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004 ねぇ、殺しちゃったの?

「ねえ、殺しちゃったの?」


 サラが後ろから、声をかけてきた。


 振り返ると、サラが責めるように、こちらに視線を向けていた。足と手を振るわせて、怒っている。


「何か問題あるのか?」


 ワタルは周りに倒れている軍用犬達を一瞥しながらそう言った。


 旧昭和記念公園跡に到着した時に、入り口を封鎖していた人達を振り切って中に入ると、軍用犬達が追ってきたのだった。


 サラが襲われそうになったので、ワタルはその場で軍用犬達を素手で殴り殺した。


「ねえ、これは、ちょっと酷いよ」


 一匹の軍用犬に近寄って死亡していることを確認したサラの顔は暗い。少し青ざめていた。


「でも、こいつらは敵だろう。それとも、あのまま、おまえが襲われるのを見ていればよかったのか? 先ほどの魔族の時もそうだが、なぜ殺してはいけないのだ?」


「あ、おまえ、僕のこと本気で殺そうとしていたのか?」


「タマ、あんたは黙ってて」


 サラが魔族を叱咤する。


「だからタマなんて呼ぶな。た、確かに僕は猫鬼族だけど、タマは酷いよ」


 魔族が泣いた。


「猫の名前と言ったらタマだろう?」


「あなたもタマの事は相手にしなくていいから、それより、この軍用犬は日本政府に所属しているのよ?


 それなのにこんな殺してしまって………。損害賠償請求されるのは双葉重工なんだからね。一、二、三、………十五匹も殺してるし。あなた。いったいいくら請求されるか分かってるの?」


「ただの犬だろう?」


「ねえ、僕の名前はどうなるの?」


 タマが無言でサラに殴られて、その場にうずくまる。


「なに言ってるのよ。この犬一匹にどのくらいの科学技術と遺伝子工学がつぎ込まれているのか知らないの? 一匹で都心の戸建てが買えるんだからね」


 ……こんな弱いのに?


 ワタルはそう言おうとして止めた。


 軍用犬の対価がそれ程であるのなら、本来の戦闘能力もそこそこの筈なのだろう。それを弱いと断じてしまうのは、さすがに常識的におかしいと思われる。


「つうか、金の問題?」


「お金は大切よ。それと、あたしはこれでも双葉重工の幹部なんだから、立場があるのよ」


「ねえ、ぼ、僕の名前はタマで決定なの?」


「タマは少し黙っていてね」


 タマに近寄って軽く喉を撫でてやる。


「ば、馬鹿にするなぁ」


 そう言いながらタマは撫でられるまま大人しくなる。


「あなた、ここを包囲しているのが日本政府関係者だって分かってなかったの? ここは魔石採掘場なのよ。政府関係者以外がいるわけないでしょう」


「そんなの関係ない。だって、おまえが襲われたんだぞ。黙って見ているなんて、出来ないだろう」


 ワタルが周りを警備していた者達の素性を気にしていないことを知って、サラが驚いている。そして呆れた顔をした気がする。表情があまり変わらないのでサラがどう感じているのか読みづらい。


「あなたの常識がよく分からない。もしかしてお姉様と戦っている魔石川商事の代表も殺すつもりだったの?」


「もし男ならそのつもりだったが。いけなかったか?」


 サラが頭を抱えるが、ワタルには訳が分からない。


「もしかして、戦う相手は殺してはいけないのか?」


「戦う理由と、戦う相手によるわ」


「女の子は傷つけてはいけないのは知っているぞ」


 サラに胸を軽く叩かれる。


「ねえ、それ間違ってるから。女の子でも本当の敵だったら殺しなさい」


「………それはできない。女の子は、いや、何でもないです」


 子供を作ってもらわないといけないから殺せない。と言ったらサラが怒りそうな気がしたので誤魔化した。


「とにかく、あなたが


 生き物を殺す事


 人を殺す事


 とにかく何かを傷付ける事、すべて禁止するわ。


 もしそういう状況になったら、あたに許可を求めなさい」


「それくらいは構わないが。でも、おまえがいなかったら、どうしたらいいんだ?」


「携帯で連絡して」


「連絡つかなかったら?」


 サラが少し考えてから言った。


「逃げなさい」


「お、おれに逃げろと」


「分かった?」


 いつの間にかサバイバルナイフを喉に当てられていた。


「分かった?」


 サラが無表情で繰り返し、そう言った。


「わ、分かった」


 これからサラが本当の無表情になった時は気を付けないとヤバイと思いながらワタルは頷いた。感情が高ぶると、サラは逆に表情をなくすようだった。


「とにかく、この軍用犬の賠償金は立て替えておくけど、あとで返してよね」


「ひでぇ。金でもオレの事をしばるのか?」


 もしかしたら、サラはとても自分勝手な人間なのではないか?


 ワタルはそう問うてみた。


 ………否定できない。サラはどこからどう見ても自分勝手な唯我独尊だった。


「さあ、とっとと、お姉様の処に行くわよ」


 サラが走り始めた。


「ちょっと待ってよ」


 ワタルもサラに併走する。それを少し遅れてタマが追いかけてくる。


「あと、どのくらいかかるんだ?」


 走りながら尋ねると、サラが「もうすぐ」と答えた。


「この箸を渡った処にいるはず」


 ………まずいな。


 前方の様子を探った結果から判断すると、このままでは間に合いそうにない。


「なあ、おまえの姉の相手は殺しては、いけないのか?」


 ワタルが前を見ながらそう言った。


「そうよ。競争相手だけど、知人でもあるから、殺してはダメよ」


「腕の一本くらいなら、どうだ?」


「そのくらいなら、いいわ」


「分かった」


 ワタルはサラを追い越した。


「悪いが、先に行く」


「えっ?」


 その瞬間、ワタルはサラとタマを残して姿を消した。


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