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055 狭山湖は、当たり前だが湖(みずうみ)だった。


 狭山湖は当たり前だが湖だった。


 何を言いたいかというと、目の前には大量の水があるということ。


「まったくやっかいな所ね」


 しばらく放置されていた原因はその水にある。先ほど湖の水質を調べてみてもとくに特殊な成分も含まれていない普通の水だ。


 ただの湖。


 狭山湖の正式名称は山口貯水池で、その名の通り水源確保のためにこのあたりの丘陵間にある谷を堰き止めた人造湖だ。周辺は県立狭山自然公園として整備されていて、昔は春には湖畔にソメイヨシノが咲き誇り花見の名所だった。もっともゲートの出現と同時に桜は咲くことを止めてしまった。


 桜が咲かなくなった理由は今も分かっていない。


 その湖畔に今も残る桜の木の横に、サラはひとり立っていた。


 湖を見つめている。


 サラは携帯で時間を確認した。まだ学園に向かうまでには三十分くらい時間があった。桜の木から離れて水際まで歩いて行く。


 委任状を花蓮に渡したかわりに、この魔石発掘場の発掘場貸与レンタル書類を受け取ったサラは学園に登校する前に魔石発掘場を確認するために早朝からここを訪れたのだ。


 湖の水を手ですくってみる。


 無理をすればこのまま飲むこともできそうだ。


「お金がかかりそう」


 ここの魔石を発掘するために必要な設備投資費をざっと計算して軽く頭が痛くなった。ここを放置していた気持は理解できる。普通の数倍の設備投資費をかけないといけないのだ。いくつか魔石発掘場を持っている魔石川ならわざわざ湖の底にある発掘場を無理して利用する必要もない。


「このくらいのワケありの場所だったから花蓮の申し出を信用したのだけれど、実際に見ると溜息しかでないわね」


 単純な話し、ただの水が最大のネックになっている。なんといっても普通の人間は水の中で息をする事はできないから、魔石を発掘する為には大変な手間と設備を用意しないといけない。


 まあ、それでも魔石を採掘できるのだから会社は救われるはずだ。


 サラはそろそろ学園に向かう時間になったのでその場から立ち去ろうと歩き出した。少し歩くと向こうから誰かくるのに気づいた。


 遥香だった。


 向こうもこちらに気付いたようだ。目が合う。


「ごきげんよう」


 立ち止まって身構えるサラの横をそう言って通り過ぎていく。


「ちょっとそれはないんじゃないか? 待ちなさいよ」


 ザク。


 砂利を踏みしてる音が一瞬途切れた。遥香は立ち止まると、


「この間の件はまだ機会を見て謝罪するつもり。でも今はちょっと忙しいから今度にしてもらえると嬉しいわ」


 振り返らない遥香の態度は気に入らない。近づいて行き、肩を掴んでこちらを向かせようとして、飛び退いた。


 危うく遥香の振り上げた大鎌に胴を切られるとところだった。それでも微かに腕から血がでている。擦ったようだ。


『やる気?』


 かすり傷程度、問題ではない。サラは構える。死神に負ける気はしない。


「私達は悪魔しか殺さない。だからこの武器で傷付いたと言う事は、サラは悪魔なの? だったら魔石………。いや、なんでもない。


 とにかく私の邪魔はしないでほしいの。それから、ワタル君は私の入院していた病院のベットで寝ているから迎えに行ってあげて」


 遥香はそう言うとサラに背を向けてまた歩き出した。


「ワタル君と一緒だったの?」


 意外だったが、よく考えるとあり得る事だった。


 サラはワタルを許さないことに決めた。なぜ自分でなく遥香と一緒にいたのか納得いかないサラだった。


 一瞬、遥香から注意を逸らしたため姿を見失ってしまった。慌てて最後に遥香を見た場所ま走っていく。


 何もない。


 ドボン!


 何か大きなモノ水の中に落ちた音がする。


 慌てて水際までいくと、十メートル先くらいの水面に波紋の中心があった。浮上するモノがないか水面を凝視して捜す。しかしいつまでたっても何も浮かんでこない。


 見ていなかったけれど湖に落ちたのは遥香に間違いない。そう確信した。


「まさかゲートまで行くつもりなのか?」


 人間には無理なことでも死神なら可能だ。


 ………。


 死神がゲートに行こうとする理由はひとつしかない。


 ゲートを封鎖する気だ。


「冗談じゃない」


 せっかく手に入れた、魔石発掘場を封鎖させる事などやらせはしない。阻止しないといけない。


 あまり気が進まないけれど自分も湖に潜ることにする。


 ちょっと考えてサラはワタルにメールを送った。


 そしてサラは制服のまま湖の中に入っていった。



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