045 次の日の夜、ワタルと遥香は旧昭和記念公園跡にいた
次の日の夜、ワタルと遥香は旧昭和記念公園跡にいた。
ワタルは今日は学校を休んだ。
「休んで正解でしたよ」
遥香は何度も何度も後ろを振り返って警戒している。何か殺気だって目を血走らせている。
「サラさんと睡蓮さんに一体何をしたんですか?
ふたりともワタル君のいるところを凄い形相でみんなに聞き回っていたわよ。私も聞かれて思わず答えそうになるくらい鬼気迫って怖かったわ。
普段のふたりからは想像できない。あれは、たぶんワタル君の事を仕留めるつもりね」
「ごめん、あのふたりの事は言わないで。今は忘れていたい。でないとおれは、」
………。
どうしよう。
会ったらきっと殺される。でも、自業自得だし、後悔はしていない。
そう、後悔はしていない。仕方が無いことだった。だから、
「我が人生、一片の悔い無し」
何となく叫んでみた。
でも、涙がでるのは何故だろう。
「悔いなんてないさ、悔いなんてしないさ、自分で決めたんだから」
「ねえ、死ぬの? ワタル君死んじゃうの?」
心配する素振りがゼロの遥香だった。
「お願いです。少しで良いから慰めて、でないと心が折れて立ち直れない」
「安心して、遠くから見守ってあげるから。それと一度ぐらいは線香あげに行ってあげるわ」
遠くから見守ってもらっても、それは何もしてくれないという事だ。
「やっぱおれは死ぬしかないの? あのふたりに殺されるのかな。遥香、何とかして?」
遥香にすがり付くが、むげに突き放される。
「ワタル君、何したの?」
「聞いてくれる?」
相談にのって欲しかった。自分ひとりでは解決できなかったから、学校を休んだのだ。せめて四方のためにしている事だと分かっている蓮香に相談に乗って欲しかった。しかし、
「やだ。魔石を使う人の事なんて知りません」
と冷たく言われた。
「ひでぇ、あんた仮にもシスターなんでしょう? ひとが困っていたら相談に乗るべきじゃない?」
懺悔という制度が教会にはあるのだから、ワタルの悩みを聞いてくれてもいいはず。そう言うと、遥香は
「ワタル君が死んだら聞いてあげる」
こいつは………。
ワタルは言葉を失った。
「そんな事はどうでもいいから、そろそろ行くわよ。サラさんも睡蓮さんも、私がワタル君の居場所を知っていると思っているから、もしかしたらここに来るかも知れないわ」
遥香は歩きだす。
だから遥香は先ほどからきょろきょろ辺りを気にしているらしい。
「どうでも良くないんだけど………」
ワタルも今はサラや睡蓮には会いたくないので、周りに誰かいないか確かめながら、慌てて遥香の後についていった。
「その大鎌でほんとに倒せるのか?」
歩きながらワタルは遥香が持っている武器を指さしてたずねた。
「そうよ。これは魔族だけを刈ることができる死神の鎌なの。そうだ、試しに切ってあげようか」
遥香が振りかぶろうとするので、ワタルは飛びずさる。
「冗談は止めてくれ」
「じゃあ下段で」
「………面白くない」
「ちっ」
振りかぶった大鎌を下段構えにした遥香が舌打ちをする。
「ちょっと気分がハイになっているのに、ノリが悪いわね」
もしかしたらこれで四方が助かるかもしれないと遥香は思っているから、張り切っているらしい。だからワタルがさっきから落ち込んでいるのに相手をしてくれないのだ。
「そろそろだわ」
「ああ」
前に花蓮と戦った場所に着いた。この先のえぐれたクレーター部分が入り口だった。
「ところでほんとに警備されていないけど、根回しは旨くいっているみたいだな」
この前は軍用犬やら周りを神宮庁の人間が取り囲んでいた。しかし今はまったく警備をしている気配がない。
「外務省がきちんと横やりを入れてくれたみたいだわね。たぶん一時間ぐらいは神宮庁はここにひとを回す事はないはず。それまでに済ませてしまいましょう」
遥香はローマにある何とか教会に属していて、そこと外務省は中が良いらしい。遥香的には教会が外務省と神宮庁の内部闘争をうまく利用していると言うことだった。
そろそろこのペースで続けていくことが辛くなってきたかも。みなさんの反応があれば頑張れますので応援してください。