065 双葉の邸で眠っていたワタルは、一週間後に目を覚ました
双葉の邸で眠っていたワタルは、一週間後に目を覚ました。
ワタルはゆっくりと目を開くと、ベットの端にうつ伏せで眠っているサラがいた。見るとワタルの手をしっかりと握っている。
「ワタルお兄ちゃん、起きたの?」
足元から声がした。ベットの端で丸くなったまま頭も持ち上げたタマがいた。
「………双葉の邸か」
遥香にやられた時の記憶を思い出した。あの時は自分の力を使いすぎていた事もありみっともない姿を見せてしまった。
「一週間も寝てたよ」
確認するとタマがそう答えた。
一度目を閉じて自分の体をスキャンする。
これなら大丈夫だ。ほぼ復活している。遥香に妙な事をされた時にワタルはエンストしてしまったけれど、一週間も寝ていたら、さすがに充電完了状態になっている。
上半身を起こしてから、サラに掴まれている手をどうしようか考える。
とりあえず握り替えしてみた。
ニギ。
ニギニギ。
無意識に握り替えしてくるのが面白くて何度か遊んでいるとサラの体から覚醒する気配を感じた。もうすぐ目覚めそうだった。
「………ワタル」
サラに両肩をわしづかみにされて、覆いかぶさられた。せっかく上半身を起こしたのにまたベットに寝かされてしまう。
「もう大丈夫なの?」
「ああ大丈夫だ。心配かけたならあやまる」
「別にワタルの事なんて、全然心配なんかしてないわ」
「ワタルお兄ちゃん、今のはツンデレのツンだよ」
サラがタマを睨む。タマはベットからずり落ちて隠れた。
「馬鹿な事言わないで。死にたい?」
「いーだ。もうサラなんか怖くないもんね。うぎゃー」
サラが投げつけたナイフをギリギリで避けるとタマはワタルをはさんでサラいる反対側に逃げ出す。
「お、お兄ちゃん、い、今の本気だった。避けなかったらアウトだったよ」
「避けられたんだからいいじゃない」
「お前が言うか」
ワタルはサラに突っ込んだ。
「そんなことより、状況を簡単に説明するわね」
◇◇◇
サラからこの三日間で遥香が何をしたのか聞くとワタルは顔をしかめた。
「あのバカが、そんなことしなくても。それに聖痕の呪い? これがあると魔力保持者と触れ合えない? でもオレはおまえと手を握ってるじゃないか」
「ワタルお兄ちゃん、サラは無理しているのよ」
「そうなのか?」
まだ繋がっている手を見て尋ねる。そう言われるとサラの顔色は何となく熱っぽく上気していた。
「そんなことはない」
じっとサラを凝視する。
「な、何よ」
サラがきょどる。
「本当に大丈夫なのか?」
「………、これくらい我慢できるわよ」
「それって無理してるってことじゃん」
「うー、放っといて」
サラが顔を真っ赤にしてうつむく。
「デレだよ。ところでふたりともいつまで手を繋いでいるの」
サラと目があった。
慌てて手を離そうとするサラをワタルは引き寄せる。そして抱き締めた。
「双葉重工の事も何とかするから木広に出来る限り粘ってほしいと伝えて欲しい」
「え?」
サラが驚く。
「その代わり。お願いがある」
「な、なによ。あたしがして上げる事なら何でもしてあげてもいいわよ」
「遥香を許してやってほしい」
ピキッ。
サラから変な音が聞こえた。
今まで握られていた手が振りほどかれる。
「サ、サラさん?」
「ワタルお兄ちゃん、それは死亡フラグだよ。私、ワタルお兄ちゃんが目を覚ましたこと木広に知らせてくるね」
「あ、ちょっと待って。おれも一緒にいく」
タマの腕を掴もうとした手を、サラに掴まれた。その隙にタマが部屋から出て行く。
「ねえ、遥香の事がそんなに大事なの? ちょっと話しを聞かせてもらおうかしら」
冷たく無表情になったサラの方を見てワタルは恐怖した。
結局、ワタルはあと一日ベッドで過ごす事になった。




