033 なにをするのですが、このくされ外道
「・・・なにをするのですが、このくされ外道」
様子を見ようと顔を近づけた途端、目を覚ました遥香に頬を叩かれる。
ガタン。
そのまま椅子から落ちた。
「ワタルさんは私にも手をだすんですか?」
目覚める時に気配を感じて無意識に叩いたのだろうが、ワタルはまさかそのタイミングで目を覚ますことはないだろうと思っていたので、完全に不意を付かれたから、しばらく床から立ち上がれなかった。
遥香が上半身を起こして、軽く悲鳴を上げる。
気になったので、体を起こして見ると、シーツで上半身を隠しながら真っ回なっていた。
何か違和感があるみたいだ。
「あぁ、そう言えばさっき看護婦が来て、服を脱がしていったよ。目が覚めたら、これに着替えてと言っていたよ。」
着替えが入った袋を渡そうとすると、引ったくられた。
その拍子に何かが床に落ちる。
遥香がハッとして顔を強張らせる。取りたくても、裸にシーツをまとった状態ではベットの上からとを伸ばして取ることができない。
「仕方ないな」
手にとって見る。
パンツだった。
「・・・・・・・・・おまえ、こんなパンツを、穿いているのか」
「ぶっ!」
小さな面積の▽。▽以外がほとんど紐状のパンツを遥香に渡す。
「こ、こ、こんなものを穿くわけないじゃないですか」
すさまじい風圧で髪の毛が後ろに靡いてビックリして目を閉じた一瞬後、持っていたパンtパンツが無くなっていた。
「イヤらしい手でいつまでも触ってるな。ヘンタイがうつります。・・・・・・・・・その腕は、」
遥香の視線がワタルの手に釘付けになる。
腕から棒帯でつるした腕を見つめている遥香が、みるみる泣きだした。
「ご、ごめんなさい。わ、私のせいです」
「じゃあ、責任取って」
「分かりました。ワタル君、あなたが
女好きで、
スケコマシで、
浮気者で、
虫けら以下の価値しかなくて、
生まれる前からヘンタイだから、
触られるとじんま疹がでるほど嫌いだとしても、この十六年間神に仕えた身をもって責任を取らさせて下さい」
「・・・・・・・・・ごめんなさい。責任なんて取らないでいいです。いっそオレが責任取って死にたい気分だよ」
ワタルは涙した。
おかしい。
なんで周りの女の子はこんなに自分の厳しいんだ。少なくとも遥香にはまだ何もしていない。まあ、さっきちょっとエロい会話をしたが、それだけでこんなに嫌われるのは納得いかない。いったい、オレの何が悪いんだ。
「変態なワタル君、もしかして落ち込んでいるんですか? 私の言った事なんて、所詮本当のことなんで、気にしてはダメです。例えそれがクラスの女子の相違であってもめげないで下さい。あっ、泣かないでください。涙がベットの上に落ちて汚いです。ヘンタイ菌が、これはもうシーツを替えないといけないです」
心配そうな表情でものすごく酷い事を言う。
立ち直れないかも知れない。
「なあ、君は何者なの? ただのクラスメイトってことはないよね」
来ていた服からシスターなのだろうと、想像出来るが、花蓮からは屋上にいってそこにいる人に手紙を渡すことしか言われていない。
まっていたら魔獣に襲われたが、まさか魔獣に手紙を渡すような事はありえないから、手紙はこの子に渡す必要があった筈だ。
「私は、学園の隣にある教会の第三位の牧師です。へんたいくされ外道に名乗る名などないのですが、ここは我慢します。名前は如月遥香といいます。すみません、すぐに忘れて下さい。覚えていられると、キモイです」
へこたれながら、ワタルも自己紹介しようとするが、遮られた。
「ヘンタイの名前はすでに知っています。今まで何をしてきたかも調査済みです。調査した時には同情しましたが、今はこっちが同情してほしいです。なんでワタル君を、しかもこんな見た目が私より、いえ、なんでもないです。私はワタル君がヘンタイであることを世間に訴えたいです。ああっ! 神よお許しください。私はどんな罪を犯した者でも赦し導くことが使命であるにもかかわらず、このようなヘンタイくされ外道のインポ野郎を赦す事ができません」
「もう意味が分からない」
ギロッっと睨まれる。遥香がシーツを巻き付けたまま、器用にベットの上に立ち上がった。
バサッとシーツを翻して、ワタルの方を指さす。
なんか独りで興奮している。
「息を止めなさい。この、くされ外道。私はワタル君と一時でも同じ空気を吸いたく無いんです。
ついでに心臓を止めなさい。そして、いますぐ自分の罪深さを自覚して死ぬべきです。
自殺は重罪で地獄に堕ちますが、すでにワタル君は地獄行きが決定しています。だから安心して死んで、地獄に堕ちてください。
私は当然天国に行くことになるので、ここでお別れです。それが私の為に、いえ、私とワタル君、そして全人類のためです。
安心してください。死体は骨も残さず焼却してあげます。ワタル菌は完全焼却です」
目の前が真っ暗になった。
なぜか? そんなのは分かり切っている。
いつの間にかやってきた睡蓮が座っているワタルの首を後ろから押さえているからだ。
「あらっ、どうしましたのですか顔色が悪いですよ。しっかりしてください。もう少しですよ睡蓮さん」
「ゲホっ!」
後ろから舌打ちが聞こえてきた。
「なあ、睡蓮。おれっていきなり首を絞められる程、お前に嫌われているのか?」
「そんなことは無いですの。いきなりじゃなくて、いつでも首を絞めて殺したいと思っているの」
「オレは、再起不能だよ。ふっ、もう勝手にしてくれ」
ワタルは黄昏れて、部屋の端に椅子を移動させて小さくなる。
「ふぅ。変態を精神的に退治したです。やったです」
遥香が勝ちどきを上げる。
「ふん、シーツがはだけて全部、見えてるよ」
カッと真っ赤になった遥香が備え付けの液晶テレビをぶん投げて来たのを危うく避けながら、ワタルはニヤリと笑って一矢報いた。