032 姉さま。これはどういう事なの?
「姉さま、これはどういう事なの?」
「私にも分からないが、おそらく教会が何か仕掛けてきたのだろう。ただこのシスターが遅刻したせいで、計算が狂ったのではないか?」
花蓮は、周りを見渡して、気になるビルを見つけた。
何があるわけではない普通のビルダが、屋上から視線を感じた。
「なるほど。何となく分かった」
「腕は大丈夫か?」
「いや大丈夫じゃない。このままだとまずい。申し訳ないが何とかしてほしい」
殆ど千切れている腕を情けなそうにワタルが見ている。
「自分ですぐに再生できないと言うのはホントのようなの。すぐになおしてあげるの」
睡蓮が腕を取って、軽く呟く。すると、睡蓮の両手からアクアスネイクが出現する。
「いや、睡蓮は何もしなくていい」
「どうしてなの?」
睡蓮に頷くと、花蓮は携帯で救急車を呼んだ。
そして理事長にも、ワタルが負傷したことを告げる。
「睡蓮、放送室に行って魔獣が出現して、えっとこのシスターは睡蓮のクラスの生徒だったわよね。この子を助けてワタルが負傷した事を放送で言った上で、危険だから残っている生徒は至急下校するようにと放送してきて。生徒会長の名前を使っていいから」
「わかったの。でも大丈夫なの?」
ワタルの腕を見た睡蓮が心配そうに、でなく事務的にワタルに尋ねる。
「ワタルさん、これから病院に行って治療をしてもらうけれど、耐えられる?」
イヤな顔をするかと、思ったがワタルは自分の腕を軽く見てから、「大丈夫だと思う」とだけ答えたきた。
「問題ないの?」
睡蓮はこのくらいの怪我は自分で治せるから不満そうだった。
「隣の病院に入院してもらう、睡蓮、救急車がきたらすぐに屋上に案内して」
花蓮はワタルを抱き起こした。
ワタルの血が服を汚すが、構わなかった。
睡蓮に放送室にいくように急かす。
「ごめんなさいね、ホントは教会の連中にきみの事を印象付けたかったから、手紙を渡してもらうだけの、はずだったのに」
ワタルを抱き締める。
「私の事を疑っている?」
「魔獣の事か? それだったらたぶん花蓮は関係ないだろう。あんな魔獣に襲われても、オレを殺せない事は知っていると思うし。ホントにオレを殺そうと花蓮が思ったなら、直接手を下す気がする」
「何か、私がワタルさんを殺そうと思っているようね」
「違うのか?」
「違わないわ。いつか私がキミを殺してあげる」
花蓮はワタルにキスをした。
ワタルがどこまで察しているか分からないが、自分がワタルを好きなことはきちんと分かって欲しかった。そしてワタルはそれが分かっているようだ。
「だけど、きみの事は好きよ
「あの子、えっと確か遥香だったと思うけど、放っといても大丈夫なの?」
「大丈夫、ケガが無い事はさっき確かめたkら。それより、ワタルさんは今は私とこうしていて。辛かったら、気を失ってもいいわ」
先ほどのビルに視線を映す。まだこちらを誰かが見ている気配がある。
「大丈夫、このくらいは大した事はない。まだ耐えられる」
花蓮はワタルを少し見直した。
腕が千切れかかっているのだ。大丈夫なわけがない。
すぐに回復すれば痛みは引くが、千切れたままの状態でいれば、普通に痛みはある。花蓮は傷の手当てとして念のため止血だけはしておく。
◇◇◇
救急車が来た時には学園は大騒ぎになっていた。
血まみれの生徒会長とワタルが並んで歩き、その後ろかr気を失った女性が救急隊員に担架で運ばれている。
湯型だったので、生徒の数が少ないはずだったが花蓮達を見守る生徒で廊下はかなり人だかりに、なっていた。
「みなさんどいてください。ワタルさんはこの子を守ろうとして負傷しているんです。まだ高等部1年であることが、どういう事だか分かりますよね? はやく治療しないと治りません。
だから、みなさんそこをどいてください」
別に通行の邪魔にはなっていないが花蓮は何度もそう言った。
ワタルがこの子を守ったと言う事を不特定多数に伝えるのが目的だった。
そのまま、隣の病院に向かった。
学園の隣にある病院だったがある事情があり花蓮はいままで一度も利用したことがない。今回、はじめて利用する。
「このふたりは隣同士の個室でお願い。それからワタルさんの治療を誰よりも優先して行ってちょうだい。これは、魔石川商事からの正式な要望として受け取ってください。ワタルさんはVIPよ。さあ、早くしなさい」
病院の入り口にいた関係者が花蓮の姿を見て驚き、作業が止まったので大声で叱咤した。すると皆が我に返って、急に慌ただしくなった。
「もう少しだから、がんんばってねえ」
花蓮は病院のロビーでだめ押しのキスをした。
築くと、ワタルが気を失っていた。
血が相当流れていいるため、意識を保つことができなくなったようだ。
「ここでワタルさんを助けられなかったら、魔石川商事の力であんたたち、全て社会的に抹殺するわよ。死ぬ気でやりなさい」
その時だけは、花蓮は必死な表情になっていた。
「姉さま、そんなにワタル様の事を想っているのに・・・・・・・・・。手段として利用してしまうのは、何故なの?」
後ろから睡蓮が、たぶん独り言のように呟くのが分かった。
「睡蓮、好きな人を自分の都合のいいように利用できなくては組織のトップになんて、なれないわよ。逆に組織のトップはみんなそんなやつばかりよ。覚えていた方がいいわ」
「分かったなの」
睡蓮の当惑した口調に、まだまだ睡蓮は甘いと思ってすまう。そんなんでは、もし自分に何かがあったときに魔石川商事を任すことはできない。
もう少し、鍛えないといけない。と思った。