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068 世界に悪は存在しない

すみません。もしかしたら無かったことにするかもしれません。


 世界に悪は存在しない。ただ自分と価値観が異なるだけ。自分と異なるモノを悪と呼んでいるだけ。それは自分を間違っているとおもっていないだけ。だから自分は正義、だから自分と異なるモノは悪と皆が思っているだけ。


 そして、「仕方ない」というあきらめ。自分が誰かに迷惑をかけていても、「自分もやられた」「そうしないともっと誰かが傷付くから」「今は恨まれるが、いつか自分がただし事がわかる」、だから仕方ない。そう思っているだけ。


 他人を傷付けることに少しでも正論があればそれを寄り所にして自分を納得させてしまう。


 それが人間だった。


 漫画やドラマにあるように自分よりも他人を思いやることができないのが人間だった。傍目から他人を思いやっているように見える人間も、実のところそう見えるだけで実際には自分を傷付けていない。


 いや、もしかしたら傷付けているかもしれない。


 しかし、他人を思いやらない方がもっと自分が傷付く場合であることが大半だろう。だから自分の子供や親友それに知人に何かあると多少自分が傷付いても何かしてあげようとする。自分が傷付かない範囲であれば皆、協力的だ。


 金銭の援助が分かりやすい。


 自分が傷付かない範囲での援助をすれば、その行為によって自分を癒すことができるから、人はそのくらいの事はする。


 義援金。


 くそくらえだ。


 人は自分中心の生き物だ。


 それがケモノから進化した人間の限界だ。


「むかつく」


 ワタルは気分が悪くなった。


 開いていた携帯をヒンジ部分でふたつに折り裂いてその場に叩き付ける。拳を握りしめたら指の骨が折れそうだったから開いたまま力を込める。


『遥香にサラがさらわれた』


 木広からそう連絡があって、急いで戻ったワタルの前には半壊した双葉邸があった。否、今にも全壊しそうだった。


 炎が双葉邸を包み込んでいく。爆発。


 周りに十分な広さの庭園に囲まれているため他に燃え広がる危険が無いのは幸いだったかもしれない。


 近くで呆然としている木広の姿は炎で、


 赤く


 紅く


 朱く


 まるで燃えているようだった。


 泣いていた。


 感情を表情に滅多に表さない木広がぼろぼろ涙を流していた。


 むかつく。


 遥香に対して?


 否。


 ワタルは人間に腹が立った。


 なぜ遥香はこんな事をしたのだろうか。


 サラをさらうために、双葉邸を燃やす。遥香にとってはそれは別に大した事ではなかったのだろう。もうすぐ手放さないといけない状態に双葉重工が追い詰められている事ももしかしたら知っていたのかもしれない。


 だから自分の目的のために考えずにやったに違いがない。


 しかし………。


 木広とサラにとって、この家は死んでしまった両親の思い出が詰まっている場所だ。木広がこの家をどれほど大事にしていたのか遥香は知らない。


 知らないから………。


 もしかしたら知っていても同じ事をしたかも知れない。それが人間だ。自分の事を正当化すれば何でもする。そして自分にとって痛みがないことであればなおさらだ。自分と他人の価値観が違うこと。人によって大切にしているものは違っている事。


 知識としては知ってるが実際に自分の主義、主張、価値観と違っている場合には考慮する事は殆どない。


 遥香が背負っている四方という存在と比べたら、遥香から見れば双葉邸を燃やすことは大した事ではないのかも知れない。実際に。大した事ではないのだろう。


 木広以外の人間にとっては。


 しかし木広にとってはこの家は何よりも大切な存在だったのだ。それがどれほどのものなのかワタルにも想像するしかできなかったが、木広とそれなりに付き合っていたワタルには充分想像する事ができた。


 だから、


 ワタルはさっきから気分が悪いのだ。


 自分は所詮他人でしかない。それでも想像できる。そして想像するだけで気分が悪くなっている。だったら木広はどう感じているのだろうか。


 書ける言葉がない。


 ワタルは木広がどう思っているのか想像する事はできるが感じる事はできない。感じた気になってもそれはそう思うことしかできない。木広がどう感じるのかは木広しか分からない。


 人間というケモノから進化した生き物。


 傷付け合うことを平気でする生き物。


 遥香が悪なのではない。


 遥香が人間であること自体に問題がある。人間は弱くて残酷な生き物だ。自分さえ良ければ、自分の価値観、やろうとしていることに少しでも正義があれば他人を犠牲にする事ができる生き物。


 ワタルは怒りと共に、そんな人間の持つ残忍さに吐きそうになる。


 人間に対する恐怖。


 個々の優しさとのギャップ。


 ひとりひとりは優しい人間がなぜ交わると他人を傷付けてしまうのか? 文明を築ける文化レベルをもっているのに何故これほどまでに他人よりも自分を優先してしまうのか、ワタルには分からない。


 だから、ワタルはその答えを捜さないといけない。


 人間の本性とはいったいなんなのか。


 そして遥香とは対決しないといけない。他人に与えた痛みを自分自身で感じてもらわないといけない。


 ワタルは強制的にラボに思念を繋げて、自動修復の優先順位を組み替えていった。



うーん、ちょっと次ぎに繋げるためにしょうがなかったんです。ここから起承転結の転なのでもう少しおつきあいを。これから転々と転がっていく予定です。

(コメディな筈なのに………)

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