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052 鬼姫(霊体)が近づいてきた

 鬼姫(霊体)が近づいてきた。


「なんじゃ」


 間近まで来た鬼姫に腕を伸ばして触ろうとした。すっと手が鬼姫の肩を通り過ぎる。やはり触ることができない。それに肩に手が当たっても何も感じるない。本当に目で見る事しかできない。実体のない存在だった。


 念のため幾度か試してみてもやはり鬼姫(霊体)にまったく触れる事はできなかった。


「ところで鬼姫はどこまで上昇できる?」


「何を言いたいのか分からぬが、昔、一度だけ月に行ったことがあるが」


「そこまで求めていない。ちょっと三万六千キロまでお使いを頼みたい」


「断る」


 鬼姫は即答した。


「な、なぜ?。流れ的に”ここはまかせろ”じゃないのか?」


「妾も手を貸せる範囲で協力することはやぶさかでない。しかしいまの妾は魔力が無ければ四方から十メートルも離れてしまえば存在することは出来ぬのじゃ」


 片方の口元を引きつらせて言い辛そうにしているところを見るとそのとおりのようだ。そういえばそんなことを前に言っていたような気もする。


「それは心配いらないと思う」


 断言するように告げると鬼姫と遥香が驚く。


「そんな事ができるのか? じゃあ何故早く言わなかったのじゃ」


「ワタル君、あなたは魔力を使えないんでしょう?」


 ふたりに詰め寄られる。


 鬼姫は実態がないから遥香と重なってしまい、なかなか幻想的だ。


「うっ」


 すぐに鬼姫と重なっていることに気付いて遥香は一歩後退する。非常に嫌な顔をする。そんな顔をしたら鬼姫が傷付くだろうに。


「そこまで嫌わなくてもいいんじゃない? なかなか面白い様子だったよ」


 意識的におどけた口調で遥香をからかう。


「ワタル君。やはりあなたは最低です。この状況でそんな事をいいますか」


 軽く胸を拳で殴られた。痛くない。


 遥香は微笑んだ。微かな笑みだったから、すぐにふさぎ込んでしまう。


 それでもワタルは少しでも笑えると知って安心した。ならまだ遥香は大丈夫だ。


「なあ、もし四方が元気になったら遥香はどうするんだ?」


「そうね、魔石を使って四方ちゃんが元にもどったら、教会には居れないわね。異端者として破門されてしまう。そしたらワタル君に私達の面倒見てもらおうかしら。どう? 面倒見てくれる?」


「いいよ」


「まったく、ワタル君は」


 即答すると遥香は溜息をついて呆れた。


 このくらい軽いノリがワタルは丁度いいと思った。


 遥香も、四方もちょっと辛い目にあいすぎていて、ともすれば雰囲気は沈みがちになる。辛いから逆に明るくしていないと、どんどん暗くなってしまう。。


「でもエッチな事はダメだからね」


「じゃあ四方ちゃんとエッチする」


 バシ!


 腹をえぐるように殴られた。


 こ、これはかなりきつい。少し胃液を逆流させて、その場に膝を付く。


「させるわけないでしょう」


「ひでぇ。四方ちゃんがいいって言えばオレはエッチする」


「四方ちゃんなんて、なれなれしく呼ぶな」


 遥香が側頭部を蹴り上げらてくる。慌てて横に飛んで避けると空振りした遥香の右足が大きく上がったまま一瞬停止する。


「パンツ見えるよ」


 とワタルは指摘した。


「やっぱりワタル君なんて死んでしまえ」


 ふん。


「話しを元に戻さぬか?」


 鬼姫はゆらりと宙に浮きながらあきれ顔をしてこちらを見つめている。


「そうだね。ちょっと来てくれ」


 鬼姫を呼んだ。


 近づいてきた鬼姫の額に薄い板のようなモノを貼り付ける。それは鬼姫の体を素っ取りせずにそのまま額に張り付いていた。


「なんと?」


 ふたりとも不思議そうだった。


 それはタマの体を更正していた成分を念のため圧縮して保存していたチップだった。タマもそれなりの魔族なので、ワタルの予想取りこの状態でも魔力を放っていた。


 魔石ではないので使い道がないと思ったが、鬼姫の実体化に使えそうだ。


「これを、静止衛星軌道にあるラボにセットしてほしい」


 鬼姫は珍しそうに両手でチップを触っている。


「のう、ワタルや」


 鬼姫の表情で何を言いたいのか分かった。


「あげないよ。それにこれは多分ずっと鬼姫を実体化させる事は無理だから」


「ちっ」


 残念そうな鬼姫。


「こいつにはちょっと細工をしたプログラムを組み込んであるから、ラボに置けばあとは勝手にやってくれる筈だ」


「ラボってなによ?」


 当然の疑問を遥香がした。


 隠してもしかたないので、鬼姫と遥香に簡単に話をした。


「なによそれ」


 遥香は呆れ、鬼姫は納得いったような顔をする。


「あの時はそれにやられたのか」


「あの時って何よ」


 ワタルも鬼姫もあまり言いたくないので、遥香の質問は聞こえないふりをする。遥香が面白くないとムッとした。


「ちなみに、このチップを外したら、妾はどうなるのじゃ?」


「どうもならないよ。このペンダント近くまで勝手に戻されるんじゃないか」


 鬼姫もそうだろうと頷いた。


 それから鬼姫が迷わないように誘導装置を手渡す。


「これを使えば鬼姫でも迷わないはず」


「なんか妾を馬鹿にしていないか?」


 そして、鬼姫は窓から空に飛び出していった。


「頼むよ」


 ワタルは鬼姫を見送りながらそうつぶやいて、その場に倒れた。






◇◇◇






「ワタル君………」


 遥香は倒れたワタルの上半身を起こす。気を失っていた。


 少し躊躇ったが、そのまま抱きついた。


 遥香はここまでワタルがしてくれるこを不思議に思った。ワタルがいたから耐えられている。もしひとりだったら、どうしていいか分からず、途方にくれていたはずだ。


 遥香が落ち込みそうになると適度にちょっかいを出してそれ以上落ち込まないようにしてくれるあたり、ワタルはいままで感じていたただのやらしいだけの人では無かった。


 とてもやさしい。


 自分の偏見を少し改めようと思った。


 少し恥ずかしかったが、そっとキスをする。


 感謝のキス。


 ワタルになら四方をまかせてもいいと思った。


 だから遥香は自分が四方にやってあげれることをしようと決心した。


 ワタルを見た。


 もう一度キスをする。


 それは別れのキスだった。


 遥香は自分が出来る事をする為に、上司である真理子に会いに行こうと思った。



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