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043 「で、君はここに何しに来たんだ?」

「で、君はここに何しに来たんだ?」


 紅茶を飲んでくつろいでいた花蓮が興味深そうにこちらに視線を向けてくる。花蓮はソファに座って本を読んでいたようだ。いまはその本を閉じてこちらを正面から見つめていた。


 本を読むよりもワタルと話をすることに興味をもったのだ。


「妹と一緒にいるとは珍しいな。睡蓮、やっとワタルと仲良くなったのか?」


 睡蓮は黙って頷いた。


 睡蓮でよかった。


 薬で自分の意志を抑制されている睡蓮は感情を表さないがそれは普段とあまり変わらなかったから、様子がおかしいとは気付かないだろう。普通の人だったらすぐに分かってしまっていたところだ。


「姉さま、ワタル様が魔石を見たいと言うので、すみませんが奥の部屋に入らせて下さい」


 ワタルはホッとしていたから、睡蓮を止められなかった。花蓮にいきなりそんな事を言ったら疑われてしまう。もし睡蓮を薬で言うことを聴かせていることを知られたら、きっと殺される。


 いや、絶対殺される。


 花蓮は、おや? というようにしばらくだまりこんでしまう。


 ワタルは背中にいやな汗をかきつつ、この状況をどうしたらいいか必死で考えた。否定するか誤魔化せばいいのかも知れなかったがそれだと魔石を手に入れることはできないので、何とか旨い理由を付けて魔石があるとことまで行きたい。


 しばらく花蓮は睡蓮を見てから視線をこちらに向けて、


「べつに魔石を見るくらいは構わないが、どれ、私が案内してやろう。ついてきて」


 と言い、ソファから立ち上がった。


 !


 一瞬躊躇ったが、今しかない。


「睡蓮、ここまで案内してくれてありがとう」


 花蓮から睡蓮の表情を隠す位置にさりげなく移動する。そして睡蓮を見てしらばっくれて、


「あれ、なんか顔色悪いけど、具合でも悪いの? 後は花蓮に頼むから、睡蓮は今日は早く寝た方が良いかもよ」


 と続けた。


「ん? 調子悪いのか? そんなに顔色は悪そうではないが」


 睡蓮の顔を覗き込もうと近づいてきた花蓮を慌てて止める。顔色なんて悪くないから近くで見られたらばれてしまう。


 花蓮の肩を掴んで耳元で、


「花蓮とふたりきりになりたい」


 とささやく。


 一瞬動作を固めた花蓮が、ぎこちなく顔を向けてきた。


 目を見開いて、まんまるくなっていた。


 それでも無表情なのは、少々間抜けだった。


「そんな事を言うのは初めてだな」


 一瞬、花蓮の表情に違和感を感じた。その原因を確かめようと、花蓮の顔をよく見ようとしたけれど髪が花蓮の表情を隠してしまう。


「睡蓮よ、確かに調子が悪いみたいだ? 今日はもう部屋で休め。ワタル君の事は私が相手をする」


「分かりました。私はこれで失礼します」


 睡蓮はそう言ってドアの方に近づいていった。


 ワタルはため息をついた。なんとか花蓮にはばれないですみそうだ。


「あ、ちょっとまて」


 花蓮が部屋の棚の方に行き、何かを取って戻ってきた。


「調子が悪いのであれば、これを寝る前に飲め。すっきりするはずだ」


 液体が入った透明な小瓶を睡蓮に渡す。睡蓮はそれを無言で受け取った。


「じゃ、じゃあね」


 ワタルはやや引きつりながら、睡蓮を部屋から追い出す。


「安静にな」


 花蓮にそう言われて、睡蓮は部屋から出て行った。


 とりあえず。一難去った。


 花蓮が近づいてきた。


「あ、さっき言ったふたりきりになりたいってのは、」


 花蓮に抱きつかれそうになったので慌ててそう言った。ただ、その後に言葉が続かなかった。


「きみは魔石に興味はないと思っていたが、望むのならいくらでも見せてあげる。向こうの部屋に行こう」




 花蓮に案内されて入った部屋はやや薄暗い部屋だった。壁の周りに何段も棚が備えられており、四面を覆っていた。


 照明は存在しておらず、棚にある箱が微かな光源となっている。その箱がいくつも存在しているため部屋自体はそれなりに明るかった。


「魔石自体に光る性質はないが、魔石の力を受けて光を放つ物質で作成した箱にいれているからこのように光を放っている。


 この箱の中に大小様々な魔石が入っている。キミには、そうだな」


 すこし悩んで花蓮がひとつの箱を手にとって、蓋を開けてこちらに差しだしてきた。


「これなど、どうだ? きみが興味がありそうな魔石だと思うぞ」


 差しだされた箱の中にある魔石は、底が見えない程の黒色のきれいな球状をしたこぶし大の魔石だった。



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