うのだけれど、


 あなたはいったい何をしていたの?」


 立ち上がりこちらに近づいてくる。


 肩を掴んで顔を耳元に近づけてきた花蓮。


「ワタル君、あなたはサラを見捨てて遥香を選んだの?」


 花蓮が体を預けてきた。首の後ろに両腕が巻かれる。ワタルは花蓮の体を支えながらその場に佇み続けた。


 背後に何かが現れた。


「姉さま………」


 睡蓮の声が横から聞こえる。わずかに息を飲むような気配がした。


「ねえワタル君。もしサラ、いいえ双葉を裏切るつもりならあたしは許さなくてよ」


「おまえでは無理だ」


 ワタルはそう言って花蓮を抱き締めながら横に飛んだ。


 いままでふたりがいた場所を剣が切り裂く。


「無理かどうか確かめて見るわ」


 花蓮はそう言って横倒しになった状態のままさらに抱きついてくる。身動きできないこともないが動きにくい。


 だから再び向かってくる剣を避けるのに気をとられて、花蓮に首筋を噛まれるのを避けることができなかった。


「うっ」


 血を吸われ、力が抜けていく。


 無理矢理花蓮の体を引きはがし、壁の近くまで後退った。剣を持った使い魔、ヴェルンドが追ってくる。


「復活していたか」


 ワタルは呟いた。


「叩き切りなさい」


 ヴェルンドが剣を振りかぶって斜め上から斬りかかってくる。避けられない。


 だがこのまま殺されるつもりもない。


 ワタルはしゃがみ込んでヴェルンドに向かっていきながら掌底を下から突き上げるように剣の柄に放った。


 剣が飛んだ。


 天井に突き刺さる。ワタルは勢いを殺さずにそのまま掌底でヴェルンドの顎を打撃した。


 ヴェルンドの体が宙に浮く。回し蹴りするとヴェルンドの体が吹き飛んだ。


「花蓮、もしおれを倒したいのであれば本気をだせ」


 首筋を摩りながらそう言った。手に血が付着したのを見て軽く舌打ちする。かなり力を持って行かれてしまったようだ。


「本気をだせ? よいでしょう」


 花蓮の雰囲気が変わる。


「ねえさま」


「睡蓮よ、ヴェルンドとともに下がって見てなさい」


 花蓮はそういうとワタルに向かって片手を上げた。


「後悔させてあげる」


 腕が伸びる。指が伸びる。


 ツタのように変化した遥香の片手を見てワタルは腹の中で微笑んだ。そしてそれを避けるためにジャンプした。


「ほう、たいした物だな」


 天井近くまで飛んだ事に対して花蓮がそう呟いた。


「それなりに運動神経には自身がある」


 二メートル以上の垂直跳びをしたワタルは、右手に力を入れる。それは天井に刺さった魔剣ミームングだった。魔剣とは言っても魔力を感じないワタルにはただの剣にすぎないが武器は武器だ。


 花蓮の腕を剣で斬りつける。


 が、遥香の腕は幻影のように消えてしまう。


「ワタルよ、初めましてだ。我はヤドリギという」


「ああ、オレはワタル。ヤドリギの事は鬼姫から聞いている。ゲート以外からこちらに召喚された数少ない魔族ということだったが、間違いないか?」


「ああ、間違いない。そしてさらばだ」


 花蓮と入れ替わったヤドリギの体が脹れあがり、数十本のツタが襲ってきた。ワタルは剣で何度か撃ち防いだが、剣をたたき落とされて、そのまま体を束縛されてしまう。


「半分以上防ぐとは、とても人間とは思えん」


 ヤドリギが呆れたように呟くのを聞きながら、ワタルは体を束縛してくるツタを両手で握りしめた。そして顔を突き刺すように伸びてきたツタを掴んだそれで防ぐ。その衝撃を利用して束縛から逃れてヤドリギに向かって走った。


 ツタが腕と足に向かってくる。


 避ける余裕はないから、そのまま突き刺される。だが勢いは止めない。


 真横から太いツタがくる。


 あと半歩。


 もう大丈夫だ。


 ツタに横から体を串刺しにされた。しかしヤドリギの事を捉えることができた。


「おれに従え」


 そう言っった途端、ワタルは吐血した。それをヤドリギが浴びる。ヤドリギが僅かに苦痛で表情をしかめさせた。


 ワタルはヤドリギの両肩を掴んで引き寄せて、口づけした。ヤドリギの舌を嬲ると舌がツタかして喉の奥を突き刺された。


 ………これでいい。


 今、ワタルとヤドリギの体はある意味一体化している。そしてヤドリギに自分のエネルギーをつぎ込んで霊的にも一体化する。


 そうしながら花蓮とヤドリギの癒着している箇所を探し出す。


 ………見つけた。


 ワタルは癒着部分をかるく引き離した。


「何を、した」


 切り離された花蓮が信じられない表情をする。


 ヤドリギだけを束縛しながらワタルは立ち上がった。


「悪いな、ヤドリギはオレと一緒に魔界に行ってもらう」


 混沌となるのをギリギリで防ぐ。あまり交わって一体化してしまうと後で離れられなくなってしまう。


 なんとかヤドリギを支配する事ができるとワタルは花蓮、睡蓮そしてヴェルンドを見た。


「サラの事はオレのせいだ。だけど遥香の事は放っておけない。遥香を魔界から連れて帰った後ならオレのことは好きにしてかまわないから、今は見逃してくれ」


「ヤドリギをあたしから奪うのが目的だったの?」


「ああ、普通は召喚された魔族が一緒じゃないと魔界に行くことはできないようだから、悪いと思ったがそうさせてもらった」


「戻ってこれるの?」


「睡蓮は心配してくれるの?」


「いちおう心配なの。その傷で魔界になんていったらすぐに死んでしまうの」


 ………無表情で言われても、分からないよ。


 ワタルは苦笑した。


「大丈夫だ。オレは強い」




 脇腹に開いた穴を押さえながら、強がったワタルだったが。結局その後、その場で気絶して花蓮と睡蓮を慌てさせ、ヴェルンドを呆れさせた。


「格好つけ過ぎだ」



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