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034 遥香達は魔石を使う人達を人間とは思っていないの


「遥香達は魔石を使う人達を人間とは思っていないの」


 睡蓮が遥香の前に立った。


「教会のシスターは頭が固いの。聖石と魔石に違いなんかないはずなのに、聖石しか認めないの」


「聖石と魔石はまったく違うわ。魔石は元は魔族ですよ。しかも使えば魔族に体を浸食されてしまうんです。あなたのお姉さんがいい証拠です」


「姉さまの事を馬鹿にしたら、いますぐに後悔させてあげるの」


 アクアスネイクの便利なところはいつでも出現させることができることだ。遥香達シスターは使い魔は悪魔の手先として忌み嫌っているので、使役することはない。聖石と特殊な武器しか使わない。


「怒らないでください。別に馬鹿にしたわけではないです。それよりも今回の事について説明を求めます。なぜ魔獣が学園に出現したのですか?」


 遥香は不機嫌だった。よく見ると怒っているようだ。


 睡蓮はじっと目を見たが、どうも遥香は事情を知らないようだった。


「後で自分の上司に聞いた方がよいの。どうせ私が言ったことは信じないと思うの」


 ワタルが興味深そうにこちらを見ている。。


「なぁ、あの魔獣って遥香が遅刻しなかったら、どうなっていたと思う?」


「どうって?」


 睡蓮はワタルも少し分かっていると思った。遥香は分かっていない様子だった。


「もしもオレよりも先にあの場所にいたら、どうなっていたと思う?」


「ワタル様、それ以上は言ってはダメなの。きちんと上司から説明をしてもらわないと、きっといけない事なの」


「でもそれって、」


「黙るの」


 睡蓮はワタルの言葉を強制的に遮った。


「ねえ、どういう事なんです? 何を秘密にしているのですか?」


「・・・・・・・・・睡蓮。ダメだおれは話す。遥香、もしもお前が先に屋上にいたら魔獣は遥香を狙ったと思う。あの魔獣ははじめから遥香を狙っていたのに気付いていたか?」


「そんなのウソです」


 遥香は否定するが、心当たりが有ったのだろう、徐々に顔色が悪くなっていく。


「なあ、おまえ、ひょっとして捨て駒になったのかも知れないんだよ。何か心当たりないのか?」


「何を馬鹿な事いっているのよ。そんなことあるわけ無いです」


「ワタル様、私達がいくら言っても無駄なの。だから上司に聞いてもらった方が早く納得できるの」


「それじゃ、遥香が危険だ」


 睡蓮は呆れた。


 敵であるシスターの事もワタルは心配する。


 ワタルはお人好しだ。


 遥香がケガ、最悪殺された場合、その責任は魔石川商事にが被る事になる。もしもそうなったら、教会は魔石発掘場を封鎖する口実ができるの」


 そのための捨て石に遥香はされたと考えるのが自然だった。


 だからあの時、花蓮が他の視線を感じたのだ。証拠を取るために魔獸に襲われる遥香の写真でも取ろうとしていたのだろう。


「それって、へたに上司に相談したら、遥香が危険だろう? だって遥香は組織に裏切られたようなものだろう」


 ワタルの言っていることはあっている。ただ、


「裏切りではないの。教会はそれが普通なの。そしきの為なら個人は平気で犠牲にするの。そして個人はそれで納得しているの」


「そうよ。別に裏切られたわけではないです。それは試練です。私は神から試練を与えられただけです。もしそれで死んでも、神が救ってくれるから私たちは安心して試練に立ち向かえるんです」


 ワタルが立ち上がって遥香に近づいていった。


「神様がそんな試練をさせているって、ホントに思っているの?」


 ワタルが呆れている。そしていらついていているようだった。


「ワタル様、私が話しているの。少し黙っててなの」


 ワタルは何か言いたげに睨んできたが、無視をすると、そのままふてくされたように椅子に座って足を組む。


「好きにしな」


 少しフォローしようかと思った、ワタルなら後でも大丈夫だろうと判断して、遥香と話を続ける。


「組織の末端の人間も、遥香みたいに全員、洗脳されているから、説得できないの。でも魔獸に襲わせなくても、あの魔石発掘場は閉鎖することになるから、教会は今回、手を出さないでほしいの」


 ワタルが椅子を勢いよく倒しながら立ち上がる。ものすごく何か言いたそうだが、目を合わせると、椅子を元に戻して、おとなしく座り直した。


「それが本当かどうやって証明するのです?」


 遥香は全く信用していない。


「魔石川商事はあの魔石発掘場には手を出さないことは正式に神宮庁に通達しているから確認をとればわかるの。まずこれがひとつの理由なの。もう一つの理由は、あの採掘場のゲートの魔族が鬼族だということなの」


 これで説明は終わりだったが、遥香もワタルも「それで?」といった表情を浮かべている。ふたりとも分かっていなさすぎる。


「双葉は鬼族と契約をしていることは知っててほしいの。知らなかったら、後で自分で確認をとるの。話をもどすと、つまり双葉重工は鬼族だけは封印することが不可能なの」


 やっと少し理解した顔になったのを見て続けた。


「双葉が鬼族を封印したら、今後鬼族は双葉の使い魔には絶対にならないの。だから封印することは絶対にないの」


 遥香がじっと睨んでくるが、睡蓮は本当のことを言っているから、あとは遥香が信じるかどうかだ。


「ワタル君は知っていた・・・・・・・・・感じ、じゃないですね。分かりました。信用します。でも何故それを私に伝えるんです?」


 睡蓮はワタルの方に近づいていく。そっと頬を撫でた。


「な、なにするんだよ」


 睡蓮は、そのままワタルに軽くキスをした。


「たぶん、木広は、封印が出来ないことは覚悟の上でゲートまで行って、自分自身を贄として魔族と契約を結ぶはずなの。そうすれば封印と同じ効果が得られるの」


「じゃあダメじゃないですか」


 遥香が今までの話はなんだったのかと、呟いているが、ワタルには言いたいことが伝わったようだ。


「つまり、木広は死ぬ気だということなのか?」


 ワタルの問いに、睡蓮は頷いた。


「死にはしないの。ただ魔族と一体化するだけなの」


「でも、それっていままでの木広ではなくなってしまうのだろう? それだったら死んだようなものじゃないか」


「そうなの。だからワタル様、私のこと、好きにしていいから木広を助けて欲しいの」


 睡蓮はそう言って、再び自分からワタルに抱きついた。


「ワ、ワタル様の、こ、子供を産んでもいいの。だからお願いなの」


 何か言おうとしたワタルの唇を奪った。


「あのさ、結局あたしは何なのです?」


 睡蓮は、息が続かなくなるまでキスを続けてから、やっとワタルから離れた。


 ワタルは唖然としている。


「ゲートの魔族は鬼姫なの」


 遥香にそう告げた途端、遥香の雰囲気が変わった。


「それを一番はじめに言って欲しかったです。あぁ、そう言うことですか。納得です。いいでしょう。私が封鎖します。つまり、ワタル君とふたりで封鎖をしてほしいと、言いたいんですよね」


 遥香が両手を胸の前で組み、目をつぶって祈り出す。


「ついにこの時が来ました。神よ感謝します」



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