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057 はやく来なさいよ。もし来なかったらひどいんだから



『はやく来なさいよ。もし来なかったらひどいんだから』


 メールに付いてきたGPSの位置情報を頼りに狭山湖まできたワタルは、目を細めて湖を見つめていた。ワタルの見ている間にもどんどん水位を低下させていく。いまだ安定する気配もなくこのまますべて湖水は地に沈んでしまいそうな勢いを感じた。


「サラはいったい何をやったんだ?」


 ここまで急いで来たものの、あまりの状況にサラを捜す事を失念していた。一言で言うとあきれた。


 ………帰ろうかな。


 この惨状をみるかぎり、到着するのは遅かったのだろう。


 ならここにいつまでも居る必要は無い。


 ワタルは本来だったらまだ起き上がれる程、調子は戻っていない。今は立っているだけで辛いというか、やっと立っている状態だった。


 だからサラと遥香の姿を視線の見つけた時に、そこまでたどり着けるか不安を隠せなかった。ぶっちゃけ二回ほど途中で倒れた。


「サラ?」


 その場で倒れているサラに向かって行き上半身を抱き上げる。サラの服はびしょ濡れたっだ。みると遥香も同様に髪まで濡らしている。


 ふたり仲良く潜ったようだ。


「仲は良くない」


 遥香はこちらを一瞥して何かを放り投げてきた。


 見ると歪な形をした魔石だった。ワタルは魔力を感じないので分からないけれどこの程度の大きさと形では四方を復活させることは難しいと思った。


「ワタル君はサラを先に抱きかかえたけれど、サラの事を好きなの?」


 真顔で問いかけられて言葉に詰まってしまう。何故自分は頬を上気させているのか分からない。これでは動揺しているようではないか。必死で首を横にふる。


「あやしいです。べつにワタル君の好きなひとなんて興味ないわよ。ワタル君のハーレムにも興味ないし。


 ………ただ何となく聞いてみただけよ」


 興味なければ聞かなきゃ良いじゃん。


 そう言いたかったけれど、目がグルグル回ってきていよいよまずい状態になってきた。このままだとサラの横で自分も気を失いそうだ。


「遥香、魔石はオレが何とかするから無茶な事はするなよ」


「ふん、他の女を抱きかかえながらそんなこと言われても私の心には届かないわ。それにワタル君に魔石を集める事は無理でしょう? それともまた花蓮からもらう? 双葉はまともな魔石はもう手元にないから無理よね。


 だったら私が集めるしかないでしょう?」


「しかし、お前、サラと戦っただろう? そんなこと、もう二度として欲しくない」


「サラのため?」


 遥香の言葉は馬鹿にした笑いを含んでいた。意識を失いかけながら、


「さらや木広、それに花蓮、睡蓮に何かしたら許さないからな」


「………そう、分かったわ」


 その言葉を聞いて安心すると、ワタルはその場に気を失って倒れた。






◇◇◇






「………そう、分かったわ」


 遥香はくちびるを噛んだ。


 ワタルの手はサラの手を握っている。遥香はその手を乱暴に引き離すと気を失ったワタルの脇を両手でもってサラから少し離した。


「気絶しているのに………どういうこと?」


 ワタルに腹がたった。


 なぜここにいるのかも信じられない。昨夜の状態を知っているのでここまで来るのにどれほど辛かったのか想像できた。そして、自分は呼び出していないから、


 サラに呼ばれたからここに来たことも想像できた。


 ワタルは優しい。


 それはすでに知っているし分かっている事だった。だから四方の為に頑張ってくれているし、遥香の事をいろいろ助けてくれる。


 でもそれはすべてワタルの優しさなのだ。


 同じようにワタルはサラにも優しい。


 きっと、


 木広にも、


 花蓮にも


 睡蓮にも


 きっときっとみんなに優しいのだ。


「なんかやってられないよ」


 今まで張り詰めていた気持に針を刺したように何かが破裂した。何だか泣きたくなった。


「ワタル君」


 見つめる。


 ワタルに四方の事を任すつもりだったのにこれでは心配だ。もしも四方が復活した時に自分がいなかったら、ワタルがいないと四方が一人きりになってします。


 それはダメだ。


 遥香はワタルの両手首を掴み、胸の上で組ませた。


「ごめんね」


 遥香はワタルの両手を自分の手で覆い、神に祈った。


「ワタルに試練を、四方に幸あれ」


 パン。


 サラの両手の中で乾いた音を立ててワタルの掌を何かがはじいた。苦痛を感じたワタルは顔をしかめる。


 ただ意識は戻らなかった。


 そっとワタルの手の甲を見た。


「ごめんなさい。私の事、許さなくてもいいから、私を恨んでもいいから。


 その代わり四方の側にいてあげて」


 ワタルの手の甲に表れた聖痕をそっと触る。


 そして自分の唇を聖痕に押し当てた。


「神の贖罪しょくざいがあらんことを 」


 そして遥香はワタルとサラを残してその場から立ち去った。



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