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063 睡蓮はすっかり息が上がっていた


 睡蓮はすっかり息が上がっていた。膝と両手を地につけて呼吸を荒げている。一方の木広は涼しい顔でその場に平然と立ち、あたりを警戒していた。


 睡蓮はその場に仰向けに寝転ぶ。背中に地面の土草の冷たい感触を感じてとても気持ちいい。服は汚れるけれど。


「なんで私にばかり魔族は襲ってくるの? 不公平なの」


 木広と睡蓮はやっとの思いで大岳山にある大岳神社の近くまでたどり着いた。封印された鉄柵を越えて魔族のかっ歩している地帯に立ち入ってから何度も魔族と遭遇した。その度に睡蓮ばかり襲われた。


 魔族はこちらを見つけると、睡蓮と木広を見比べて、何故か必ず睡蓮の方に近づいてくるのだ。その度に睡蓮は必死で逃げ回った。


 その間、木広はこちらを眺めてるだけで助けてくれようとはしない。何となく楽しそうな目をしていた。


「私は鬼族と契約しているから低俗魔族は自然と避けてくれるのよ」


「あたしだって魔族と契約していの」


「でもあれは強い弱い以前の問題だ」


 確かにアクアスネイクは人型をしていないけれど、納得できない。


「魔族達にはあれはエサなのでは? ヘビだし」


「ひどいの」


 睡蓮の抗議は無視され、木広はこちらに軽く手を上げて神社の方を見る。ようやく息も整ったので近づいていき同じ方向を見た。


 まだ遥香はいない。


 神社と言っても小さな祠だった。屋根が崩れて半壊している。その横にゲートがあった。地上に出現しているゲートは珍しい。そのおかげでここまで近づけた。時折そのゲートを使って現れる魔族のほとんどはその場で四散して、その度に周りの魔力の濃度は濃くなっていく。


 開けている地上だから魔力は堆積しないから魔力酔いに耐えられた。ゲートが地下にあったら魔力は散らないから睡蓮は近づくことはできなかっただろう。


「遥香はどうやってここまで来るんでしょう?」


「知らないわ。本人にきいてみてよ」


 木広は前方から目を話さないでそう言った。


 ここから大岳神社は百メートル程度離れている。正面を見れるので遥香が来ればすぐに分かる。


「死神だから会った魔族全て斬ってくるんじゃないかな」


「遥香ならやりそうなの。ところで木広はここはゲートが地上にあると知っていたの?」


「いや、知らなかった」


「そうなの」


 では睡蓮も知らないのだろうか?


 いや、おそらく知っているはずだ、もし地下にあるゲートなら近づくことさえできないことは遥香も知っているはず。封印しようとしたら地上にあるゲート以外不可能だった。


 では遥香はどうやってその情報を得たのだろうか?


「やな予感しますの」


 そうつぶやいた時、ゲートの前に遥香が現れた。


 両手に大鎌を一本ずつ持っている。あれでは一振りしたら次の攻撃にうつれない。


 どういうつもりなのか?


 大振りの武器をふたつ持つ意味を睡蓮は理解できなかった。


「いくぞ」


 木広はそう言って遥香に近づいていった。


「やっぱり」


 遥香の唇がそう動いたと思った途端、睡蓮は木広の後に続いた。


 ゆっくりと遥香はその場で回り出す。


 ブン。


 大鎌の刃によって空気の切り裂かれる音がする。遥香の回転は徐々に上がっていった。


 ブン。


 ブン。


「木広!」


 睡蓮は突然、何者かに真横から蹴り飛ばされた。


 とっさに腕で庇うこともできず、脇腹をまともに蹴られた。


 数メートル宙を舞いながら相手の顔を見た。


 一番会いたくないヤツがいた。


 ゲボ。


 あばらが半分以上逝ってしまったようだ。内蔵を傷付けたのか睡蓮は血を吐いた。


 その場から立ち上がろうとしたけれどうまくいかなかった。近づいてくる男を地に伏せたまま睨んだ。


「ずいぶんひさしぶりですね。前にあった時に比べてますます綺麗ですよ」


「うるさいの」


 睡蓮はアクアスネイクを出現させて突いた。しかし男はひょいと簡単に避けてしまう。アクアスネイクを掴まれた。


「まだこんな無粋なものを飼っているんですか? 睡蓮には似合いませんよ」


 無造作にアクアスネイクを握りつぶされた。音にならない悲鳴を睡蓮は聞いた。


「やめろ」


「もう遅いです。ほら」


 男が手を離すと、アクアスネイクは姿を消して、小さな魔石に変わってしまった。睡蓮は唖然として、一瞬動きを止めた。こんなあっさりやられるとは思っていなかった。


 男がアクアスネイクの魔石に手を伸ばそうとした時に睡蓮は必死で魔石を掴んた。


「渡さないの」


「まあ、いいでしょう」


 男は魔石に未練は無いらしく、そのまま睡蓮を見つめた。


「その様子だと復活するのにしばらくかかりますね。それは僥倖です。しばらくそこで大人しくしていてください」


 そう言って男は木広の方に歩いて行く。


「ふざけた事をいわないでなの」


 睡蓮は怒って何とか立ち上がった。手に持ったアクアスネイクの魔石をじっと見つめる。五年以上一緒にいた使い魔だった。なのにあっさりこんな姿になってしまった。


「許せないの」


 睡蓮は男を許せなかった。


「そして許してなの」


 魔石に向かって謝った。


 そして睡蓮は魔石を男に向かって投げつけた。


「全てを切り裂くの」


 空中で水に変わり、そのまま剣となった魔石は自ら加速して男の背中に向かっていった。


「桜ヶ丘薫。ここで死ぬの」



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