表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/79

048 ワタル、避けよ


「ワタル、避けよ」


 鬼姫(霊体)の声にわれにかえる。


 鬼姫(体)がこちらに迫ってくる。このままだと激突しそうだった。


 無理矢理サラを抱き締めて自分の体で庇った。


「ヤダ、なんであなたはいつもこんなふうなのよ」


 サラは気付いておらず、突然ワタルに組しだかれたと思っている。


 下から掌底で顎を打たれて頭がクラクラする。目眩がして一瞬意識が飛びそうになり力が抜けてしまう。そこを鬼姫(体)に襲われた。


 必死でサラを抱き締めながら飛び退く。


 ギリギリだった。


 いままでワタルの頭があった場所に鬼姫(体)の足があった。力任せに踏みつけた地面は文字通り陥没していた。そのままそこにいたらワタルの下にいたサラごと踏み殺されていたかもしれない。


「うむ、さすが妾の体だけの事はある。この状態で復活するとは見事じゃ」


 ふわふわ近寄ってきた鬼姫(霊体)が自慢する。


「な、何なのよ。説明して」


 首を絞められる。


 サラは状況を把握できないので苛立っていた。そして軽く驚いたためか、先ほどの涙はもう止まっていた。


 ワタルは少しだけ鬼姫(体)に感謝した。


「おい。どうにかできないのか?」


 鬼姫(霊体)にそういって対策をたずねたる。ふと、鬼姫(霊体)から緊張感を感じなかったので訝しんだ。


「もう大丈夫じゃ。お主らはたまたまゲートに向かう処にいたから襲われただけじゃ。ほれ、妾の体はゲートに向かっておる」


 そう言われて鬼姫(体)を見ると、ちょうどゲートに突っ込んでいくところだった。


 ゲートが崩れかかる。


 鬼姫(体)が数歩後退してふたたびゲートに突撃すると、完全にゲートが崩れて崩壊してしまう。


「まずいわ」


「まずいの」


 サラと鬼姫(霊体)が同時に呟いた。


「ワタルよ、早くここから逃げよ」


 微震?


 いや、しかし今いる場所は確実に震えている。


「遥香、大丈夫か?」


 ワタルは遥香の方を見た。遥香は鬼姫(体)の腕に振り払われて近くに倒れていた。渋るサラを引き摺るようにして近づいていった。特に大きなケガが無い事を確認した。


 気を失っているだけで、体は大丈夫なようだ。


「グズグズするでない。死にたいか?」


 鬼姫(霊体)が急かす。


「何が始まるの?」


 ワタルはこれから何が始まるのか分からない。それでも動けない遥香を抱き上げて、出口に向かった。視線は崩れたゲートの上にしゃがみ込んで穴を掘っている鬼姫(体)に向ける。


 なんだかとても悲しそうな顔をしている。鬼姫の体なのだから何とかしてやりたい気持ちになる。しかし、


「もう手遅れじゃ。ゲートから来た魔族はゲートが閉じてしまったら二度と魔界には戻れない。それは妾であっても同じ事じゃ」


「でも、自分の体に戻ればいいのでは?」


 すると冷笑された。


 それができれば一番はじめにそうしている。と言われてしまい、自分が迂闊なことを行ったことが分かった。


「あのう、ごめん」


「ん? 何を謝っているのか分からぬぞ」


 鬼姫(霊体)はうそぶいた。


 とにかく3人(?)と鬼姫(霊体)はその場から走り去った。


「鬼姫がこの魔石発掘場のゲートの魔族だったとは、知らなかった。あなたは知ってたのね」


 走る速度を落とさずにサラがそう言った。口調は冷静を装うとしている。ただ声に倦怠感を感じた。鬼族は封印する事はできないのはサラも知っている。


 この魔石発掘場ははじめから双葉重工が落札しても無駄だったことに気付いたのだ。


「第一波が来るぞ。なんとか耐えよ」


 そう鬼姫(霊体)が言うと、ゲートが無くなりこの場に充満していた魔力が一気に爆発した。


 ワタルはやはり何ともなかったが、サラが前のめりに吹き飛ばされそうになって慌てて手を掴んだ。反応がないので見ると気を失っていた。


 遥香もサラも気を失ってしまう。


 ワタルは困った。ふたりを肩に背負って歩き出してみたものの、バランスが悪いので走ることができない。ゆっくり歩くのが精一杯だった。


「ワタルよ、こんな状態では第二波、第三波をまともに浴びることになるぞ。お主は平気だろうが、そのふたりは耐えられまい。死ぬぞ」


 ワタルは立ち止まった。鬼姫(霊体)の言っている事を信じた。このまま千鳥足で歩くよりも他の手段を捜す事にした。


「のう、さっきから気になっていたのじゃが、そのポケットに入っている魔石を出して見せてくれぬか?」


「これか?」


 花蓮から譲り受けた魔石をポケットから取りだして鬼姫(霊体)に見せる。


 しばらくじっと見ていた鬼姫(霊体)が、


「これくらいレア物なら、何とかなるかもしれん。


 のう、妾にこれを使わせる気はないか?


 その魔石を引き替えに全員を地上に移動させる程度の事なら出来そうじゃ」


 四方のために必要な魔石を今ここで使ってしまう事に一瞬だけためらった。


「悩んでいる余裕はないぞ? あれだけ妾の体は暴れたのだ。おそらくもうじき力を使い切るはずじゃ。そうしたら力突きでしまうであろう」


「力尽きるとどうなるんだ?」


「簡単に言うと、その魔族は消滅してしまう。そしてゲートの魔族がいなくなった場合、限定された空間に密集されていた魔力が四散するのじゃ。そして先ほどみたいな波動が何度も発生するのじゃ」


 躊躇った。それでも、次の瞬間には魔石を掲げる。


「ふたりが助かるならすぐに使ってくれ」


「よう言った。なかなか男前じゃ」


 そう言った鬼姫(霊体)は一言呪文を呟いた。


 すると周りの風景がゆがみ消えて無くなる。ワタルがいつも行っていた瞬間移動に少し似ている。


 3人(?)と鬼姫(霊体)は地上に瞬間移動して戻ることができた。


 ワタルの掌の中にあった魔石に細かいヒビが入る。砂のように細かい破片になった部分から風に吹かれて流されていいく。


 これで四方を救う魔石が無くなってしまった。


「どうするかな。まあ遥香とサラが助かったのだから良しとするしかないか」


「さすがに地上では四方が近くにいないと実体化はむずがしい。そろそろ限界じゃ。のう、先ほどの魔石くらいの力があれば四方を助ける事はできる筈じゃ。いま使ってしまったのは残念じゃが、何とかして同じくらいのものを入手せよ」


「人ごとだと思って。まあいいよ。何とかしてみせる」


 鬼姫(霊体)は微笑んだような気がした。それは気のせいかどうかはその後すぐに実態を失ったからワタルは核にする事ができなかった。




 旧昭和記念公園跡は魔界汚染が発生したために、全面立ち入り禁止になってしまった。物理的に誰に誰も入れなくするために、穴の中には魔力を減衰させる要素を含んだコンクリを大量に流し込まれてしまった。



そろそろこのペースで続けていくことが辛くなってきたかも。みなさんの反応があれば頑張れますので応援してください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ