053 鬼姫はひたすら上昇し続けた
鬼姫はひたすら上昇し続けた。
ワタルから渡されたへんな機械のディスプレイを表示されている矢印とおりの方向にただしたがって行く。かなり上昇したためか、それなりに時間経過したためか、地球に隠れていた太陽が顔をのぞかせている。地上を見るとかろうじて雲のすき間から日本の姿を見つけられた。
まだ太陽の光はその手前までしかとどいていない。それでもあと少し時間経過すれば日本は朝日を浴びそうだった。
「あー面倒じゃ」
鬼姫は何度目かのあくびをしてうっつらと目をつむる。疲れたと言うよりもあきた。そう思った時に、へんな機械はピピッとした音を発して、同時に今までとは異なる表示に変わった。
「止まれ?」
ピーッ!
ボーッとしていたので速度を落とし損ねた。激しい警告音を聞いたと思った途端、何もないところでゴツン。と何かと衝突した。
「痛っ」
鬼姫は頭を思い切りぶつける。
何なんだ、とわめいて周りを見ても、そこには何もない。
と思ったら突然今まで宙に浮いていたはずの鬼姫は、暗い部屋の中にいた。十分ではないものの周りを見ることはできる程度の光源は確保されていた。鬼姫はビックリして辺りを見渡す。
「どうやら着いたようじゃな」
鬼姫には分からない機器の埋め込まれた壁を見ながら部屋の中を散策する。
これから何をすればいいのかワタルからは効いていない。後は何か始まるのを待っていればよいらしい。しばらく待っていたけれど何も怒らないので鬼姫は暇つぶしに気になるモノを手にとっては眺めてみる。
「よくわからん」
ワタルの切り札らしいこの場所にあるモノは鬼姫には理解できないものばかりだった。それに壊れているものも多い。千切られたような痕もあり、ここで何者か暴れたような形跡だった。まさかワタルは暴れる訳ないのでワタルの連れてきた者が暴れたのだろう。
「そやつがここの機能を破壊したのか」
興味がでてきた。
別の部屋に行くと横倒しになったカプセルを見つけた。興味をもって近づいてみると、それはヒビ割れて壊れていた。
「これはなんじゃ?」
持ち上げて元通の状態っぽく立ててやる。扉を開けようとしたが、ブンっと微かに震動したので止めておいた。それ以外の反応もなかったので壊れているのだろう。
鬼姫は興味を失った。
もうひとつの部屋にはいると奥から微かな振動を感じて、その更に奥に入っていった。
奥はいままでの部屋とは異なり、重感のある装置に囲まれていた。壁の近くに寄って装置を手で触れると何かのエネルギーの残り香を感じた。
ゆっくりと部屋の中に充満していく何かを感じて鬼姫は警戒してその場から離れようと数歩後退した。ただワタルを信用していたからそれ以上は動かないでことの成り行きを見守ることにした。
念のため、額のプレートを右手で押さえていつでも剥がせるようにしておく。万が一の時にはこれを剥がすだけで地上に戻れるはずだ。
鬼姫の額のプレートは先ほどから微かに輝いている。それとともに薄い白煙を上げていた。
鬼姫は気付いていない。
気付いていたらさっさとプレートを外していただろう。
「ん?」
違和感を感じて鬼姫は自分の手を見た。どうも先ほどに比べて強く実体化している感じだった。それは、つまり………。
鬼姫は慌てて額からプレートを外して地面に放り投げる。
しかし鬼姫はその場に存在したままでいくら待っても消えることはなかった。
「まさか」
すでに部屋に充満しているモノが鬼姫の知らないエネルギーなのだと思った。魔力ではないが高エネルギー体に満ちあふれている。その影響で鬼姫も実体化したままでいられるのだ。
魔力は、床に落ちているプレートからしか感じない。
ワタルをののしりながら鬼姫はその部屋から走り出る。なるべく離れる。
鬼姫の走った後から追いかけるように備え付いている様々な装置の電源が入り起動しはじめる。
「ワタルよ、妾はどうやって戻ればいいのじゃ?」
途方に暮れた。
まさか壁を破壊して無理矢理外に出るわけにもいかない。
はじめの部屋に戻っても実体化したままであることに溜息をついて近くにる椅子のようなものに鬼姫は腰掛けた。
「とりあえずワタルに言われた事はできたようじゃ」
そうつぶやいて、騒がしい音と振動を伴って動いている機械の様子を見つめた。
自己修復している。
「………この様子だとすぐに何とかなるじゃろう」
まさか自分がここに閉じ込められるとは思わなかったけれど、久しぶりに実体を得られたのでしばらくここでそれを堪能するのも悪くないと思った。
どうせ地上に戻ったらまだ霊体に戻ってしまうのだ。
霊体になったからしばらく食べるという行為をしていなかったから、とりあえず、何か食べたい。
「まずは食料じゃな」
鬼姫は部屋の中を物色しはじめる。すぐにいろいろなモノを発見して鬼姫は喜んだ。
「しばらくここに居るのも悪くない」
霊体でいるよりもここに居る方がずっと快適だった。