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049 木広が旧昭和記念公園跡でぼう然としている

 木広が旧昭和記念公園跡でぼう然としている。


 魔界汚染のために封鎖が決定された連絡があったのは翌日の夕方だった。その日に木広はゲートの魔族を封印すべく準備をしていたので、驚いてすぐに旧昭和記念公園跡に向かった。


 途中、サラと携帯で連絡を取る。教会所有の病院にいると言われて、いぶかしんだがそれについて考える余裕がなかったので、途中で立ち寄ってサラを拾った。


 到着すると、すでにコンクリを注がれて封印作業が始まっていた。


 それを木広はぼう然として見つめていた。


「ほんとに封鎖されている………」


 神宮庁の役人が近づいてきて何か手続きについて木広と話をしている。


 それを少し下がった所から見ていたサラは自分がしでかしたことを悔やむ。


「お姉様、勝手な事して、ごめんなさい」


 車の中で自分がしたことを正直に話している。


 木広ははじめ絶句して話を聞いていた。叱られることを覚悟しながら最後まで話をした後、木広は「まあ仕方ないか」とだけ言って特に怒ることはなかった。


 それでもサラは責任を感じている。鬼姫がゲートの魔族であっても木広だったらどうにかすることが出来たのかも知れなかったので、自分の行動が悔やまれる。


「しかしサラちゃんが怒ってそんな事をするとは思わなかった。そんなにワタルさんの事を許せなかったの?」


「だって、教会の手伝いなんかしてたんだよ。あたしのこと助けるって言ったのに、この魔石発掘場を封印する手伝いをあいつは。


 私の下僕なのに」


「大丈夫よ許してあげなさい。別にワタルさんはサラちゃんのことを裏切ったんじゃないと思うわ。そうするのか一番サラちゃんのためになると思ったんじゃない?」


 木広にはワタルがここを封印しようとした理由について分かってているようだった。何となく仕方ないと思っている。


 サラは納得できない。


 サラにはその理由について見当つかないので許す気になれない。しかも一緒にいた遥香と、いつのまにか妙に仲よくなっているのも面白くなかった。


 病院でも、目を覚ますとワタルはいなかった。看護婦に遥香が入院しているか聞いて、入院していると言う事だったので病室に行くとそこには誰もいなかった。しかし、ワタルのこん跡がそこにあった。下僕の気配は主人であるサラには分かるのだ。


 なぜワタルは教会関係者である遥香と仲良くなったのか、気になる。しかも下僕であれば意識を集中すれば何処にいるのか分かるはずだったのにワタルがどこにいるのか分からないので苛立った。


「サラちゃん、双葉重工の状況はこれで、本当に絶望的になったわ」


 封鎖された事を確認した後、木広がそう言った。ワタルの事を考えていた頭を慌てて切り換える。いまはそれどころじゃない。


 サラは木広に軽く頷いた。


 ここの魔力汚染はかなり酷かったから魔石を採掘できるようになるまでどのくらいかかるのか分からない。もしかしたら、このまま破棄される可能性もある。


 それはつまり、双葉重工の生き残る道が閉ざされたと同義だった。


「何か手を打たないと」


「そうね。このまま何もしないでつぶれるつもりはないわ。絶対復活させるわよ」


 木広は力強い声で決意して笑った。


 滅多に笑わない木広のそれは、サラを安心させようと意識的に作った表情だ。自分に気を使う木広に、もっと弱音を吐いてくれても、と思ってしまう。


 サラは自分が出来る事があれば役に立ちたい。


 結局、具体的な対策案は木広からは出てこなかった。


 大丈夫。


 安心して。


 何とかなる。


 そんな言葉で誤魔化されない。本気でまずい状態なのだ。


 たぶん、木広としては打てる手は全て打っていたので、新たに打つ手を思い付かないのだろう。このままだったら夏を乗り切れないかもしれない。


「ねえ、花蓮に助けてもらう事はできないの?」


 ずっと気になってきたことを確認する。


 何だかんだいって花蓮と木広は付き合いは長い。ライバルでも敵ではないから、こっちから困っている事を話したら、助けてくれるかも知れない。


 睡蓮の提示した条件だって双葉重工の援助をすると同義な内容な気がする。木広にその気さえあればそれなりの援助は期待できるような気がする。


「ごめんね、魔石川商事には助けてもらいたくないの。というか、魔石川商事と双葉重工はどちらかが潰れるまで競争しないといけないのよ」


 それははじめて聞いた。


「もし、共生するつもりなら、そもそも魔石発掘場の採掘権のコンペでここまで争ったりしないでしょう?」


「確かにそうだけど」


「魔石川商事とは潰すか潰されるかの戦いをしているのよ。それは私が花蓮を好きな気持ちとはまた別の事情なの。それは花蓮も充分知っているから、魔石川商事には頼っても、そもそも助けてくれることはありえないの」」


 木広の言っている事に納得感と違和感があった。違和感とは、だったらなぜ花蓮は魔石川商事が保有する発掘場をレンタルすると提案してきたのだろうか? 木広の説明だとよく分からない事だった。


「それに、あそこと、うちとでは社風が違いすぎるから、協力しようとしても、うまくいかないと思うわ」


 あっちは個の力を評価するが双葉重工はチームの力を大事にしている。これは根本的な部分だからお互いどうしようもない。


 それにどちらが良いという事でもないので、治す事もできない


 冷静に分析している木広は何だかさびしそうだった。


「とにかく魔石川商事に助けを求めるのは無しで、それ以外の方法を下ぐ手見るから。サラちゃんはあまり気にしなくていいから」


 頭をかるく撫でられながら、疲れた目をしている木広を見て、サラは花蓮との取引を真剣に考えはじめた。



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