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035 私は鬼姫に恨みがあります


「私は鬼姫に恨みがあります」 


 睡蓮は部屋から出て行ったが、ワタルは残っている。去り際に睡蓮に「よろしくねの」と言われて、一緒にでていくタイミングを逸したのだ。再びベッドに横になった遥香の横に椅子を移動して座っている。


 ワタルは腕の状態を尋ねられたり、何故双葉からライバルである魔石川と一緒にいるのか、質問されたりした後、不意にそう告げられた。


 鬼姫に恨みがある。


 ワタルは、なるべくなら、いや、絶対に関わりたくない。


 しかし、目の前の遥香はひとりでも鬼姫に立ち向かいそうだった。そこに躊躇いは見られない。


「ワタル君は女の子とは戦わないと聞いたのですが、本当なんですか」


「睡蓮が説明したとおりだよ。女の子は好きになるもので、戦うたいしょうじゃない」


「そんな事をいうと、女の子から嫌われますよ」


 少しつらいのかも知れない。遥香は小さな声でゆっくりと呟いている。


「なぁ、なんで嫌われるんだ? た、確かになぜか周りの女の子に嫌われている気がして、どうすればいいのか悩んでいるんだ。自分ではでも、原因がよく分からないんだ。遥香、もし知っていたら理由を教えてほしい」


 つい、椅子から立ち上がって顔を覗き込んだ。睡蓮が驚いた顔ををして、反対を向く。少し頬が赤く火照っている。


「熱でもあるのか」


 そっとおでこを当てて確かめる。この方法が一番確実らしいが、その真偽をワタルは疑っているが、遥香から熱気が伝わってきたので、この方法もそれなりに有効なのかもと見直した。「かなり熱が高いな。しかも汗をかいている。とりあえずシーツを新しいのに替えてみる?」 遥香はブーストしたから体調を崩しているだけで、明日には元にもどると言っていたが、この様子では心配だった。


「なんてことするんですか。ワタル君が女の子に嫌われる理由は、今のでよく分かりました」 シーツを目元まで隠した状態で遥香がそう言った。半目で睨んでくる。


「いま、嫌われる事を俺はしたのか? ただ遥香の事を心配しただけじゃないか」


 真正面から顔を見つめる。


 遥香の視線がキョどる。


「ば、ばか。そんなに顔を近づけないでください。それと、そんなに顔を見つめないでください」


 ガバッとシーツで頭を隠してしまう。


 顔も見せたくないということか。


「そうだね、遥香も俺のこと、嫌っているんだもんね。俺は仲良くしたいのに」


 ワタルは、椅子に座り直すと、ため息をついた。遥香に嫌われる理由がまったく分からないから、対処しようがない。


 頭を出して遥香がこちらをチラと見る。何か言いたそうだが、黙っている。


「何?」


「・・・・・・・・・ワタル君はずるいです。まさか私まで手を出そうとするなんて、まさか、まさかと思っていましたけど、さすが鬼畜ですね。私がはじめにどれだけワタル君の事を嫌っているか伝えたのに」


 遥香は怒っている? ではいったい何に?


 ここには自分と遥香しかいないから、ワタルは自分に対して怒っているのだと状況から判断した。


「ごめんね、なんかまた怒らせてしまったみたいだけれど、俺はそんな気はなかったんだ。あのう、鬼姫のことなんだけど」


「あやまらなでください。別にワタル君が悪いわけじゃないですから」


 では何に怒っているのか、ああ、話を遮っているからか。


「ねえ、なんで鬼姫の事を恨んでいるの? よかったら話してくれない?」


「・・・・・・・・・そしたら協力してくれる?」


「うん」


 ・・・・・・・・・やば、つい言ってしまった。


 何故かサラの顔が浮かんだ。怒っている。


「木広が無茶をするのが止められないなら、先に動くしかないと思う。でも、鬼姫は、ちょっと、い、いや、なんでもない。話を聞かせてくれる?」


「明後日には双葉が封印するなら、明日に行動しないといけないわね。・・・・・・・・・これからワタル君に会わせたい人がいるから、ちょっと着替える。向こうを向いてて」


「廊下にでていようか?」


 ワタルは慌てる。


「ここは監視がきびしいから廊下に独りでいたら監視カメラに不審者として映って、ガードマンがくるから、すすめられないです。それとも私と一緒にいたくないので、あれば別ですけど。でもその場合、ワタル君のことを本気で嫌いになります」


 ワタルはびっくりして遥香に近づき方を抱いた。


「な、なにをするんですか、ひ、卑怯ですよ。私があまり動けないことを知っていてそんなことをするなんて。やっぱり女の子なら誰でもいいんでづか?」


「そうじゃないよ、遥香はまだ俺のことは嫌いにはなっていないの?」


 掴んだ腕にちからがはいってしまう。


「言っておきますけど、魔石の関係者は真っ当な人間とは認めません。その中では、まだワタル君はましな方ではあります。私の事を助けてくれようとしたみたいだし。きゃぁ!」


「嫌われていないんだ。良かった」」」


 ワタルは勢いよく遥香を抱きしめた。


「いやぁ、もしかしたら俺って女の子から好かれない、致命的な何か欠陥があるとなやんでいたんだけど。良かった」


 ガバッと体を離したから、間にあったシーツが遥香から離れて、ふたりの間に落ちた。


 ・・・・・・・・・。


「あっ、悪い」


「ばかぁ!」


 遥香が頭突きをしてきたので、そのまま鼻血をだして、吹っ飛ばされて壁に後頭部をぶつけて意識がもうろうとなる。


「ワタル君、あなたはやっぱり変態で鬼畜で空気が読めないダメダメなヤツです。一度死んで反省したほうがいいでる。前言撤回します。私はワタル君のことはだいきらいです。だから、ワタル君は私に好かれるように努力しなさい。いいですね」


 なんだかよく分からないが、気絶する間際にワタルは無意識に返事をした。


「それでよいです」


 最後に遥香のそんな声が聞こえて、ワタルは気を失った」


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