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051 四方の病室でワタルは遥香に詰め寄られていた。


 四方の病室でワタルは遥香に詰め寄られていた。


「落ち着けって」


 ヒリヒリする頬を片手で摩りながら遥香をなだめた。遥香はワタルの言う事を無視して再び殴りかかってきた。


 バシッ。


 ワタルはよけなかったから遥香の平手をまともに受けた。五発目だった。遥香は教会の戦闘要員だから力はそれなりにある。


 ワタルの両頬はすでに赤く腫れかかっていた。


 ものすごく痛い。


 それでも遥香の気持ちを考えるとよける気になれなかった。


 鬼姫(体)は滅んだけれど結局、四方の状態は変わらなかった。


 先ほどまで鬼姫(霊体)も姿を見せていた。ただ遥香の荒れように呆れてしまい、今は姿を消していた。それに怒った遥香がペンダントを床に叩き付けようとしたので、慌てて止めると、ワタルは遥香の標的になってしまった。


 もっとも少し前に比べたらましなほうだった。


 遥香は四方の近くに座ってずっと無言でいたのだ。その間、ワタルや鬼姫(霊体)に声をかけられてもまったく反応しなかったのだ。


 そして突然、鬼姫(霊体)に大鎌を振るった。


 鬼姫(霊体)を大鎌は何度も素通りする。いくら鬼姫(霊体)に無駄だからやめろと言われても遥香は止めなかった。


 だから鬼姫(霊体)は肩をすくめて消えてしまった。


「ワタル君、魔石をちょうだい」


「今は無いよ」


 低い声でそう言われても、ワタルは魔石を持っていない。


 同じ受け答えを何度も繰り返している。


「何とかするって言ったじゃない」


 遥香がそう叫んでまた殴ってきた。


 やはりワタルはよける気にはならなかった。


 遥香は先ほどからずっと涙を流している事に気付いていない。大粒の涙をボロボロ出している姿を見ているとワタルはやるせない気持になる。


 ワタルは遥香の気持を思い、したいようにさせていた。


 四方を何とかしてやりたい。その気持は遥香と同じだ。


 ワタルはじっと四方を見つめた。


 四方は目を開けて天井の一点をただ見つめている。こちらを見る事を四方は止めていた。おそらく遥香の荒れた姿を見たくないからなのだろう。


 四方に何をしてやれるだろう?


 ワタルは自問自答した。


 どのくらい痛みを伴い、苦痛なのかワタルは想像できない。生きながら徐々に体が腐っていくのだ。普通なら気が変になってもおかしくない。


 実際に四方は良く耐えていると思う。それはきっと遥香がいたからなのだろう。遥香は毎日毎日、時間が有る限り四方のところに来ては話しをしているのだ。遥香が近くで元気づけているからこそ四方もがんばってこれたのだろう。


 しかし、いま遥香の心は折れかかっている。もし魔石を使っても四方の容態が改善しなかったら、たぶん遥香は諦めてしまうだろう。もう遥香は頼るべきものは無い。


 魔石だって遥香としては受け入れがたい手段なのだ。


 遥香は今でも絶望しかかっている。


 もし遥香が絶望したら、おそらく四方も耐えられないだろう。


 そんな結果はワタルは見たくない。


 だから、遥香に希望をもってもらう為に、自分の残っている力を四方に使おうと決心した。


「気休めかもしれないけど」


 本当はキスをするのが一番効率的だけれど、遥香を刺激したくないので掌で力を伝えることにした。ワタルは四方の額に自分の片手を当てて目を閉じる。


「馬鹿な事は止めよ」


 鬼姫(霊体)の声がした。目を開けると微かに実体化している。


「今のお主の力を与えても何も解決せぬ」


 どうやらワタルにだけ聞こえるように話しかけてきたようだ。


「お主、もうほとんど力を使い切っているではないか。これ以上力を使うと死ぬ事は無いにしてもしばらく昏睡してしまうぞ」


「平気だよ」


 ワタルは鬼姫(霊体)の警告を無視して四方に力を注いだ。


 途端に激しい目眩に襲われる。しかし我慢できるレベルだ。


 死にはしない。


 四方の瞳が閉じた。


 痛みを一時でも和らげられたので、四方が穏やかな表情になって眠った。


 だが、効果はそれだけだった。回復するまでには至らない。


 ワタルあは自分の体を支える事ができずにその場に倒れそうになる。


 倒れる前に、遥香に支えられた。


「ごめんなさい。ワタル君は四方のために一生懸命頑張ってくれていたのに。………あれっ? 私いつから泣いていたんだろう」


 遥香は謝ると自分が泣いていたことに気づいて不思議そうにしている。


 遥香は自分がどれほど強い悲しみと絶望感に襲われているか分かっていない。あまりに激し過ぎて頭で処理し切れていない。だから自分が大泣きするほど追い詰められている感覚がない。


 「必要な魔石はおれが必ず用意する」


 それだけ言うのが精一杯だった。


 遥香は涙を両手で擦りながら、微笑んだ。どうやら多少は落ち着いたようだ。


 ワタルは魔石をどのように手に入れるか考える。鬼姫(霊体)の話しでは花蓮から譲り受けたくらいの魔石が必要とのことだ。あのレベルの魔石はなかなか見つけるのは難しいらしい。


 不可能とは思わないけれど、えらく時間がかかりそうな気がする。。


 だったら、別の手段もやはり打っておくべきだろう。


 幸い、鬼姫(霊体)がいるから何とかなるかもしれない。


「鬼姫、相談があるんだけど」



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