040 キスがしたい
★登場人物紹介★
天野ワタル:世界征服をたくらんでいるが、サラの下僕。
双葉サラ:世界平和を思う。魔族との契約をワタルに邪魔をされる。
双葉木広:サラの姉。百合で花蓮ラブ。腹黒。
タマ:さらに召喚された猫鬼。何故かワタルの妹として生活中。
魔石川花蓮:魔石川商事の代表取締役。ワタルが好き(?)。
魔石川睡蓮:花蓮の妹。ワタルとサラのクラスに転入。
ヤドリギ:?
大藪遥香:シスター。貧乏
大藪四方:遥香の妹。入院中。
板倉満里子:ワタル達の担任
鬼姫:魔石発掘場のゲートの魔族
「キスがしたい」
ワタルはサラの顔を正面から見て、そう言った。
頬を引っ叩かれた。
「やっぱり、あなたは信用できない。女の敵だわ。ここで殺しておくのが全人類、いえ全女性のためな気がする。きっと、間違ってはいないはず。さあ覚悟して」
ワタルを指さし、もう一方の手にサバイバルナイフを取りだす。
ワタルはとっさにタマに目配せして、「なんとかしろと」、命令した。
「うー、うにゃー!」
シュッとその場からタマがサラの背中に乗った。そして勢いよくサラを突き飛ばして、ワタルの胸に飛びこんできた。
「ワタルお兄ちゃん、今の内に逃げましょう」
「いや、これはまずいっしょ」
サラが頭を打ったらしく、その場でフラフラしている。
ワタルは、ふと、このままサラを拉致る事を思い付いた。いまの状況で、サラに魔石採掘場の封鎖を邪魔される訳にはいかない。だから、
サラに近づいて、いきなりキスをした。
さらに抱きしめる。
サラの体が固まった。
みるみる顔が赤くなり、呼吸が荒くなっていった。予想もしていなかった様子で、目を見開いてビックリ顔をしてワタルを見つめてくる。
猫が驚いたような、愛嬌ある表情だった。
ワタルは、もっと強く抱きしめる。
サラの目が閉じて、体から力が無くなっていった。
一応言っておくが、キスが目的ではない、
サラのエネルギー(生命力)と自分のエネルギー(生命力)を交換すること。
サラの生体情報を解析すること
このふたつを行うためにキスする必要があった。
ワタルはサラの口を舌でこじ開ける。
サラの舌を自分の舌で絡ませる。
エネルギーを注ぎながら、サラの情報を読み取り高速で解析する。ただ、バックエンドで処理する装置がタマを人間にする時のアクシデントで使い物にならなかったので普段よりも時間がかかる。
思った以上に解析量が多いため、もしかしたら全ての生態情報を解析しきれない、かもしれない。
「ぶふぁ」
十分間以上キスをし続けた後に、サラがパチン、と目を開けて、力ずくで離れて行った。
完了したのだ。
解析は、ギリギリ終わった。本来ならもっと細部まで解析する必要があったが、贅沢は言えない。これでワタルはサラのエネルギー(生命力)を自由に使うことができる。
………まあ、百パーセントではないが、何とかなるだろう。
「は、は、はじめてのキスだったのに!」
かなりショックを受けている様子だった。
「女の子に無理やりキスするなんて、あなたはヘンタイ強姦魔だわ」
………オレはヘンタイじゃないし、強姦魔でもない。
「言っておくけど、どうしてもキスしておく必要があっんだ」
サラは泣いていた。
「ヘンタイ」
サラが全身を振るわせた。ワタルのエネルギーをうまく使えないのだ。タマが慌ててサラに近づいて様子を見る。
サラはそのままタマに支えられるようにして立っているのが精一杯の状態だった。
「一緒に来てほしい」
「どこにですか?」
「オレの家さ。サラの家だと木広がいるし、そもそも花蓮に双葉の家に行くことを禁じられているから、オレの家しか行くところがない。魔石川の家という選択肢もあるには、あるが、サラを連れて行くと面倒くさそうなんでね」
「どこにでも、ひとりで行って。あたしは行かないわ」
サラはフラフラしている。
ワタルのエネルギーに体が適応するまで、この状態が続くはずだ。この状態でサラをひとりにするのは、危ない。
「そうもいかない。一日くらいで元に戻るはずだ。それまではオレはお前を守る義務がある。いちおう、おまえと契約しているから。
それとも世界平和に協力しなくてもいいのか?」
「うぅ………。協力しないと、ダメよ」
悔しそうだった。
「では大人しくここはオレにしたがってくれ。
それとも、ここに放置してほしいか?」
「くやしい。体が動けば、殺してやりたい。いいわ、どこにでもついて行きます。
………でも、体が自由になったら、この手であなたの息の根を止めてやります」
「だから、オレはお前になら殺されてやってもいいって言っただろう。まあ、その時にまた話をしよう。
でも、きっとオレに感謝する事になると思うよ」
サラが睨んできた。
「絶対、ありえない」
まあいい。とにかくこれでしばらくサラの動きを封じることができた。それに、保険も掛けることができる。
ワタルはサラに気がつかれないように、タマにサラとしばらく一緒にいるように指示をした。
「わかりました」
タマの頭を撫でてやると、目を細めて猫のようにゴロゴロ喉をならす。
さすが、もと猫鬼だ。人間になっても猫っぽい。
「頼む」
そしてサラを支えながら、ワタルは自宅に向かった。