046 遥香はためらわずに穴の中に入っていった
遥香はためらわずに穴の中に入っていった。
魔力を減衰させる事ができても、普通の人間にとって魔力の強い場所に長時間いると気分がわるくなってしまう。いわゆる魔力酔いだ。
ワタルは何故か魔力を感じないから、全然平気だったが遥香はつらいはずだった。
「気分は大丈夫か?」
すると遥香が振り向いて、
「別に死ぬわけではないから大丈夫よ」
この地下通路の魔族は全て冬眠状態でいるため、襲ってくる心配はないので、歩ければ問題ない。それに、木広や花蓮はゲートの魔族を封印するために魔術を使うからその気力と体力を残しておかなければいけないが、遥香は大鎌でゲートの魔族を刈るだけなので、ゲートまでたどり着ければいい。
ゲートの魔族も冬眠しているから、直接抵抗される事もない。
遥香たちシスターは、魔力酔いに耐えてゲートに着ければいいのだ。
魔族に襲われる事は無いことはあらかじめ聞かされていたから、いざとなったら遥香の事をワタルが抱えていくつもりだ。
ただ、ワタルは魔力を感知できないので、どこに行けばいいのか分からないから、遥香に気を失われると、どうしようもないが。
「どうしても辛くなったらいつでも言ってくれ」
「大丈夫よ」
そう遥香は気張るが、十分くらい時間が経ったあたりから様子がおかしくなる。何度も立ち止まって膝に両手を付いて苦しそうに下を向く事が多くなっていった。
それでも遥香は自分で歩こうとする。
しかし、中に入って三十分ほど経過した事に、ついに遥香はその場で嘔吐した。
「おい!」
魔力酔いで死ぬ事はい。しかしだからといって大した事ではないかと言うと、そんなことはない。魔力が強い者程、その影響を受けてしまうらしいから遥香も例外でなく、かなり強く影響を受けて、最悪の気分になっているはずだ。
真っ青だった。
「あとは、オレが背負うから」
ワタルはふらふらになっている遥香を抱き上げた。
「………ごめんね」
一瞬、拒否しようとしが、意味がないことに築いてワタルに素直に抱き上げられる。遥香の体は冷や汗をかいて冷たくなっていた。
そして少し震えている。
「ちょっと悪い」
ワタルは遥香の唇をふさぐようにキスをした。
遥香は一瞬、目を見開いてワタルをにらみ付けてきた。ただそれ以上は体を動かす気力もないのか、目をつぶり、ワタルのキスに無抵抗だった。なるべく遥香が苦しまないようにしてキスを続ける。
そのうち遥香の体が少し温まってきて、顔色も良くなってきた。
それを感じとったワタルは唇を話した。
「どうだ? 楽になったか?」
ワタルは自分の体力を削って遥香の体調を良くしたのだ。さすがに連日で自分の体力を削ってエネルギーを分け与えていると、ワタル自身の調子が悪くなる。だが、今は危険はないので遥香の復活を優先させる。
「うー、無理やりキスされて礼を言いたくないです。でも悔しいですが確かに気分がだいぶ良くなりました。悔しいです、ほんとに悔しいですが、礼をいいます。ありがとうです」
悔しいを連発する遥香をそのまま抱きかかえながらワタルは歩き出した。
「ちょっともう大丈夫だから下ろしてください」
遥香が暴れた。
「ダメだ、また具合が悪くなったらもう回復させる事はできないから、なるべく体力を使わないようにおれがこのまま運んでやるから、遥香は進む方向だけに神経を集中してくれ」
「でも」
「でもじゃない。それともたどり着く前に、また魔力酔いがひどくなってもいいのか? その時は戻るしかないぞ」
「分かったわよ」
遥香がそう言って大人しくなった。
「そのう」
「なんだ」
「………ありがとう」
小さな声で遥香がそうつぶやいた。
ワタルはその言葉がちょっと意外で驚いた。すぐに微笑んだ。
「その言葉だけで、がんばれるよ」
「………何言ってるかな」
ワタルには聞こえないほどの小声で遥香がそうつぶやき、すこし照れたように頬を赤らめた。
そろそろこのペースで続けていくことが辛くなってきたかも。みなさんの反応があれば頑張れますので応援してください。