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042 睡蓮の事を半時以上見つめていた

 睡蓮の事を半時以上見つめていた。睡蓮は目覚める気配はない。


 普段、無表情でいるように意識している睡蓮は、今はあどけない表情をしている。目を閉じて微かな寝息をしている姿は子供のようだ。そんなことを本人に言ったら何をされるか分からないが、普段の無表情よりも、よほど魅力的だった。


 先ほどから、微かな香りを漂わせていた香の火をもみ消して、窓を開ける。


 窓から吹き込んでくる風が肌を刺激する。微風程度の風を受けて、そう感じてしまうのだから、ワタルも今も微かに香の影響を受けているのだろう。それは全身の感覚を、ひどく敏感にさせる作用を持っていた。


 わざわざ苦労して、危険を冒して睡蓮の部屋に忍び込み、まえもって決めていたとおり睡蓮に薬を飲ませることに成功した。にもかかわらず、ワタルは窓を開けて考え事をしていた。


 睡蓮の方に、視線を向ける。


「かわいいじゃないか」


 ワタルはそっと、サラから奪ったサバイバルナイフを取り出して、目の前にかざす。


 刃こぼれなく、そして黒光りしている。自分の顔が渦黒い輪郭として映る。表情は見て取れない。


 どんな表情を浮かべているのか、分からなかった。ただ、かなり落ち込んでいる表情を受け部手いることは確かだろう。


「やるしかないか」


 だらだら迷っていても、どうしようもないから、ワタルは思い立った。


 睡蓮に近寄ってサバイバルナイフを近づけていく。


 胸元に刃先を当て、ゆっくりと動かすと、ブラがはじけ飛んだ。


 きれいだ。


 本気で見とれかけながらも、睡蓮の体のどこかにあるはずの、おかしな所を捜した。


 見つからない。


 睡蓮の体に触れて、一度うつぶせにする。睡蓮は軽くピクリと痙攣したが目は覚まさなかった。


 睡蓮の背中も特に違和感はない。きれいだった。


 ワタルは再び躊躇してしまい動きを止めた。このまま逃げ出したいと思ってしまったが、四方の為には最後までやるしかないと覚悟を決めて、もう一度、睡蓮をうつぶせから、仰向けにする。


 サバイバルナイフを睡蓮のショーツの腰部分に当てる。


 これで睡蓮には嫌われてしまうと思うと、サバイバルナイフを持つ手がなかなか動かない。もしかしたら、泣かれるかも知れない。


 ここまで睡蓮が無邪気な姿を見せるとは、思わなかった。普段の睡蓮だけを見ていたら、裸を見られても怒るけれど、あまり気にしないと思っていた。しかし今の睡蓮の愛らしさを見ていると、泣かれてしまうかもしれない。


 結局、睡蓮は本質的には普通の女の子と変わらないんだと思った。普段はそれを無表情でで隠そうとしてたのだ。


 ただ、どこにも異常がなければ、次は残っている部分を調べないといけない。


 ワタルはまた躊躇している。


 ふと、もう一度睡蓮の体を見つめると、腹部に小さなほくろがあることに気づいた。ちょうどヘソの横くらいにある。


 睡蓮の体には、そこ以外にほくろは無かった。ほんとうに、きれいな体だった。


 ワタルはそのほくろが気になって、そこに掌を当てる。


 睡蓮が微かに身じろいだ。


 ワタルは構わずに力を入れる。目をつぶって掌に集中する。


 何か違和感があった。


「ふぅー」


 大きく息を吐き、緊張をとく。


 見つけた。


 これでショーツの中まで調べなくてすんだ。さすがのワタルも寝ている女の子のショーツを脱がして、あれこれ調べるのに罪悪感があったので、ホッとした。


 ワタルはサバイバルナイフの先で自分の人差し指を軽く傷付けてる。血が流れる。


 それを先ほどのほくろの上に数滴垂らした。


 ジュ。


 肉が焦げる音と、煙が立ち上る。睡蓮の体にノイズがはしり、次の瞬間、アクアスネイクが現れた。


 あと一息だ。


 ワタルは思い切りサバイバルナイフを睡蓮に振り下ろした。アクアスネイクは大口をあけてサバイバルナイフ毎、ワタルの腕を飲み込んだ。


 アクアスネイクの口はワタルの肩まで達していた。中に入った手の感覚がどんどん薄れていく。勢いよく消化されている感じだ。急がないと腕くらいあっという間に無くなってしまいそうだ。


 アクアスネイクの腹をサバイバルナイフで突き刺す。


 刃先が外に出た。そのまま一気に腕を引き抜くと、アクアスネイクは体の半分を切り裂かれる。サバイバルナイフで頭を断ち切る。


 そして尻尾を掴んで壁に叩き付けた。


 しかし辛うじて生きていた。まあ、しばらくしたら復活するだろう。


 ワタルはアクアスネイクの頭を掴んで、その口の中にポケットか取りだした髪の毛を突っ込んだ。


 それは四方の髪の毛だった。遥香に気付かれないように一本だけ取っていたのだ。


「さてさて、結果はどうなったかな」


 5分後、ワタルはそう呟いて髪の毛を取りだした。


 じっと見つめる。


 ハッキリとは分からないものの、僅かに前に比べて再生されているようだ。鬼姫はウソは言っていなかった。


 魔族の力を手に入れることで四方は助けられる事が分かった。ワタルは小さく拳を握って、


「よし」


 と叫んだ。


 あとは、魔石をできるだけ多く集めればよい。その為には睡蓮に協力してもらうつもりだ。


 そのために睡蓮に薬を飲ませたのだ。


「睡蓮、起きて」


 ワタルは力任せに睡蓮の体を揺すった。


 しばらくゆすっていると、やっと睡蓮は目を覚ました。


「睡蓮、これからこの屋敷にある魔石を見せてほしい。保管場所に案内してくれ」


「はい」


 そう言って睡蓮は立ち上がり、部屋を出ようとした。


 ただ、ショーツだけでのほぼ裸状態で廊下をウロウロさせる訳にはいかないので、慌てて睡蓮に服を着るように伝えた。


「はい。わかりました」


 睡蓮は服を身につける。


 ワタルは複雑な思いで睡蓮を見た。いま睡蓮は先ほど飲ませた薬の影響で、誰の言ったことでも、どんな内容でも、言われた事に従う状態になっている。本人の意志をねじ曲げていることに罪悪感はある。ただ今回は時間がなかったし、睡蓮がOKするとは思えなかったので強引な手段を取るしかなかった。



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