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061 木広はひさしぶりに本気で怒っていた



 木広は久し振りに本気で怒っていた。


 双葉重工が倒産しそうなことにではない。


 サラのことだ。


 もちろんサラに対して怒っている分けではない。サラは愛してやまない妹だ。本気で怒るわけない。


 遥香に対して怒っていた。


 許せなかった。


 そしてそれを間接的に利用している教会も許せなかった。


 実はサラは妹溺愛シンドロームだった。その自覚のある木広は密かに医者にかかってなんとか普段は自制していた。そんな素振りを見せないように耐えていた。


 しかし………。


「ワタルさんは、前回あれだけ言い聞かせたのにサラちゃんのことを悲しませたうえ、守っても上げられなかったから目が覚めたらきっちり死ぬくらい躾けをするとして、遥香は万死に値するわよね」


 いつの間にか木広は帰ろうと学園の廊下を歩いていた睡蓮の背後にいた。


「えっ?」


 突然、話しを振られて体をビクッとさせ振り返りそうになる睡蓮の胸を鷲掴みにする。


「………なぜいきなり胸をつかむの」


 後ろから羽交い締めにしても悲鳴を上げないので木広としては面白くない。


 まあいい。


 胸から手を離して、今度は腕を鷲掴みにして睡蓮を引きずるようにして歩き出す。


「ちょ、ちょっと、まつのなの。引っ張らないでなの」


 問答無用で睡蓮を拉致る。


「痛いの」


「ちょっと付き合いなさいよ」


 睡蓮を睨む。


「それとも廊下であたしに犯されたい?」


 耳元でそういうと睡蓮は目を丸くして驚く。すぐ顔色を青くした。


 体を硬直させている。


「分かった」


「わかったなの」


「そう、良い子ね。では行きましょう」


 睨んだ目を弛めて優しい口調でそう言った。何故か睡蓮はとても恐怖している。理由を知りたかったけれど時間が無かったので睡蓮の喉に当てていた万年筆を胸ポケットにしまう。


「どこに行くのなの?」


 睡蓮はホッとため息をしてそう尋ねてきた。


 「教会」


 と木広は答えた。


「えっ?」


 睡蓮が緊張した。


「大丈夫よ、ちょっとだけ文句を言いにいくだけだから」




 魔石川学園の敷地内には異質な建物があった。


 教会だった。


 魔石を利用する技術、理論を学ぶ学園の内部に、ずっと魔石を否定する立場の教会が存在しているのだ。


 建物だけでなく、修道服を着ている生徒もかなりいる。彼女たちは魔石の論理は学ぶが宗教上の理由から魔石に触れる事はなかった。


 学園の存在理由と相反する生徒が何故いるのか一般の生徒はあまり理解していない。それが魔石を使いものへの抑止力になると教えられている。


 シスター(別名死神)を身近に感じいれば、もしも魔石を使って犯罪を犯した場合の事を想像できて抑止力になると説明されている。魔石を使う者達が自分達を特別だと思わないようにする事もひとつの理由だった。


 しかし本当は神宮庁と外務省の覇権争いの余波でしかない。


 日本からしか得られない魔石を世界各国は狙っている。そして日本政府の魔石発掘を担当している神宮庁に対抗して、日本以外で圧倒的な勢力をもっているキリスト教は外務省と接触を図り、なるべく魔石の知識を得ようとして無理矢理学園内に教会を建てたり、シスターを学園に通わせる等をした、神宮庁をけん制しているのだ。


 魔石は今のところ日本固有のレアメタルでそれを神宮庁が独占で管理している事が外務省は面白くないのだ。


 キリスト教と神道の仲が悪かったのも災いしている。


 木広と睡蓮が教会の前に近づくにつれて、どこからともなくシスター姿の生徒が集まってくる。


 シスターの服にはキリストを身にまとうという意味があり、神の加護を得る効果がある。


 その力は魔石に深く関わっている者は不快に感じてしまう。


「ワタルさんに触れた時に感じたのと同じ物だわ」


 そうつぶやくと、木広は扉を開けるために手を当てて、思い直して蹴り開いた。


 ザワ。


 周りのシスター達の驚きと非難の視線を受けながらそのまま中に入っていく。睡蓮も引っ張って中に引き入れる。


 礼拝堂の一番前にいた板倉に近づいていく。数にいたシスターが慌てて外に走り出て行く。誰かに知らせにいったのかも知れない。


「足蹴りして入ってくるなんて感心しないわね」


 片方の眉をつり上げてサラを非難する板倉の横を通り過ぎて、中央にある十字架に近づいていく。


「こんなものを崇める建物の扉など直接触りたくなかったのよ。ごめんなさいね」


「教会を侮辱する気? いくら双葉重工と魔石川商事だからって許されなくてよ」


 板倉が立ち上がった。近づいてくる。


 その後ろにはいつの間にか騒ぎを聞きつけたシスター姿の生徒が十数人程遠巻きにしていた。


 皆、木広の行動と発言に怒っている。小声で皆が何かつぶやいているため、随分騒がしい。


「うるさい」


 木広は十字架を掴むと、一瞬顔をしかめたがそのままへし折った。


 そして逆さまにする。


「黙れ、腐れ神」


 侮蔑ぶべつを込めて叫んだ。


「木広さん、それって………」


 睡蓮の声がかすれている。


「どうしたの? 逆十字くらい知っているわよね。これちょっと持ってて」


 逆さまにした十字架を睡蓮に持たせて、木広は板倉の方に歩き出した。




………コメディでハッピーエンドな物語な筈です

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